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第89回 | 大人のための最新自動車事情

あえてセダン──SUVではなくセダンを選ぶべき理由

現在の40代が子どものころ、商用以外のクルマは「自家用車」「マイカー」と呼ばれ、それはセダンを意味していた。1990年ごろには、トヨタ『マークII』や『クラウン』が月に2万台以上も売れ、『カローラ』とあわせて販売台数ランキングのトップ3を独占していたこともある。しかし、2000年代以降、実用性に優れたクルマの人気が高まり、次第にセダンは不人気車種となっていく。いまや女性に人気があるのもセダンではなくSUVだ。とはいえ、セダンの魅力が色褪せたわけではない。クルマの本質を知る大人のカーガイにはセダンにこだわり続ける人も多いのだ。今あえてセダンに乗るべき理由とは?

世界市場の新車販売台数を見るとはっきりわかる「好調SUV」「セダン凋落」の傾向

セダン人気の凋落は、世界最大級の自動車市場である北米の新車販売台数からも見て取れる。SUVが2017年1〜3月の新車販売台数で前年同期比5.9%増の249万1150台と伸びているのに対し、セダンは同11.5%減の403万3045台と大幅に落ち込んだ。市場リサーチ会社「IHSオートモーティブ」によれば、日本を含む世界の自動車販売全体でも、いまやSUVの占める販売比率は25%に達している。

なぜセダンは売れなくなったのか。ひとつは、1990年代半ばのRV(レクリエーショナル ビークル)ブーム以降、クルマに実用性や居住性、ファッション性がより求められるようになったこと。また、自動車メーカーにとっては、セダンよりもSUVのほうが利幅も大きいという。その結果、セダンの販売台数が激減。ポルシェ『カイエン』の登場以降は、フォーマルな場にも使えるラグジュアリーSUVも続々と市場に投入され、さらにセダン人気が下降していった。

しかし、SUVが世界的に注目を集める今だからこそ「セダンの魅力を見直すべき」と話すのはモータージャーナリストの工藤貴宏氏だ。「たしかに、SUVは多くの人や荷物を乗せられる。その実用性の高さがSUVの最大の魅力といっていいでしょう。しかし、クルマの本質は、あくまでもセダンにあります」

キャビンと荷室が分かれた「馬車=セダン」、人と荷物を混載していた「駅馬車=SUV」

工藤氏は、自ら「SUVファン」を公言するモータージャーナリストだ。にもかかわらずセダンを推すのには理由がある。

「セダンのルーツは馬車にあります。人の移動手段が馬車だったころ、乗員が乗るスペース(キャビン)と荷物を載せるスペース(トランク)は分けられていて、これを『セダン』と呼んでいました。それに対し、人と荷物を混載していたのが駅馬車、つまり『ステーションワゴン』です。乗用車とは、キャビンが独立したセダンを指し、それがクルマ本来の姿なのです」

セダンは当時から高貴かつフォーマルな乗り物で、おもに上流階級に愛用されてきた。人々の移動手段がクルマに変わり、クルマが大衆化していっても、セダンに普遍的な美しさや形式美が宿っているのはそのためだという。

「一方、SUVは作業車から発展したカテゴリで、靴でいえばスニーカーのようなものです。しかし、いくらスニーカーの実用性が高く、ファッションとして定着しても、革靴やハイヒールが持つ形式美とは別物。セダンはコンサバティブなスタイルですが、だからこそ、その美しさは普遍なのです」

SUVやミニバンに比べてねじれや振動が少なく、運動性能が高いセダンのボディ形状

セダンの良さは形式美だけではない。じつは、走りの面においてもSUVよりセダンのほうが優れているという。現在のSUVも運動性能や快適性能を十分以上に備えているが、セダンとSUVではボディ形状自体がまったく違うからである。

「キャビンとトランクが分かれているセダンのボディ形状は、それぞれが一体の大きな箱となっているSUVやミニバンに比べて剛性が高い。ボディの剛性が高ければ、ねじれや振動などが起こりにくくなり、走りのもしっかりする。また、共鳴の発生も抑えられるため、静粛性も高くなるのです」

この点については、大型のワンボックスカーをドライブしたことがある人なら感覚的にわかるはずだ。工藤氏によれば、より鋭い感覚を持つドライバーなら、運転すれば同じ車種のセダンとステーションワゴンの走りの違いもわかるという。

「さらに、セダンはSUVに比べて重心が低いためにフラつきにくく、ハンドリングや運動性能も高い。重心が低ければフラつきを押さえるためにサスペンションを固くする必要もなくなるので、当然、乗り心地も良くなります」

この「絶対的な基本性能の高さ」も、セダンにこだわるべき要素のひとつといえるだろう。

もっとも、それでもSUVを選ぶ人もいるかもしれない。それ自体はなにも問題なく、その人にとってより良い選択となるに違いない。しかし、セダンの販売台数が減少する今、あえてセダンに目を向けてみることで、より深くクルマの本質的な魅力を知ることができるのもたしかなのだ。

Text by Muneyoshi Kitani

取材協力
工藤貴宏
モータージャーナリスト、自動車ライター
自動車雑誌編集を経て、フリーランスのジャーナリストへ。新車紹介や試乗記事を中心に雑誌やWebに寄稿する。年間試乗台数は250台。「車は誰を幸せにするのか?」をテーマに独自の切り口でクルマを評価する。
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エモーションEV──バタフライドアの電動スポーツカー

ポルシェ初の量産EVスポーツカーとして話題の『タイカン』は今年生産を開始し、驚異的なスペックを誇るテスラのスーパースポーツカー『ロードスター』も2020年の発売を予定している。EVスポーツカーは、いま旬を迎えつつあるカテゴリだ。そうしたなか、アメリカのフィスカーがCES 2019で初公開した『エモーションEV』が予約受付を開始した。バタフライ4ドアが特徴の高級フルEVスポーツは、いったいどんなクルマなのか。

BMW『Z8』やアストンマーチン『DB9』のデザイナーが手がけた高級スポーツEV

フィスカー『エモーションEV』は、ヘンリック・フィスカー氏の手によるエレガントなデザインの高級EVスポーツカーだ。フィスカー氏はデンマーク出身の著名なカーデザイナー。BMWに在籍していた当時に『Z8』、EVコンセプトモデルの『E1』などを手がけ、アストンマーチンでは『DB9』『DBS』『ヴァンテージ』のデザインを担当した。

その後、独立してメルセデス・ベンツやBMWをベースにしたコンプリートカーやハイブリッドエンジン搭載のオリジナルモデルを製作するが、じつは、テスラで『ロードスター』『モデルS』の2モデルの開発に参加したこともあるようだ。そのせいというわけではないだろうが、『エモーションEV』のデザインはどこかテスラに似た雰囲気もある。

ともあれ、スタイリングは「美しい」のひと言に尽きる。とりわけ特徴的なのは、開くとドア側面が蝶の羽のような形に見える「バタフライ4ドア」だ。同じ上部に向かって開くドアでも、縦方向に開くシザースドアと違い、バタフライドアは外側が斜め前方に、内側が下向きに開く。駐車スペースに苦労する日本ではなかなかお目にかかれないドアだ。

バッテリーはリチウムイオンではなく炭素素材コンデンサ。多くの先端技術を搭載

面白いのは、バッテリーに多くのEVに採用されるリチウムイオンではなく、炭素素材コンデンサのグラフェンスーパーキャパシタを採用したことだ(全個体充電池搭載モデルもラインナップ)。1回の充電あたりの最大走行距離は約640km。急速充電の「UltraCharger」に対応しており、9分間の充電で約205km分の容量までチャージ可能という。

EVパワートレインは最高出力700psを発生し、最高速度は260km/h。このスペックを見ると、テスラ『ロードスター』のようなEVスーパースポーツではなく、あくまでスポーティカーという位置づけなのだろう。全長5085×全幅2015×全高1465mmのボディは軽量のカーボンファイバーとアルミニウムで構成され、駆動方式は四輪駆動だ。

このほか、ADAS(先進運転支援システム)としてクアナジー製LIDARセンサーを5個搭載し、コネクテッドなどのEVスポーツカーらしいさまざまな先端技術を装備する。

『エモーションEV』の価格は1440万円。予約も開始され今年中にデリバリー予定

前述の通り、『エモーションEV』はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルと全個体充電池搭載モデルの2モデルを設定。価格はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルが1440万円(税別)、全個体充電池搭載モデルの価格は未定だ。すでに日本でもデロリアン・モーター・カンパニーを正規代理店に予約受付を開始しており、グラフェンスーパーキャパシタは今年中の納車を予定している。ただし、予約金として約24万円が必要だ。

最近では東京都心部などでテスラをよく見かけるようになり、もはやEVは現実的な乗り物になりつつある。たしかに価格は1000万円オーバーと高価。しかし、この美しいルックスなら、他人と違うクルマに乗りたいという欲求を満たすことができるのではないか。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Fisker, Inc.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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