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第29回 | ポルシェの最新車デザイン・性能情報をお届け

ポルシェ911GT2 RS──最もスリリングな究極の911

「最も速く最もパワフルな911」。ニューモデルが発表されるたびに謳われるこの言葉は、ポルシェファンにとって、ある種の定型文のようなものだ。しかし、今回ばかりはこの表現がぴったりと言わざるを得ない。イギリスで開催されたモータースポーツイベント「グッドウッド フェスティバル・オブ・スピード」においてワールドプレミアを飾った『911 GT2 RS』は、ポルシェ史上最もスリリングで、誰もが認める最強・最速の一台だろう。

最高出力700ps! わずか22秒で時速300kmに達する『911 GT2 RS』の凄まじい加速力

最高出力700ps。『911 GT2 RS』の凄まじさを伝えるには、この数字だけで十分だ。正確に記すと、最大出力515 kW(700ps)/7000rpm、最大トルク750N・m/2500-4500rpm。最高速度は340km/h、静止状態から100km/hまでは2.8秒、0-200km/hは8.3秒、0-300km/hは22.1秒で加速する。ベースは『911ターボS』の3.8Lツインターボ水平対向エンジンだが、『911ターボS』の最高出力は427kW(580ps)なので、もはや別物といっていいだろう。

劇的な出力向上を可能にしたのは、大型のターボチャージャーだ。また、新たに追加された冷却システムは、エンジンが高温になるとインタークーラーに水を噴射。温度を下げて、極限状態でも最適な出力を発生させる。

もちろん、エンジンを強化するだけでは最速は望めない。『911 GT2 RS』は、車両重量を軽量化。1470kg(燃料満タン時)まで絞り込み、パワーウェイトレシオを2.85kg/kW(2.1kg/ps)へと引き上げた。軽量化のポイントは、採用した素材にある。フロントフェンダーやエンジンフード、ホイールハウジングベント、ドアミラーのアウターシェル、リアのエアインテークなどは、CFRP(カーボンファイバー強化プラスチック)製。リアとサイドのウインドウは軽量ガラス、標準仕様のルーフはマグネシウムを使用している。また、専用開発のエグゾーストシステムは極めて軽量なチタンで、『911ターボ』より約7kgも軽い。もちろん、軽いだけでなく、感情に訴えるサウンドを響かせることはいうまでもない。

モンスター級のエンジンと絞り抜かれた車体から生まれるパワーを路面に伝えるのは、専用にカスタマイズされた「GT 7速ダブルクラッチトランスミッション」、いわゆるPDK(ポルシェ・ドッペル・クップルング)だ。トラクションを途切れさせず、路面へのパワー伝達を可能にしてくれる。

どれほど高速域でも『911 GT2 RS』はドライバーの意図通りにコーナーを駆け抜ける

ポルシェの素晴らしいところは、これだけのパワーを持ちながらも、しっかりと曲がるということだ。特に、サーキット志向の『911 GT2 RS』は、いかにスムーズに、ドライバーの意図通りに曲がれるか、その一点に持てるべき技術のすべてをつぎ込んでいる。

たとえば、スタビライザーに加え、車高、キャンバー角、トー角は個別に調整が可能。また、ポルシェのロードモデルでは初めて、シャシーすべてのベアリングにボールジョイントを採用した。これにより、シャシーとボディが一体化され、正確でダイレクトな挙動がもたらされている。さらに、エンジンマウントの固さを必要に応じて切り替える機能を搭載。急激な荷重移動や高速コーナリング時でも、高い走行安定性を確保する。

走行状況、ステアリング操作、走行速度に応じてリアアクスルを操舵する「リア アクスル ステアリング(後輪操舵システム)」も健在だ。スポーツ性を高め、高速域で走行安定性と俊敏性が向上。タイトコーナーを攻める際によりダイナミックに駆け抜けることができる。

エクステリアは、『911シリーズ』を踏襲している。空力特性に優れた形状の大型のフロントエアインテークは、冷却効率も最適化。リアでは、大型の固定式リアスポイラーがトラクション性能の向上をもたらす。もし、このモンスターポルシェをさりげなく主張したければ、オプションの「ヴァイザッハ パッケージ」を選ぶと特徴的な外観が手に入る。

このオプションパッケージは、さらに約30kgの軽量化をもたらす。ルーフ、スタビライザー、そして前後アクスルのカップリングロッドもカーボン製となる。ラゲッジコンパートメントリッドとルーフには、ボディカラー同色のセンターストリップがあしらわれ、ひと目で特別な911であることを主張してくれる。

選ばれし『911 GT2 RS』のオーナーだけが巻くことができるポルシェ最新クロノグラフ

インテリアは、標準装備のレッドアルカンターラ、ブラックレザー、カーボン模様仕上げでコーディネート。また、オーディオ、ナビゲーション、通信を一括制御するPCM(ポルシェ コミュニケーション マネージメントシステム)には、「コネクト プラスモジュール」と「ポルシェ トラック プレシジョン アプリ」も標準で含まれており、走行データの詳細な記録、表示、分析をスマートフォン上で行うことができる。

ちなみに、今回はオーナーのみが購入できる限定ウォッチ『ポルシェ デザイン911 GT2 RSクロノグラフクロノグラフ』も発売。ポルシェ デザインが3 年を費やして開発した初めてのクロックムーブメントが搭載されているという。

「RS」は、ドイツ語でレーシングスポーツを意味する「Renn Sport」の頭文字だ。もともとは、スポーツカータイプのレーシングモデルに与えられていたが、1973年に発売された『911 カレラRS』以降は、抜きんでた走行性能を持つ特別な911に与えられる2文字となっている。

その「RS」を冠した最新モデル。「最新のポルシェが最良のポルシェ」の言葉に従えば、最高の一台であることは間違いない。

Text by Tsukasa Sasabayashi

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第51回 | ポルシェの最新車デザイン・性能情報をお届け

甦る伝説のイエローバード──ルーフCTRアニバーサリー

1990年からシリーズ全体で20年以上にわたり連載されてきた楠みちはるの『湾岸ミッドナイト』。大人のカーガイなら、主人公が駆る「悪魔のZ」の永遠のライバルとして登場する漆黒の930型ポルシェ『911ターボ』、通称「ブラックバード」を覚えていることだろう。じつは、この最高出力700psのモンスターマシンと似たスペックをもつカスタムモデルが実在する。ルーフ・オートモビルによる930型ポルシェ『911』をベースにしたコンプリートカー、「イエローバード」こと初代『CTR』だ。3月のジュネーブモーターショーでは、初代の誕生30周年を記念したアニバーサリーモデルが発表された。

ポルシェのようでポルシェではない。340km/hを記録した伝説の「イエローバード」

ポルシェのようだが、じつはポルシェではない。ポルシェのボディシェルを使いつつも、まったくのオリジナルのハイパフォーマンスカーを製造する世界的な自動車ブランド。それがドイツ南部のプファッフェンホーフェンに本拠を置くRUF Automobile(ルーフ・オートモビル)だ。もともとポルシェ車のチューナーだったが、1980年代から独自のコンプリートカーを生産・販売し、ドイツの自動車工業会にも属している。小規模ではあるが、卓越した技術力によってユーザーの信頼を集めるれっきとした自動車メーカーなのだ。

ルーフの名は、1987年に発表された初代『CTR“イエローバード”』によって世界中のスポーツカーファンに認知された。930型『911カレラ』をベースに、排気量を3.4Lへと拡大。チューンナップされたインタークーラー付きのツインターボエンジンは最高出力469ps、最大トルク553Nmのパワーを発生する。アメリカの老舗自動車雑誌『ロード&トラック』がフォルクスワーゲンのテストコースにスーパーカーを集めて行った走行テストでは、ランボルギーニやフェラーリを抑えて当時の市販車最速となる約340km/hを記録した。これにより、ルーフと『CTR』の名を世界に知らしめたのである。ちなみに、「イエローバード」の異名は『ロード&トラック』が誌面で使ったキャッチに由来する。

販売台数はわずか30台。バブル景気だった日本には10台近くが、あるいはそれ以上の台数が上陸したといわれる。この「イエローバード」をルーフの技術力によって現代に甦らせたモデルが、ジュネーブで発表された『CTR Anniversary(アニバーサリー)』だ。

『CTRアニバーサリー』は最高出力710ps、最高速度360km/hのモンスターマシン

『CTRアニバーサリー』は、2017年のジュネーブモーターショーで発表されたプロトタイプ、『CTR 2017』の市販バージョンとなる。前述のとおり、初代『CTR』は930型『911』をベースとしたが、『CTRアニバーサリー』はポルシェのボディシェルを使用していない。モノコックシャシーやボディはルーフが独自に開発したもの。つまり、一見すると古いポルシェのようだが、このクルマはベースが存在しないまったくのオリジナルなのだ。

モノコックとボディにはカーボンファイバーを採用し、それによって総重量1200kgという軽さを実現。ルックスは初代『CTR』のイメージをそのまま踏襲しているが、『CTRアニバーサリー』専用のエクステリアとして、リアに大型のウィングを装着する。

思わず唸らされたのがエンジンルームだ。『911』といえば、古いポルシェファンなら空冷エンジンの印象が強いと思うが、『CTRアニバーサリー』は往時の空冷エンジンを彷彿とさせるクラシカルなデザインをあえて採用した。しかし、そこに搭載されるのは、ツインターボを装着した排気量3.6Lの水平対向6気筒エンジン。最高出力710ps、最大トルク880Nmのパワーを発揮し、最高速度は360km/hに達するモンスターぶりである。

甦った「イエローバード」は全台ソールドアウト。NAエンジンの現行型は販売継続

残念ながら、『CTRアニバーサリー』はすでに生産予定の30台が全台売約済み。プロトタイプの『CTR 2017』が発表された時点でソールドアウトしたとの一部報道もある。

ただし、ルーフには今回の『CTRアニバーサリー』とカーボンシャシーやボディを含めた多くの仕様が共通する『CTR SCR』という現行モデルがある。搭載するのは710psのツインターボではなく自然吸気エンジンだが、現在も販売を継続中だ。ポルシェのようでポルシェではないコンプリートカーをお望みなら、こちらを選択する方法もあるだろう。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) RUF Automobile GmbH
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
メイキング・オブ RUF CTR 2017
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