超高級ヨットクラブに集う特権階級のために作られたベントレーのビスポークモデル
このモデルは『Galene Edition(ガレーヌ エディション)』と名付けられ、全世界でわずか30台のみが販売される。モデル名の由来は、ギリシャ神話に登場する穏やかな海の女神「ガレーヌ」。英国のラグジュアリーヨットメーカー「Princess Yachts(プリンセス ヨット)」とのチームアップで製作したものだという。
高貴な家柄の人々や富裕層にヨット(セーリング)を趣味とする人が多いのは、ヨットそのものと維持費に莫大なお金がかかるだけではなく、その成り立ちに理由がある。
セーリング文化は国によって異なるが、ヨーロッパやアメリカの場合、その起源は1700年代の英国王室に遡る。イングランド南岸に現在の英国ロイヤルヨットクラブの前身が創設されたのは1815年。植民地時代のアメリカでも1844年にニューヨークヨットクラブが創設された。そして、ヨーロッパとアメリカの貴族、富裕層にヨットを嗜む人が増えていき、大規模な国際ヨットレースが行われるようになったのである。
こうした歴史から、セーリングは伝統を重んじる傾向が強く、スタートの合図には今でも必ずキャノン砲が使われ、ヨットクラブのパーティーにはドレスコードがある。ヨットクラブに入会する際も会員の紹介がなければならない。
彼らは子どものころからヨットクラブで海に関する知識やセーリングを学び、大人たちはクラブの組織活動やヨットレースの企画運営、さらに次の世代の育成も担う。つまり、こうした特権階級においては、ヨットクラブが結社のような役割を果たしているのだ。そう考えると、今回の特別仕様車『ガレーヌ エディション』は、彼ら特権階級のために作られたビスポークモデルともいえるだろう。
メガヨットからインスピレーションを得て作られた内外装のスペシャルなディテール
手がけたのは、これまでのビスポークモデルと同様に、ベントレーが誇るコーチビルディング部門の「Mulliner(ミュリナー)」だ。
透明な水が持つ虹色の輝きをイメージしたエクステリアは、ボディカラーに「グレイシャーホワイト」を採用し、下部には「シークインブルー」のアクセントライン。通常の『コンチネンタルGTコンバーチブル』ではグロスブラックに塗られているフロントグリルも明るいクリームに変更された。フードはダークブルーで、足元にはプロペラデザインの21インチホイールを装着する。
ホワイトと、いわゆるTaup(トープ)を基調としたキャビン内は、シート、ドアの内張り、ステアリングホイールなどに、リネン、ポートランド、ブリュネルといったカラーを組み合わせたレザーを採用。シートのスティッチやセンターコンソールのトリム等はキャメルと青みがかったグレーでまとめられた。
さらに、ヨットの雰囲気を演出するため、ウォールナット素材を敷き詰めてデッキ風にしたパーツがトランクルームなどに配されているのも『ガレーヌ エディション』の特徴だろう。助手席のダッシュボードには、スペイン人イラストレーターのJaume Vilardell氏による直筆のイラストを飾ることもできる。
ちなみに、エンジンは通常モデルの6.0L W型12気筒エンジンではなく、アウディ製の4.0L V8ツインターボが搭載される。
当然のことながら「ガレーヌ エディション」の価格は公表されていないが、すでに全台が予約済みと思われる。そして、そのオーナーは、おそらくメガヨットを所有する別世界の住人たち…。なんともため息が出るような一台である。
Text by Kenzo Maya