空振り2球で追い込みながら、決めにいったフォークをスタンドまで運ばれる。阿知羅が釜元に打たれた衝撃の初回先頭打者アーチを見ながら、今年もこのテーマで記事を書く日が来たのかと悟った。パ・リーグの選手はなぜ育つのか…。
釜元って誰?中日スポーツ読者の大多数はこう思ったことだろう。柳田(左脚肉離れ)も上林(右手剥離骨折)もいないソフトバンクの外野手には、まだこんな逸材がいる。中日でいえば高橋と同期の高卒8年目。ソフトバンクにはたくさんいすぎて今さら驚かないが、彼も育成上がりの成功例だ。
過去7年は1軍無安打。しかし、使えば打つ。そう思わせるだけの数字を、彼は残していた。ウエスタン・リーグでは2度の盗塁王(2016、17年)や最多三塁打の常連だった釜元だが、ソフトバンクがすごいのは俊足の左打者だからといって『走り打ち』には育てないところだ。明らかに変わったのは昨季。OPS(長打率+出塁率)が飛躍的に伸びた。・830は広島・メヒア(1・049)に次ぐウエスタン・リーグ2位。強く振り、遠くへ飛ばす。その土台となったのが16、17年の計894打席である。
繰り返し書いてきたが、選手が育つ最も重要なポイントは「試合で使う」ことだ。成功と失敗を繰り返し、練習で工夫する。ソフトバンクは3軍制だから、恐らくこの2年で1000を超える打席を釜元は与えられたはずだ。ここで積んだ経験が、昨季のOPSにつながっている。これまた毎年書いていることだが、ソフトバンクでは当たり前の「年間400打席」を超えた選手は、中日の2軍ではここ10年で岩崎恭平(2010年)しかいない。
「体重を5キロ増やせ。82キロを切ったら試合では使わない」。昨オフ、工藤監督にこう脅された? そうだ。試合に出るために食べて、食べて85キロ。胃袋に詰め込んだ成果は、この日の飛距離を見れば十分に分かった。