穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック
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というわけで久しぶりに将軍様(笑)の登場です(^^





第53話:”クレマンさんよりエンリの方が怖いという風潮”

 

 

 

「《マキシマイズマジック/魔法最強化》……《リザレクション/蘇生》。はい、これでもうすぐ目覚めると思いますよ?」

 

そのやや露出過多な神官服の少女は、事も無げに表向き人類が使える限界とされる第6位階を超える魔法、第7位階魔法《リザレクション/蘇生》を、御丁寧に効果が乱数で決定される魔法を最大値で固定する《マキシマイズマジック/魔法最強化》までかけて使ってみせた。

しかも”蘇生の短杖”(ワンド・オブ・リザレクション)といったマジックアイテムや《オーバーマジック/魔法上昇》による使用可能位階の上げ底などを行わずにだ。

 

エンリ・エモット……第04話にて「何気に第6階位の《ヒール/大治癒》とか第5階位の《死者復活/レイズデッド》なんかをさらっと使いそうで怖い」と書いたが、どうやらそれどころではなかったようだ。

もっとも、これは彼女自身だけの力ではなく、”蓮の杖(ロータス・ワンド)”の()()()()も無視できないところだろう。

どうやらこの神格級(ゴッズ)アイテムの疑いのあるエンリ愛用の杖、ただの鈍器や空間座標攻撃の触媒ではなく、神官などの神職者が使用した場合のみと言う縛りはあるが、神聖/光属性魔法や信仰系魔法限定ではある物の様々なブースト効果があるようだ。

現状のエンリの実力だと、その種の第7位階魔法は使えるが、保有魔力の問題で集団(マス)化はできなさそうではある。

具体的には《リザレクション/蘇生》だけでなく《ホーリー・スマイト/善なる極撃》や、もしかしたら《サモン・エンジェル・7th/第7位階天使召喚》も発動できるかもしれないが、その三つとも対象は1人/1発ずつの発射/1体のみの召喚という感じだろう。

おそらく集団化して使えるのは、デスペナが大きな蘇生系の最下位魔法《死者復活/レイズデッド》が限界ではないだろうか?

ただはっきり言えるのは、純粋な”治癒術師(ヒーラー)”としての腕前ならば、王都にいる”中二な彼女”より格上だろう。

 

また杖の数多の効果も、増大率/増幅率がカルマ値に左右(当然、+なら効果増大。-なら効果減少)されていそうなのだが……驚くべきことに、エンリ・エモットのカルマ値は”()()”なのだ。

 

グを拘束して凹ろうが、法国先遣隊をハリネズミにしようが、マルチロックオンの空間座標攻撃で天使を一掃しようが、繰り返すがエンリのカルマ値は”極善”なのだ。

要するに、彼女にとってそれら全ての行動は悪意の欠片もない、純粋な善行だと思ってやっているのだ。

 

そもそも、エンリ・エモットと言う少女の公的な立ち位置は、お骨の玩具(ペット)……ではなく、偉大なりし”死の神(モモンガ)”に仕えし巫女、女神官だ。

 

他にもカルネ村においては間違いなくモモンガの一番弟子だが、王国という単位で見ればラナーとどっちが先に師弟関係を結んだのか意見の分かれるところだ。

原作におけるエントマとシズの「どっちが妹か?」論争みたいなものだ。

 

死の神の女神官(巫女)である以上、自分の奪った命はモモンガへの奉納になる……神様へのお供物を用意するんだから、それは信者に取り善行以外の何者でもないという論理武装だ。

 

別にこれは人類にとり珍しい発想ではなく、現実の歴史でも聖地奪還に燃える十字軍華やかかりし頃、襲った異教徒の街の住民を皆殺しにし、踝まで異教徒が流した血につかりながら奪った金品を神への供物にしたなんて話が普通に残っている。

当時の()()()()の価値観/世界観では、それらの行動は狂信でもなんでもなく、逆に疑いようも無く「敬虔な信徒による神聖な行為」であった。

嘘だと思うなら「十字軍 蛮行」というキーワードで検索してみるといい。中々に興味深い”欧州史の暗黒面(ファンタジー)”が出てくるはずだ。

はっきり言えば、王国だろうが帝国だろうが法国だろうが、鈴木悟という人間が生きていた惑星(ほし)の上で人類がやらかした悪行の数々から比べればまだまだ甘いと言っていい。

 

要するに人間の価値観なんて物は所詮、人間と言う存在自体がそうであるように万能でも万全でも完全でもない。その時代背景や世界情勢、あるいは時の権力者の意向でいくらでも変遷するということだ。

 

 

 

そこまで極端かどうかはわからないが、エンリも少なからず”そういう()()”があるように見える。

もっともそのぐらい素っ頓狂な価値観だか善悪判断だかが無ければ、とても『死を想え(メメント・モリ)』を教義の根幹としてるような死の神の巫女なぞやってられないだろう。

 

そして中身が原作ラナーと違う意味で異形種じみてるとしても、エンリの力はやはり疑いようもないもので……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「それにしても……蘇生させておいて今更ですけど、ブレインさんがわざわざ誰かの蘇生を頼むなんて意外ですね? それも女の人だなんてけっこうびっくりです」

 

「ちょっとマテ。エンリ、それはかなり誤解を招く発言だろうが」

 

「ああ、いえいえ。特に他意は無いデスヨ? ただ、ブレインさんも女性に興味があったんだなぁ~って。もしかして、こういう(ひと)が好みなんですか?」

 

暗闇から少しずつ意識が浮上する感覚……水の中から声を聞くような不明瞭な音。

それがクレマンティーヌが復活後に最初に感じた五感だった。

 

「ばーか。そういうこっちゃねーよ。ただちょっと手元が狂ったというか……」

 

「はぁ?」

 

「いや、四肢を斬り飛ばす程度で済ませるつもりだったが、誤って()っちまったというか……」

 

(ちょっと待てっ! そんな理由でワタシはバラバラになったんかいっ!?)

 

そう全身全霊でツッコミたかったが、声も出なければ体も言うことを聞かない。

その理由をあえてクレマンティーヌは考えない……というか思考を保留していた。

 

「ハッハァ~っ♪ 未・熟・者ですねぇ~♪」

 

「予想通りのセリフをありがとよ。大体、なんでそんなに楽しげなんだよ?」

 

「だって他人(ひと)失敗(ふこう)は蜜の味って言うじゃないですか♪ それにゼロさんに並び称される”七星剣、前衛の双璧”の片割れの戦闘時の失敗談なんてレアでしょ?」

 

「阿呆抜かせ。()()()に比べれば、俺もゼロもドングリの背比べ。失敗も山積で、万事において(あら)だらけだ」

 

「それはそうですけど……ってどうやら意識が戻ったみたいですよ?」

 

 

 

その向けられた視線を視覚情報として認識した時、クレマンティーヌの背筋に悪寒……本能的な恐怖が走った。

男の方はまだいい。万全の装備でも勝ち目は限りなく0に近いが、思いつく限り何もかも自分に有利な条件を整えられれば、まだなんとかなるかもしれない。

だが、女の方は……

 

「ああ、蘇生したばかりなのでしばらく体も動かせないし声も出せませんから、無理しなくていいですよ? 今は回復を優先してください」

 

とさらりと割ととんでもない発言をしてから、

 

「そうしてもらわないと、こちらとしても聞きたい情報が聞けそうも無いんで。口が動かせないと色々不便ですし」

 

背中にゾクリとした感覚が走る。

この女に悪意は無い。悪意は無いが、

 

「ああ、そう怯えなくてもいいですよ? 私、神官なんで()()()()()()は時には行いますが、拷問とかは趣味じゃないんですよ。無駄に労力かかりますし……確かに合理的な側面はありますがね」

 

エンリは内心、ラナーなら「わたくしもですわ♪ 第一、エレガントじゃありませんもの」とか言い出しそうだな~と思いながら、

 

「頭の中にある情報を引き出す方法なら、別にいくらでもありますし」

 

 

 

クレマンティーヌは思う。

その女の瞳は、法国の中にいる自分のような信仰心の薄い存在とは対極にある”()()()()()”と同じ輝きをしていた、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

という訳で再登場してさっそくかっ飛ばすエンリ姐さん(笑
殺すのも得意だけど、癒したり蘇らせたりも得意とか、ある意味一人で”生死のマッチポンプ”が可能と言う。

まあエンリさん、総合Lvにとらわれない魔法とか使えるみたいだし、この先の伸び域もまだ明らかになってないスペックとかも色々ありそうです(^^


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