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第82回 | 大人のための最新自動車事情

SRTデーモン──ウィリーできる邪悪なマッスルカー

エネルギー消費量とCO2排出量の削減は、いまや自動車メーカーにとって最重要テーマのひとつである。排ガス規制を考慮しない大排気量、大パワーのクルマは前時代の遺物となりつつあり、各国のモーターショーには電気を動力源とするIoT家電のような未来のクルマが並ぶ。そんななか、2017年4月に行われたニューヨークオートショーで、時代に抗うかのような“狂気のモンスターマシン”が発表された。その名は、ダッジ『チャレンジャー SRT デーモン』。最高出力は驚異の840馬力、あり余るパワーとトルクにより前輪を浮かせたウィリー走行まで可能とする、邪悪なまでに猛々しい史上最強・最速のマッスルカーである。

ゼロヨン加速は市販車最速の9.65秒! 邪悪な速さの『チャレンジャー SRT デーモン』

ダッジは「パワーこそ正義」というべき豪快でマッチョなクルマを得意とするアメ車ブランドだ。すでに生産終了したが、“現代版コブラ”として開発された『ヴァイパー』もダッジが作ったスポーツカーである。2003年のデトロイトショーでは、この『ヴァイパー』のアルミ製8.3L V10エンジンをそのまま搭載したマンガに出てくるようなコンセプトバイク『トマホーク』を発表。問い合わせが殺到したために、限定10台を約6500万円の価格で販売している。

しかし、“イカれている”という意味において、4月のニューヨークオートショーで発表された『チャレンジャー SRT デーモン』は過去のどのモデルよりも上だ。

パワーユニットは、6.2LのHEMI仕様DemonV8エンジン。「HEMI(ヘミ)」とは、ダッジブランドを展開するクライスラーのパーツ部門で、NASCAR(ナスカー)などのレース活動を行っている「MOPER(モパー)」が仕上げた高性能エンジンのこと。スーパーチャージャーで過給することにより、最高出力はじつに840馬力に達するという。これはV8エンジンの量産車としては歴代最高馬力で、もっともパワフルなフェラーリを40馬力も上回る。

この常軌を逸した大パワーにより、『SRT デーモン』は0-100km/hを2.3秒で加速し、クォーターマイル(約400m)にも市販車最速の9.65秒で到達する。スーパーカーのさらに上をいく怪物ぶりで、ダッジが自らそう呼ぶように、まさに「邪悪な速さ」だ。

クルマでありながらウィリー走行を達成し、ギネスにも認定された『SRT デーモン』

さらに『SRT デーモン』が“イカれている”のは、このクルマが加速力によってフロントタイヤを持ち上げる──つまりウィリーまで可能とすることだ。

スタートと同時にアクセルを一気に踏み込めば、後輪から猛然と白煙を噴き出し、その大パワーによって前輪を浮かせ、そのまま2.92フィート(約89センチ)走るのである。『SRT デーモン』は世界で初めて前輪リフトを達成した量産車として、ギネスワールドレコーズの認定も受けている。「正気の沙汰じゃない」との声が聞こえてきそうだが、ダッジは「パフォーマンスカー業界全体の基盤を揺るがすことになるだろう」と胸を張る。まるで「誰だってクルマでウィリーしたいだろ?」とでも言いたげに。

当然ながら『SRT デーモン』は限定生産モデルで、2017年秋以降にアメリカで3000台、カナダで300台が販売される予定という。しかし、こんなクレイジーなクルマを操ることのできるドライバーは滅多にいない。使い道として想像できるのは、アメリカで多大な人気を集めるドラッグレースに出場することだが、ドラッグレース団体の「NHRA(ナショナル ホットロッド アソシエーション)」は、あまりに速すぎるとして『SRT デーモン』の出場を禁止してしまった。

強大すぎるパワーとトルクによってウィリーもできる邪悪なマッスルカー。環境への配慮はもちろん大切なことだが、クルマ好きにとって、こうした突き抜けたマッスルカーが登場するといつだってワクワクさせられる。

Text by Kenzo Maya

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第130回 | 大人のための最新自動車事情

エモーションEV──バタフライドアの電動スポーツカー

ポルシェ初の量産EVスポーツカーとして話題の『タイカン』は今年生産を開始し、驚異的なスペックを誇るテスラのスーパースポーツカー『ロードスター』も2020年の発売を予定している。EVスポーツカーは、いま旬を迎えつつあるカテゴリだ。そうしたなか、アメリカのフィスカーがCES 2019で初公開した『エモーションEV』が予約受付を開始した。バタフライ4ドアが特徴の高級フルEVスポーツは、いったいどんなクルマなのか。

BMW『Z8』やアストンマーチン『DB9』のデザイナーが手がけた高級スポーツEV

フィスカー『エモーションEV』は、ヘンリック・フィスカー氏の手によるエレガントなデザインの高級EVスポーツカーだ。フィスカー氏はデンマーク出身の著名なカーデザイナー。BMWに在籍していた当時に『Z8』、EVコンセプトモデルの『E1』などを手がけ、アストンマーチンでは『DB9』『DBS』『ヴァンテージ』のデザインを担当した。

その後、独立してメルセデス・ベンツやBMWをベースにしたコンプリートカーやハイブリッドエンジン搭載のオリジナルモデルを製作するが、じつは、テスラで『ロードスター』『モデルS』の2モデルの開発に参加したこともあるようだ。そのせいというわけではないだろうが、『エモーションEV』のデザインはどこかテスラに似た雰囲気もある。

ともあれ、スタイリングは「美しい」のひと言に尽きる。とりわけ特徴的なのは、開くとドア側面が蝶の羽のような形に見える「バタフライ4ドア」だ。同じ上部に向かって開くドアでも、縦方向に開くシザースドアと違い、バタフライドアは外側が斜め前方に、内側が下向きに開く。駐車スペースに苦労する日本ではなかなかお目にかかれないドアだ。

バッテリーはリチウムイオンではなく炭素素材コンデンサ。多くの先端技術を搭載

面白いのは、バッテリーに多くのEVに採用されるリチウムイオンではなく、炭素素材コンデンサのグラフェンスーパーキャパシタを採用したことだ(全個体充電池搭載モデルもラインナップ)。1回の充電あたりの最大走行距離は約640km。急速充電の「UltraCharger」に対応しており、9分間の充電で約205km分の容量までチャージ可能という。

EVパワートレインは最高出力700psを発生し、最高速度は260km/h。このスペックを見ると、テスラ『ロードスター』のようなEVスーパースポーツではなく、あくまでスポーティカーという位置づけなのだろう。全長5085×全幅2015×全高1465mmのボディは軽量のカーボンファイバーとアルミニウムで構成され、駆動方式は四輪駆動だ。

このほか、ADAS(先進運転支援システム)としてクアナジー製LIDARセンサーを5個搭載し、コネクテッドなどのEVスポーツカーらしいさまざまな先端技術を装備する。

『エモーションEV』の価格は1440万円。予約も開始され今年中にデリバリー予定

前述の通り、『エモーションEV』はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルと全個体充電池搭載モデルの2モデルを設定。価格はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルが1440万円(税別)、全個体充電池搭載モデルの価格は未定だ。すでに日本でもデロリアン・モーター・カンパニーを正規代理店に予約受付を開始しており、グラフェンスーパーキャパシタは今年中の納車を予定している。ただし、予約金として約24万円が必要だ。

最近では東京都心部などでテスラをよく見かけるようになり、もはやEVは現実的な乗り物になりつつある。たしかに価格は1000万円オーバーと高価。しかし、この美しいルックスなら、他人と違うクルマに乗りたいという欲求を満たすことができるのではないか。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Fisker, Inc.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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