editeur

検索
サービス終了のお知らせ
第88回 | 大人のための最新自動車事情

シボレー アストロ──ミニバンの礎を築いた傑作車

現在、軽自動車とともに国内の自動車市場で人気を集めるミニバン。このミニバンというカテゴリを築き、その元祖のひとつといわれるのが、1985年に初代モデルが発表されたシボレー『アストロ』だ。すでに2005年モデルをもって生産終了してしまっているが、中古車市場ではいまだに人気だという。

バブル景気末期の円高ドル安の波に乗り、盛んに並行輸入されたシボレー『アストロ』

シボレー『アストロ』が日本で広く知られるようになったのは、タレントの所ジョージ氏がきっかけだ。『アストロ』を所有していた氏が、トータルコンセプターとして関わった1991年創刊の自動車雑誌『Daytona(デイトナ)』で、このクルマを紹介。それにより人気に火がついたといわれている。

スライド式のリアドアを開けると現れる広々とした3列シートの室内、そして4300ccのV6エンジンから轟く「ドロッドロッドロッ」という排気音と太いトルク。アメ車といえば、フォード『マスタング』やシボレー『コルベット』といったマッスルカーをイメージしがちだった当時の30代男性が、『アストロ』を知ったことにより、「そういう選択もあるのか」と中古車情報誌を片手に出物を探し始めたそうだ。

折しも時代はバブル末期で、空前の円高ドル安だった時期。円高ドル安で日本の輸出産業は大打撃を受けたが、逆にアメリカのクルマはそれまでよりも安く輸入できるようになった。自動車販売業界が『アストロ』人気を見逃すはずはなく、盛んに並行輸入が行われたという。

そして、三大商社のひとつである三井物産の子会社、三井物産オートモーティブ社が窓口となってアメリカのコーチビルダー、スタークラフト社でカスタマイズされたコンバージョンバンを正規輸入。1993年以降はGM(ゼネラルモーターズ)の輸入販売代理店だったヤナセが正規輸入を開始し、『アストロ』人気はピークに達する。これが1990年代前半に巻き起こった“アストロ・ブーム”だ。一説に、その多くが並行輸入ながら、当時は姉妹車のGMC『サファリ』を含めて年間1万台近くが日本に入ってきたという。

(C)sjoerd.wijsman
(C)sjoerd.wijsman
(C)sjoerd.wijsman

中古車相場での『アストロ』の平均価格は80万円前後、再評価に値する傑作ミニバン

1990年代初め、国産ミニバンにもトヨタ『タウンエース』や日産『キャラバン』があったが、当時はあくまでワンボックスカーでしかなく、室内仕様もシートも貧弱だった。一方、『アストロ』のコンバージョンモデル「スタークラフト」には、FRP製のハイルーフやレザーシート、さらにウッドパネルやシャンデリア、バーカウンターを装備する車両もあり、「走る貴賓室」と呼ばれたほど。それでいて、最上級モデルでも650万円ほどの価格で手に入れられたのだ。

ちなみに、当時のラインナップは、標準モデルの『LS』(2WD、4WD)、上級モデルとなる『LT』(4WD)の3グレード。2005年モデルのスペックは、最高出力193馬力、最大トルク34.6kgmだった。

『アストロ』の魅力はどこにあったのか。それは、なんといっても全幅約2000mm、車重2.5トンの堂々たるボディサイズが醸し出す存在感にある。最新の国産ミニバンと並んでも、いまだに押し出し感では負けていない。巨体をグイッグイッと操る運転感覚や、往年のアメ車ならではの包み込まれるような掛け心地のシートなど、今の40代にしてみると、むしろ新鮮に感じるほどだろう。

たしかにコーナリングとブレーキは頼りないが、無駄にスピードを出さなければ問題はない。V6エンジンの燃費は街乗りでも5km/L以上、同クラスのミニバンと比較しても極端に悪いわけではなく、レギュラーガソリンでも問題なく走る。1980年代のアメ車ゆえに、シャシーもエンジン本体も極めて頑強で、メンテナンスに精通した整備工場が多いのも強みだ。

初代『アストロ』がデビューしてから30年以上、生産終了してから12年が過ぎているが、再評価に値する傑作車ではないだろうか。中古車相場で平均価格は80万円前後。ただし年式・走行距離・程度によってばらつきがある。

(C)Madwon

Text by Katsutoshi Miyamoto

Photo by (C)Chris Langley(main)

ピックアップ
第130回 | 大人のための最新自動車事情

エモーションEV──バタフライドアの電動スポーツカー

ポルシェ初の量産EVスポーツカーとして話題の『タイカン』は今年生産を開始し、驚異的なスペックを誇るテスラのスーパースポーツカー『ロードスター』も2020年の発売を予定している。EVスポーツカーは、いま旬を迎えつつあるカテゴリだ。そうしたなか、アメリカのフィスカーがCES 2019で初公開した『エモーションEV』が予約受付を開始した。バタフライ4ドアが特徴の高級フルEVスポーツは、いったいどんなクルマなのか。

BMW『Z8』やアストンマーチン『DB9』のデザイナーが手がけた高級スポーツEV

フィスカー『エモーションEV』は、ヘンリック・フィスカー氏の手によるエレガントなデザインの高級EVスポーツカーだ。フィスカー氏はデンマーク出身の著名なカーデザイナー。BMWに在籍していた当時に『Z8』、EVコンセプトモデルの『E1』などを手がけ、アストンマーチンでは『DB9』『DBS』『ヴァンテージ』のデザインを担当した。

その後、独立してメルセデス・ベンツやBMWをベースにしたコンプリートカーやハイブリッドエンジン搭載のオリジナルモデルを製作するが、じつは、テスラで『ロードスター』『モデルS』の2モデルの開発に参加したこともあるようだ。そのせいというわけではないだろうが、『エモーションEV』のデザインはどこかテスラに似た雰囲気もある。

ともあれ、スタイリングは「美しい」のひと言に尽きる。とりわけ特徴的なのは、開くとドア側面が蝶の羽のような形に見える「バタフライ4ドア」だ。同じ上部に向かって開くドアでも、縦方向に開くシザースドアと違い、バタフライドアは外側が斜め前方に、内側が下向きに開く。駐車スペースに苦労する日本ではなかなかお目にかかれないドアだ。

バッテリーはリチウムイオンではなく炭素素材コンデンサ。多くの先端技術を搭載

面白いのは、バッテリーに多くのEVに採用されるリチウムイオンではなく、炭素素材コンデンサのグラフェンスーパーキャパシタを採用したことだ(全個体充電池搭載モデルもラインナップ)。1回の充電あたりの最大走行距離は約640km。急速充電の「UltraCharger」に対応しており、9分間の充電で約205km分の容量までチャージ可能という。

EVパワートレインは最高出力700psを発生し、最高速度は260km/h。このスペックを見ると、テスラ『ロードスター』のようなEVスーパースポーツではなく、あくまでスポーティカーという位置づけなのだろう。全長5085×全幅2015×全高1465mmのボディは軽量のカーボンファイバーとアルミニウムで構成され、駆動方式は四輪駆動だ。

このほか、ADAS(先進運転支援システム)としてクアナジー製LIDARセンサーを5個搭載し、コネクテッドなどのEVスポーツカーらしいさまざまな先端技術を装備する。

『エモーションEV』の価格は1440万円。予約も開始され今年中にデリバリー予定

前述の通り、『エモーションEV』はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルと全個体充電池搭載モデルの2モデルを設定。価格はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルが1440万円(税別)、全個体充電池搭載モデルの価格は未定だ。すでに日本でもデロリアン・モーター・カンパニーを正規代理店に予約受付を開始しており、グラフェンスーパーキャパシタは今年中の納車を予定している。ただし、予約金として約24万円が必要だ。

最近では東京都心部などでテスラをよく見かけるようになり、もはやEVは現実的な乗り物になりつつある。たしかに価格は1000万円オーバーと高価。しかし、この美しいルックスなら、他人と違うクルマに乗りたいという欲求を満たすことができるのではないか。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Fisker, Inc.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

ピックアップ

editeur

検索