レースで培った技術による品質でスポーツカーの頂点に立ち続けるポルシェ『911』
911は1963年に初代モデルが発売されて以来、RR(リアエンジン・リアドライブ)のレイアウトを変えることなく、高級スポーツカーの頂点に君臨してきた。初代911の登場から半世紀以上が経っても、その人気はまったく衰えず、2016年だけでも全世界で過去最高の3万2365台が売れたという。
人気の理由のひとつは、ポルシェが培ってきた技術と経験が惜しみなく注ぎ込まれた911の高い品質にある。ポルシェによれば、これまで製造されてきた911の全車両が現在も走行可能だという。アメリカのマーティング調査機関、J.D.パワー社の「初期品質調査」(IQS)による品質ランキングでも、911は常にトップに選ばれているほどである。
そのクオリティの裏付けとなっているのがモータースポーツだ。もともと、911は一般道だけではなく、サーキットを走ることを前提に設計されたスポーツカー。これまでポルシェがレース活動で成し遂げたおよそ3万回の優勝のうち、その半数以上を911で達成している。レースを通じてテクノロジーに磨きをかけ、完成度を高めてきたのが911というスポーツカーなのだ。
今回ラインオフした記念すべき100万台目の911は、この輝かしい伝統と歴史へのオマージュを込めてツッフェンハウゼンのエキスパートたちが作り上げた、まさに特別かつオンリーワンの911だ。
スペシャルカラーの「アイリッシュグリーン」を纏った100万台目のポルシェ『911』
100万台目の911は、MTの『カレラS』をベースに、初代モデルの特徴を受け継ぐいくつかのアイディアが散りばめられている。
まず目を引くのは、クラシカルな「アイリッシュグリーン」のボディカラーだろう。これは初代モデルに採用され、通称「ナロー」と呼ばれる初期の911にもよく見られたスペシャルカラー。リヤフードを飾るゴールドの「PORSCHE 911」のエンブレムも、ポルシェの名を初めて冠したスポーツカー『356』に用いられていた同社の伝統的手法である。ホイールは『718』シリーズに設定されているオプションの20インチ・カレラ・スポーツホイールだ。
インテリアも、クローム仕上げのメーターリング、シートの座面と背面に格子柄のテキスタイルを採用するなど、“レトロモダン”というべき雰囲気を漂わせる。古くからのポルシェファンならば、過去のモデルで見たことがある内装かもしれない。こうしたディテールにもヘリテージへの敬意を感じさせる。
この911は、スペック的には単なる『カレラS』にすぎないが、ポルシェにとってはなにものにも代えがたい特別な意味を持つ。それだけに、ポルシェの上顧客やコレクターがいくらお金を積んでも、このクルマを手にすることはできない。100万台目の911はポルシェ自身が保有し、ポルシェミュージアムのコレクションに加えるまで、スコットランド高地、ニュルブルクリンク周辺、そしてアメリカ、中国など、多くの国を巡るという。もしかすると、日本のポルシェファンが100万台目の911を目にする機会も設けられるかもしれない。
Text by Kenzo Maya