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第86回 | 大人のための最新自動車事情

14億円のロールスロイス──世界最高価格の乗用車

「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」は、ヨーロッパで最も古い歴史を持つヒストリックカーのコンクールイベントだ。毎年5月にイタリア北部の贅沢なリゾート地、コモ湖に面した高級ホテル「ヴィラ・デステ」の庭園で開かれ、世界中から裕福な紳士淑女が集まり、舞踏会のような雰囲気のなかで貴重な名車を吟味する。しかし、2017年のヴィラ・デステで注目を集めたのはヒストリックカーではなく、ロールスロイスが「究極のビスポーク」として発表したワンオフモデルだった。その名はロールスロイス『スウェプテイル』。驚くべきことに、価格は14億円以上と噂されている。

ロールスロイス通の大富豪の特注によって作られたワンオフモデル『スウェプテイル』

『スウェプテイル』は、普通のロールスロイスではない。ロールスロイス・モーター・カーズのCEO、トルステン・ミュラー・エトヴェシュは、このクルマについて「私たちの特別な顧客のために作りました」と語る。つまり、これは上顧客の依頼により、この1台だけが作られた特別なワンオフモデルなのだ。「自動車のオートクチュール」といえばいいだろうか。

このプロジェクトは、1920年代のロールスロイスを愛する大富豪のオーダーによって、2013年にスタートした。開発はロールスロイスが誇る至高のオーダーメイド部門「ビスポーク」が担当。下のリンクのオフィシャル動画を見ればわかるように、デザイン画に始まり、そのスケッチをもとに粘土で立体化したクレイモデルの製作など、その作業工程は馬車時代から続く伝統的コーチビルダーの仕事そのもの。シャーシやエンジンは既存モデル(おそらくは『ファントム』)を流用しているが、『スウェプテイル』は完成までに4年の月日を費やしたという。

そう考えれば、『スウェプテイル』に14億円以上というおよそクルマとは思えない値段がつけられたのも理解できるはずだ。この途方もない価格は、超高級車ブランドであるロールスロイスのデザイナーや職人たちを自分のために4年間働かせ、自分のためだけの一台を作らせたことへの対価なのである。

豪華絢爛な室内には1970年代物のドン・ペリニヨン専用のシャンパンフルートを装備

フルオーダーメイドだけに、唯一無二のボディラインを持つエクステリア、細部のディテールまで凝りに凝ったインテリア…と、その作り込みは驚くほどに精緻だ。なかでも、目を引くのはルーフトップから後部へと絞り込むように流れるライン。これは1920〜1930年代のロールスロイスのエレガントなフォルムを具現化したもの。

また、『スウェプテイル』は2シーターのクーペだが、オーナーがヨット好きであることから、後部スペースはクラシカルなセーリングヨットのようなデザインと素材を採用。ほかにも、インテリアには随所にヨットを思わせるモチーフが散りばめられ、さらに1970年代物のドン・ペリニヨン専用のシャンパンフルートなど、浮世離れした仕掛けも備えている。ちなみに、この1970年代物のドン・ペリニヨンも、オーナーが愛飲するお気に入りの品だという。

このロールスロイスは単なるクルマではない。超一流の設計士がデザインした大豪邸、あるいはプライベートジェットや超豪華ヨットのような現実離れした世界の代物に近い。我々には想像もできないが、世界にはクルマ一台に14億円を支払う人が現実に存在するのだ。4年をかけてたった一台のみが作られた14億円のロールスロイス。間違いなく世界最高価格のクルマといっていいだろう。

Text by Kenzo Maya

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第130回 | 大人のための最新自動車事情

エモーションEV──バタフライドアの電動スポーツカー

ポルシェ初の量産EVスポーツカーとして話題の『タイカン』は今年生産を開始し、驚異的なスペックを誇るテスラのスーパースポーツカー『ロードスター』も2020年の発売を予定している。EVスポーツカーは、いま旬を迎えつつあるカテゴリだ。そうしたなか、アメリカのフィスカーがCES 2019で初公開した『エモーションEV』が予約受付を開始した。バタフライ4ドアが特徴の高級フルEVスポーツは、いったいどんなクルマなのか。

BMW『Z8』やアストンマーチン『DB9』のデザイナーが手がけた高級スポーツEV

フィスカー『エモーションEV』は、ヘンリック・フィスカー氏の手によるエレガントなデザインの高級EVスポーツカーだ。フィスカー氏はデンマーク出身の著名なカーデザイナー。BMWに在籍していた当時に『Z8』、EVコンセプトモデルの『E1』などを手がけ、アストンマーチンでは『DB9』『DBS』『ヴァンテージ』のデザインを担当した。

その後、独立してメルセデス・ベンツやBMWをベースにしたコンプリートカーやハイブリッドエンジン搭載のオリジナルモデルを製作するが、じつは、テスラで『ロードスター』『モデルS』の2モデルの開発に参加したこともあるようだ。そのせいというわけではないだろうが、『エモーションEV』のデザインはどこかテスラに似た雰囲気もある。

ともあれ、スタイリングは「美しい」のひと言に尽きる。とりわけ特徴的なのは、開くとドア側面が蝶の羽のような形に見える「バタフライ4ドア」だ。同じ上部に向かって開くドアでも、縦方向に開くシザースドアと違い、バタフライドアは外側が斜め前方に、内側が下向きに開く。駐車スペースに苦労する日本ではなかなかお目にかかれないドアだ。

バッテリーはリチウムイオンではなく炭素素材コンデンサ。多くの先端技術を搭載

面白いのは、バッテリーに多くのEVに採用されるリチウムイオンではなく、炭素素材コンデンサのグラフェンスーパーキャパシタを採用したことだ(全個体充電池搭載モデルもラインナップ)。1回の充電あたりの最大走行距離は約640km。急速充電の「UltraCharger」に対応しており、9分間の充電で約205km分の容量までチャージ可能という。

EVパワートレインは最高出力700psを発生し、最高速度は260km/h。このスペックを見ると、テスラ『ロードスター』のようなEVスーパースポーツではなく、あくまでスポーティカーという位置づけなのだろう。全長5085×全幅2015×全高1465mmのボディは軽量のカーボンファイバーとアルミニウムで構成され、駆動方式は四輪駆動だ。

このほか、ADAS(先進運転支援システム)としてクアナジー製LIDARセンサーを5個搭載し、コネクテッドなどのEVスポーツカーらしいさまざまな先端技術を装備する。

『エモーションEV』の価格は1440万円。予約も開始され今年中にデリバリー予定

前述の通り、『エモーションEV』はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルと全個体充電池搭載モデルの2モデルを設定。価格はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルが1440万円(税別)、全個体充電池搭載モデルの価格は未定だ。すでに日本でもデロリアン・モーター・カンパニーを正規代理店に予約受付を開始しており、グラフェンスーパーキャパシタは今年中の納車を予定している。ただし、予約金として約24万円が必要だ。

最近では東京都心部などでテスラをよく見かけるようになり、もはやEVは現実的な乗り物になりつつある。たしかに価格は1000万円オーバーと高価。しかし、この美しいルックスなら、他人と違うクルマに乗りたいという欲求を満たすことができるのではないか。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Fisker, Inc.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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