事故に遭った乗客はすごい恐怖を味わっただろう。横浜市の新交通システムの逆走事故で十四人が重軽傷を負った。同型の無人車両は各地で運行されており、原因の徹底究明は待ったなしだ。
横浜市の湾岸沿い十一キロ(新杉田-金沢八景間)を走る「金沢シーサイドライン」は、一九八九年から運行を開始し、九四年に無人化した。自動列車運転装置(ATO)を搭載し、路線状況を隅々まで記憶したコンピューターの制御で動く仕組みだ。
運行は司令室の職員が常に監視する。だが事故の際、異常を示す信号がATOから送られた形跡はなかった。
運営会社「横浜シーサイドライン」の三上章彦社長は「逆走は想定外だった」とする。しかし現実に車両は二十五メートルも逆走した。車止めがなかったらさらに暴走し壁などに激突した恐れがある。
同型システムは東京都の「ゆりかもめ」や九三年にオーバーラン事故を起こした大阪市の「ニュートラム」、神戸市の「ポートライナー」など横浜含め計七路線ある。通勤通学客だけではなく国内外の観光客も日常的に乗っており「想定外」ではすまされない。
駆動の仕組みは異なるが無人運転で名古屋市と豊田市を高速で結ぶ「リニモ」も緊急点検し、一部区間では職員を常駐させた。当然の措置である。この際、全国の無人運転列車の安全性を念には念を入れて確かめるべきだ。
事故路線は毎日約五万人が利用している。ここで指摘したいのは国の原因究明がなされないまま焦って運行再開することだ。
運営会社は他の交通機関と連携し代替輸送などに全力を尽くす必要がある。再開の場合でも乗客の心理面を考慮し、リニモ同様職員を常駐させるべきだろう。
気になるのは「新交通」という呼び方だ。最も古いポートライナーは八一年開業だ。各路線とも最新の技術なのか疑問が残る。
無人運転の場合はあらゆる事態を想定し、自動停止で事故を防ぐ機能が必要不可欠だ。だが今回、逆走事故を防ぐ機能はなく、構造欠陥を抱えたシステムが長期間にわたり使われていた可能性さえある。
無人運転とはコンピューター運転の言い換えだ。だが安全を担保するのはあくまで人間による不断の努力であるべきだ。機械が何を起こしたのか。その解明なくして無人の乗り物が人を運ぶことはあり得ないはずだ。
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