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【社説】

天安門事件30年 真相究明に背向けるな

 中国が民主化デモを武力鎮圧した一九八九年の天安門事件から四日で三十年となった。中国は事件封印に躍起だが、国際社会で信頼される真の大国を目指すなら、真相究明に背を向けてはならない。

 中国報道官は五月下旬の記者会見で、外国報道陣が事件について聞くと「政府は早々に一九八九年の『政治的風波』に対する評価を定めている」などと答えた。

 中国語で「風波」とは「騒ぎ」を表す。中国公式発表ですら犠牲者三百十九人とする大事件を「風波」と言うのは、民主化弾圧との批判をかわす狙いに映る。中国は一顧だにしないが、英政府は犠牲者を三千人とも推計する。

 発生日付から「六・四」と呼ばれる事件は国内ネットで検索できず、学校でも教えられない。本紙報道によると、ある高校生が北京の中学時代の同級生に聞いたところ、事件を知っていたのはクラスで二人だけだったという。事件から三十年後の中国の実情である。

 中国は、「天安門後」に生まれた若者には事件を封印し、事件を経験した世代には厳しい報道統制で批判や論評を禁じてきた。

 どの国にも直視したくない恥ずべき過去はあろうが、総括や反省をせず、国民や国際社会の記憶から消し去ろうとするのは、とても誠実な態度とはいえない。

 事件当時の学生指導者の一人で懲役十一年の判決を受けた王丹氏(50)は、亡命先の米国で本紙の取材に「状況は事件当時より悪化している。悲しいが、短期的には中国の民主化が進む希望はない」と悲観的な見通しを示した。

 王氏は事件に先立つ八九年四月に天安門広場で演説し、党や政府の指導者と子弟の資産公開や民間新聞の発行などを訴えた。学生らの運動は、政治腐敗への抗議や社会格差是正など民主化要求を核とするものであったといえる。

 だが、当局は彼らに「動乱分子」のレッテルを貼ったままだ。犠牲者遺族でつくる団体「天安門の母」は九五年以来、真相究明や責任追及を求める公開書簡を出してきたが、事件再評価の動きはない。百二十七人が名を連ねた「天安門の母」のうち、五十六人が鬼籍に入った。

 中国の国防相は二日、シンガポールでの会議の際の質疑応答で、軍による制圧を「正しいやり方」と正当化した。事件を封印する姿勢より強硬で開き直りにも映る。遺族らは納得できないだろう。誠実に真相究明に向き合ってほしい。

 

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