6月1日、横浜市の新交通システム「シーサイドライン」の新杉田駅(同市磯子区)で自動運転の車両が逆走し、乗客14人が重軽傷を負った。事故後、シーサイドラインは全線で運行を見合わせていたが、4日に運転士の手動運転で運行を再開した。だが、事故原因は明らかになっておらず、自動運転による全面再開の見通しは立っていない。
シーサイドラインの自動運転は、運行を制御する自動列車運転装置(ATO)が駅側と車両側で情報をやり取りし、路線データや信号情報に基づいて発進や停止、加速を行う。自動車の渋滞解消や環境への負荷低減を目的に、1980年代から全国各地で導入が進んだ新交通システムの1つで、89年の運行開始以来、事故はなかったという。
運行する横浜シーサイドライン(横浜市)の広報担当者は「逆走は今までになく、全く想定していなかった」と話す。原因解明に向け国土交通省などによる調査が行われているが、日本大学の綱島均教授(制御工学)は「車両システムに何かしらのトラブルがあり、前進のはずが後退してしまったのではないか」と分析する。
シーサイドラインの事故を受けて、同様に自動運転で列車を運行している「ゆりかもめ」(東京都)は全車両と地上設備の緊急点検を実施。トラブルに備え、始発駅である新橋、豊洲両駅に係員を配置した。
自動運転の新交通システムの想定外の事故。背景には技術発展が著しい自動車の自動運転と比較して、技術が停滞していたことが考えられるとの指摘もある。工学院大学の高木亮教授(交通システム)は「前方の障害物をカメラなどで認識し、非常に高度な技術を駆使する自動車の自動運転と比べるとプリミティブ(原始的)といえる部分は多い」と語る。
国内ではJR東日本が山手線の自動運転の実証実験を行うなど、鉄道でも自動運転化に向けた動きが進む。高木教授は「これまで鉄道会社は運転士の技術の高さにあぐらをかいてきた部分もあり、自動運転の研究は十分に進んできたとはいえない」と指摘。一方で「少子高齢化を背景にした運転士不足対策や、ラッシュ時の混雑解消に向けた高頻度運転を実現するのに自動運転化は不可欠」(同)であるのも確かだ。
自動運転の進展は事業者だけでなく利用者の利便性の向上をもたらす。だが、安全運行の実績を積んできたシーサイドラインでは不幸な事故が起こってしまった。今回の事故の原因を徹底究明し、鉄道などの自動運転技術のさらなる向上に結び付けていくしかないだろう。
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コメント9件
Take.Haya
今日から手動運転での運行が再開されたとのことですが、自動運転前提の路線で、運転士の訓練は十分なのでしょうか。運転士の人員も十分ではなく、6割程度の運行になっているそうですが、混雑時に、事故が起こらないか心配です。ATS機能だけでも自動で起動
する様に出来ているのですよね。
...続きを読むこれを契機に、現状システムの点検に留める事なく、新交通システムの保安機能が大きく改善される事に期待します。
PorcoRosso
そうでしょうね。特にこの手の路線は途中駅での待避追い越しがない。すると運行管理も単純で始発の順序で走らせればいい、GOとSTOPの管理だけですから。
では30年も問題なくて何故今になってトラブル発生なのか。先日3/31に他方の終着駅の金沢八
景駅を延伸開業しましたので、何かシステムを触ったことが原因かととっさに思いましたが。...続きを読むおるどまん
ATOのウィキペディアに「車両側に設置された車上装置には、各駅間の距離情報と運転パターンが予め記録されており」とあり、駅に到着したら補正をかけるとあります。システムを触らなくても問題なく動くからいいや、で補正がかかりまくった挙句、オーバーフ
ローしたら逆向きに動いちゃいましたとかありそうで怖いです。
...続きを読むGK2
一般
1989年開業で、30年間無事故なんでしたっけ。
全体としてはかなり枯れた(悪い意味ではなく"実績がある"という意味)システムなので、毎日の運航に関わツ部分が「壊れた」とは考えにくいと思います。
新しく付け足した部分、今まで使う機会のなかっ
た部分……つまり、「元からおかしかったが、今まで発覚する機会がなかった」部分が怪しそうです。...続きを読む古い部分ならタイマー的な何か、新しい部分なら元号の変更とか。
渡世人
原始的というかむしろシンプルなのに原因不明の不具合発生したのが大問題でしょう
原始的ではない複雑で高度な車の自動運転になったら
どれだけ故障発生率が上がる事やら
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