穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック
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割と久しぶりな気がする深夜アップです。

かみ合うようでかみ合わない、二人の少女の平和でのどかな会話をお楽しみください(^^





第55話:”わからないというのは存外強い武器になる?”

 

 

 

さて話は、尋問開始まで戻る。

 

エンリ・エモットの尋問に、”鋼鉄の処女(アイアン・メイデン)”が登場したり、石抱かせたりというような様式美は存在しない。

ただただ、

 

「《マキシマイズマジック/魔法最強化》《ペネトレートマジック/魔法抵抗難度強化》《エクステンドマジック/魔法持続時間延長化》……《ドミネート/支配》」

 

といきなり強化したモモンガ様直伝の《ドミネート/支配》をかけるだけだ。

そりゃこの魔法を素で使えるなら、そういう趣味でもない限り拷問の必要などないだろう。

なんともドライだし、もしラナーならもう少し遊び要素を加えそうなものだが、生憎とエンリは合理主義で、本人は隠してるようだがモモンガや生存が絡まないと存外に面倒臭がり屋だ。

 

ちなみにエンリ、攻撃魔法のバリエーションこそ少ないが、詠唱可能な魔法の数ならデイバーノックに引けは取らない。

色々と謎、あるいは未公開情報が多い神格級(ゴッズ)(?)アイテムの”蓮の杖(ロータス・ワンド)”のサポートやらブーストやらの効果もあり、神聖/光属性の魔法や信仰系魔法のバリエーションは中々のものだ。

事実、本来の彼女の総合Lvでは使えないはずの、一般には「人類では使えない領域」と認識される第7位階魔法をジャンル限定とはいえ平然と使っているのだ。

 

「まず、貴女の名前と国籍、所属、役職、立ち位置なんかを答えてもらえます? あとついでに趣味嗜好なんかを聞いておきますか。何かの突破口になるかもしれないし」

 

そして術に見事に掛かり虚ろな目をしたクレマンティーヌは、

 

「クレマンティーヌ・メルヴィン・クインティア。スレイン法国、六色聖典の一つ漆黒聖典の第九席次。コードネーム”疾風走破”。好きなものはお兄ちゃん。初恋の相手はお兄ちゃん。初めての相手もお兄ちゃん。男はお兄ちゃんしか知らない」

 

かなりの爆弾発言をかましてくれるが、兄に欲情する妹? 妹に欲情する兄? 別にそれがどーしたの?的なエンリ姐さん。

ラナーのように”らのべ”を読みふける趣味は無いが創作物ではわりとありがちなジャンルだし、ラナーによれば『退屈になりがちな日常の中で、背徳感が程よいスパイスになる』と王国貴族の中でもリアルでもままある話らしい。

なので、エンリが注目したのは別のことで、

 

「あらま? まーた法国の方ですか? あの国も懲りませんね。モ、()()()に対し不敬極まりない……ところでその疾風聖典。間違いました”疾風走破”さんがカルネ村に何の用です? 威力偵察か何かですか?」

 

「……わからない。ワタシはなんでカルネ村のそばにいたんだろ?」

 

「はあ? 聞いてるのは私なんですけど?」

 

「わからない。何も思い出せない」

 

無論、人を蘇生させるのが初めてではない……というか、竜王国では割と需要のあるある能力持ちなエンリは、この状況に覚えがある。

そう、死から蘇ったものは数日間の記憶を無くすのだ。

最近だとネムに色目使って返り討ちに合った(ネムが力加減を間違えた)、竜王国産のロリコン(セラブライト)を蘇生させた時がそうだったはずだ。

 

「死んで蘇ったのだから、覚悟はしてましたが……やっぱり、何故カルネ村に来たのかは覚えてませんか?」

 

”こくん”

 

ならばとエンリは気を取り直し、

 

「”疾風走破”、貴女が知ってる記憶の中で一番新しく、そしてカルネ村に来る理由で思い当たることを話してください」

 

「……多分、エ・ランテルに潜伏しているズーラーノーンへの潜入工作」

 

「ズーラーノーン? たしか私の生まれるちょっと前くらいに小さな街をアンデッドのリゾート地に変えた秘密結社だっけ?」

 

原作のエンリと違い、”ただの農家の娘”として生きることが叶わなかったこの世界のエンリは、好む好まざるに関わらず中々に世情に詳しくなってしまった。

 

視線を向けたのはクレマンティーヌではなく、万が一暴れたときの鎮圧(押さえ)役と斬った縁(?)で尋問に付き合ってたブレイン・アングラウスだ。

 

「確かガキの時分にそんな噂話を聞いたような?」

 

とはいえブレインとてまだ三十路には達していない。エンリとの年の差は精々あって10歳程度、21世紀初頭の日本基準なら小学生だ。インターネットが概念すらないこの世界、当時の詳細など知るはずも覚えてるはずも無い。

 

「それで合ってる。……ワタシの任務は、エ・ランテルのズーラーノーンへの潜入。内容は内偵調査」

 

「? なぜそこでカルネ村に来ることになるんです? 確かにウチの村は死の神様を信奉していますが、ズーラーノーンとやらとは無関係ですよ? 神官の私が保証します」

 

エンリがズーラーノーンの詳細を知らなくて幸運だったろう。

もし知ってれば、この時点で大憤怒確定であろう。『そんなチンピラ組織とカルネ村を一緒にするなっ!!』と。

 

「わかってる。大神官長様との話でもカルネ村の話は出てこなかったはず。命令された作戦は、”叡者の額冠”を手土産にエ・ランテルのズーラーノーンと接触。ワタシの立ち位置は、”脱走した()漆黒聖典”だった」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「う~ん……」

 

エンリは思わず腕を組んで考えてしまう。

《ドミネート/支配》の掛かりは完璧。抵抗(レジスト)されてる様子も無い……ならば、コチラを(たばか)ってる可能性は0と考えていいだろう。

 

だからこそ、どうにもクレマンティーヌの任務とズーラーノーンとカルネ村が上手く繋がらない。

失われた数日分の記憶……十中八九、エ・ランテルのズーラーノーンとの接触の中で何かがあったのは間違いないのだろうけど。

すると、

 

『鍵は、その”叡者の額冠”というアイテムと見て間違いないだろうな』

 

不意に空間を揺るがすように声が響き渡り、

 

”ヴォン”

 

ハム音のような音と共に空間が歪む。このエフェクトは《ゲート/転移門》ではなくただの《テレポーテーション/転移》だろう。

額面通りに神に等しい膨大な魔力保有量があるはずの使()()()は、結構魔力的ECO指向なのかもしれない。

 

「ズーラーノーンとは、また随分と懐かしい名を聞いたな」

 

歪みより現れたのは、豪奢な漆黒のフルプレート・アーマーを纏った静観な戦士。

マジックアイテムであるメガネの奥に輝く黒い瞳に短く揃えた黒い髪。左腰に細剣、背に大剣。

今や数多の吟遊詩人に謳われるその姿は、

 

「「お館様っ!?」」

 

ついにド本命、アダマンタイト級冒険者にしてカルネ村領主名代”カルネ村のラスボス(ダークウォリアー)”。興味本位に参上である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

相対的には平和な話デスヨ? 誰も血を流さず済んでるし(笑
何やらクレマンさん(操り人形状態)が爆弾発言してる気がしないでもないですが……王国貴族的には大した話じゃないようですし。
リアル世界史の欧州貴族って色々スゲーなと(汗

そして颯爽と登場のお骨様改めダークウォリアー卿。果たして何しに来たんだか?
無論、単に中二っぽい登場したかっただけと言う可能性も微レ存。


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