フルレストアやホットロッド仕様も! 今も人気を集める2代目Fシリーズ『F-100』
フォードのピックアップの誕生は、今から100年前の1917年に作られたトラックの『モデルTT』に遡る。“Fトラック”ことFシリーズの初代モデルが登場したのは、創業者ヘンリー・フォードの最年長の孫であるヘンリー・フォード2世が社長となり、アメリカ経済が戦争から立ち直りつつあった時代。ちょうど戦後初のフォードの新型乗用車、『カスタム』がヒットしたのと同じころだった。
この間、Fトラックはアメリカの風土や文化に合わせてガラパゴスのように独自の進化を遂げてきた。たとえば、1953年に登場した2代目Fシリーズの『F-100』は、ブリキのおもちゃのような外観、愛らしいフロントマスクなどから、今もって多数のファンを持つ人気モデルだ。
外観、内装、エンジンをフルレストアしてピカピカにするのは当たり前。外装はいわゆる“ヤレた”ままにしつつ、心臓部を最新エンジンに換装するオーナー、さらにはストリートロッドに仕立てて西海岸を流したり、ホットロッド仕様にカスタムしてレースに出場したりするオーナーもいる。
現在の主力モデル『F-150(エフ ワンフィフティ)』シリーズが登場したのは1975年。以降、Fトラックは屈指の人気モデルとなり、全米販売台数のトップに君臨し続けることとなるのだ。
しかし、そうはいっても“たかがトラック”であることに変わりはない。Fトラック、そしてピックアップトラックは、なぜこれほどアメリカの人々の間で愛されているのか。そこにはアメリカならではのカルチャーが存在する。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主人公マーティも憧れたピックアップトラック
アメリカでピックアップトラックが人気を集めるのは、荷物を運ぶという貨物用途が一番の理由ではない。通常は空荷で走らせ、通勤や通学、買い物といった普段使いされることのほうが圧倒的に多いのだ。
人気の理由は地域によっても異なる。たとえば、東海岸では「他人とは違うチョイス」という意外性で人気を集め、西海岸ではそのマッチョなスタイルがファッションとして人気だったりする。中西部や南部では、西部開拓時代に不可欠だった馬を彷彿とさせることなどから、ヨーロッパ車よりもピックアップトラックを持つことのほうがステータスとなっているようだ。
また、キャンパー、ボート、トレーラーなどの牽引するレジャー用の移動車両としてピックアップトラックが使われることも多い。
もうひとつ大きいのが、ピックアップトラックは州によって自動車税が割安となること。そのため、所得の少ない若者たちがこぞってピックアップに乗り始め、急速に普及していった経緯がある。事実、1985年に公開された映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、マイケル・J・フォックスが演じた主人公のマーティが憧れるクルマとしてピックアップトラックが登場するくらいだ(フォードではなくトヨタのピックアップだったが)。
“たかがトラック、されどトラック”、Fトラックはアメリカの人々にとって生活の一部
筆者は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が公開された当時、カップルがピックアップトラックの荷台にブルーシートを被せて水を入れ、即席プールにして愉しんでいるのをロサンゼルスのベニスビーチ近くで見かけたことがある。
また、荷台に芝生を敷いてその上に小屋を置き、2頭のラブラドールレトリバーのための動くハウスにしているピックアップトラックをフリーウェイで目撃もした。これには驚いた。
愉しみ方はぞれぞれで、その可能性は無限に広がっている。“たかがトラック”でも、“されどトラック”なのだ。ピックアップトラックは、アメリカの人々にとって生活の一部であり、レジャーの始まりなのである。
ちなみに、『F-150』の上位機種となる『F-150 Rapter(ラプター)』は、450馬力を発揮するV6エンジンにGM(ゼネラル・モーターズ)と共同開発した10速オートマチックトランスミッションを組み合わせ、“モンスタートラック”の異名を持つ。
新開発の4WDシステムなどを採用し、またアップグレードしたフォックスレーシング製ハイパフォフォーマンスショックアブソーバーを装備するなど、その完璧なスペックはキング・オブ・トラックと呼ぶにふさわしい。価格は4万9250ドル(約537万円)から。日本国内で乗るなら、北海道をおすすめしたい。なにせ、全長約5m、全幅約2mというサイズは、ミニバンよりも大きいのだから、杉並辺りの住宅地では曲がれないのだ。
下のリンクにあるフォードのオフィシャル動画では、アメリカの人々に愛されてきたフォード製ピックアップ100年の歴史を振り返っている。クルマが家電化してEV(電気自動車)が主流となる時代が来ても、アメリカではFトラックが人気車種であり続けるに違いない。
Text by Katsutoshi Miyamoto