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【社会】

家族、SOS出して ひきこもり支援団体など訴え

 長男を刺殺したとして殺人容疑で送検された元農水次官の熊沢英昭容疑者(76)が「川崎市の殺傷事件のようになってはならない」と供述した事件は、ひきこもりの問題を抱える家族や支援団体の関係者に動揺を広げている。 (神野光伸、松尾博史、原尚子)

 「SOSを出してほしかった」。二十歳から十年間ひきこもりの生活を続けた長男(37)に悩んできた千葉県松戸市の元教員の女性(70)は、熊沢容疑者の事件にやり切れない思いがぬぐえない。

 一週間前、ひきこもりがちだったとされる男(51)が川崎市で二十人を殺傷し自殺した事件に「全てのひきこもりへの風当たりが強まることが心配」と心を痛めていた。知り合いの家族たちに「ひょっとしたらうちの子も」と不安が広がることを懸念していたところだった。熊沢容疑者は長男から家庭内暴力を受け続けたとされるが、女性の長男は家庭内暴力を振るったことはなく、ひきこもりの家族が抱える問題も同じではないと訴える。

 ひきこもりの長期化に行政も無策ではない。十五~三十四歳のひきこもりの当事者やその家族を訪問してきた東京都は「看過できない問題」(担当者)として、今月三日、訪問対象の上限を三十五歳以上に拡大した。

 ただ、北海道函館市でひきこもりの家族を支援する道南ひきこもり家族交流会「あさがお」事務局の野村俊幸さん(69)は「問題を打ち明けられず、孤立してしまう人も少なくない」と指摘する。家庭の悩みを打ち明け合ってきた約八十人の会員も高齢化が進む。「(熊沢容疑者の事件は)決して人ごとではない。支援団体などに相談してもらえれば」と話した。

 山梨県の「山梨不登校の子どもを持つ親たちの会」(ぶどうの会)にも、ひきこもりを続ける成人の親からの相談が少なくない。鈴木正洋代表(75)は「ひきこもりが関与する事件ばかりがクローズアップされれば、当事者やその家族を追い詰めてしまいかねない」と懸念する。

 NPO法人「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」(本部・東京)の理事でジャーナリストの池上正樹さん(56)も「『ひきこもりの人は事件を起こす』という誤解が広がることで、当事者が萎縮し、ますます外に出られなくなる。すでに、そういった相談が寄せられている」と、当事者や家族の心痛をおもんぱかる。

 当事者が地域の人と交流できる「居場所居酒屋」も運営するNPO法人「パノラマ」(横浜市)の石井正宏代表理事(50)は、「中高年世代のための社会資源が全く足りない」ともどかしがる。「十代で社会からこぼれた若者が支援につながるまで十年。その間に病気や家庭内暴力の問題が出てきて問題が複雑化する。中高年のひきこもりは行政が問題を放置した結果」と嘆いた。

 

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