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第57回 | 大人のための最新自動車事情

40代のために作られたV8フェラーリ――GTC4ルッソT

フェラーリの創始者、エンツォ・フェラーリは、12気筒エンジンに強いこだわりを持っていた。「12気筒エンジン以外の市販車はフェラーリではない」と公言していたのは、有名な逸話だ。現在も、フェラーリ原理主義者のなかには、12気筒を崇拝する熱心なファンもいるだろう。一方、1970年代半ば以降、フェラーリの収益の屋台骨を支えてきたのがV8搭載車種であることも事実。現行モデルにも『カリフォルニアT』『488GTB』『488スパイダー』などが存在している。そして今回、4シーターでは初のV8ターボエンジン搭載車となる『GTC4Lusso(ルッソ)T』がV8ライナップに追加された。

近年増加する30〜40代のフェラーリオーナーに最適、普段使いできる『GTC4ルッソT』

『GTC4ルッソT』のカスタマー・プロフィールには、「エレガントでこれまでとは違う一台を求めている30〜40歳。毎日の通勤はもちろん、スポーツを楽しみにビーチに行ったり、子どもの学校への送迎、また、パートナーと夕刻にドライブを楽しむために利用する人」とある。

じつは、ラグジュアリーカーを取り扱うある自動車販売店で「最近は若い世代でもフェラーリを購入されるお客様が増えています」という話を聞いた。この「若い世代」とは30〜40代。医者や弁護士、ビジネスでの成功者が多いとのことだ。

フェラーリを買いやすくなった理由はいくつかある。たとえば、12年間までの保証延長サービスができたこと。過去のフェラーリに比べると、故障などの頻度が少なくなったこと。また、運転しやすく、日常でも乗れる車種が増えたことも関係しているだろう。そして、もうひとつ大きな理由が、V12よりも価格的にリーズナブルな、V8搭載車種が充実したことだ。実際、「若い世代」にはV8が人気だという。

そういう意味では、運転がしやすく、4人乗りで日常使いに長け、かつV8でリーズナブルな『GTC4ルッソT』は、30〜40代に最適のフェラーリといえる。そして、カスタマー・プロフィールを見る限り、フェラーリもそのことを強く意識しているようだ。

最高速度320 km/h以上、猛烈な加速を実現する『GTC4ルッソT』のV8ターボエンジン

前置きが長くなったが、『GTC4ルッソT』の特徴に触れていこう。『GTC4ルッソT』は、もちろん、V12エンジンを搭載した『GTC4ルッソ』の派生モデルである。パワーユニットは、3.9L V8ターボエンジン。『488スパイダー』に搭載される2016年インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーを受賞したエンジンの最新進化版だ。

最高出力は610cv/7500rpm。最高速度は320 km/h 以上で、0-100 km/h 加速はわずか3.5秒、そして、100-0 km/hからの制動距離は33mである。この猛烈な加速は、最大トルク760Nmを3000〜5250rpmという幅広い回転域で発生させることが可能ゆえに実現できた。その秘密は「可変ブーストマネジメント」にある。

「可変ブーストマネジメント」は、選択されているギアごとに最適なトルクを発生させる制御ソフトウェア。シフトアップと歩調を合わせてエンジン・トルクを上昇させ、7速で最大トルク760Nmに到達するようになっている。結果として、アクセル操作に瞬時に反応し、パワフルなドライビングフィールを得ることができるのだ。

ドライビングでは、V12バージョンと同等のハンドリング特性を維持しつつ、よりスポーティーな感覚を際立たせるように再調整することを目標にしたという。具体的には、V12バージョンにも搭載されている「4WS」と「SCM-Eコントロールシステム」に『GTC4ルッソT』専用のセッティングを施すため、車輌総重量の軽量化、さらに前後重量配分が46:54とリア寄りに設定している。

ちなみに「4WS」は後輪フロントホイールと同じ方向に後輪をステアさせることで、コーナーの進入時も脱出時も、シャープなレスポンスでステアリングからの入力に応える仕組み。「SCM-Eコントロールシステム」は、ホイールに設置したセンサーからの情報によって減衰力を変化させることのできる、磁性流体力学式サスペンション・コントロール・システムのことだ。

また、SSC3(サイドスリップコントロール3.0)を搭載することで、リアルタイムで横滑りを検知。各システムに取るべき動きを伝達し、あらゆる状況下でもグリップコンディションに合わせて車輌の挙動を制御し、より高い精度で正確にコントロールされるようになった。

『GTC4ルッソT』は新たな時代のフェラーリファンを開拓する魅力を持ったスーパーカー

エクステリアはV12バージョンを踏襲している。リアに向かって流れるように細くなる絞り込とルーフ後端を低く落としたリアスタイリングで、ファストバックスタイルを実現。4シーターとは思えないスポーティーなフォルムとなっている。

インテリアでは、匠の技がいかんなくつぎ込まれたレザーが洗練されたエレガンスさを演出。そこに、スポーティーメタル、カーボンファイバーパーツなどのスポーティーな趣をを見事に融合させた。コックピットと助手席は、センターデバイスによって仕切られたシンメトリックなデザインを採用。ドライバーだけでなく、同乗者もドライビングエクスペアリエンスを共有することができる。

フェラーリはそのパワーから、ある意味じゃじゃ馬で、日常使いには向かず、乗る人を選ぶ。そんなイメージは、すでに過去のものだ。それを証明する最たるモデルが『GTC4ルッソT』だろう。価格は2970万円。高嶺の花であることは間違いないが、新時代のフェラーリファンを開拓する一台になることだろう。

Text by Tsukasa Sasabayashi

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第130回 | 大人のための最新自動車事情

エモーションEV──バタフライドアの電動スポーツカー

ポルシェ初の量産EVスポーツカーとして話題の『タイカン』は今年生産を開始し、驚異的なスペックを誇るテスラのスーパースポーツカー『ロードスター』も2020年の発売を予定している。EVスポーツカーは、いま旬を迎えつつあるカテゴリだ。そうしたなか、アメリカのフィスカーがCES 2019で初公開した『エモーションEV』が予約受付を開始した。バタフライ4ドアが特徴の高級フルEVスポーツは、いったいどんなクルマなのか。

BMW『Z8』やアストンマーチン『DB9』のデザイナーが手がけた高級スポーツEV

フィスカー『エモーションEV』は、ヘンリック・フィスカー氏の手によるエレガントなデザインの高級EVスポーツカーだ。フィスカー氏はデンマーク出身の著名なカーデザイナー。BMWに在籍していた当時に『Z8』、EVコンセプトモデルの『E1』などを手がけ、アストンマーチンでは『DB9』『DBS』『ヴァンテージ』のデザインを担当した。

その後、独立してメルセデス・ベンツやBMWをベースにしたコンプリートカーやハイブリッドエンジン搭載のオリジナルモデルを製作するが、じつは、テスラで『ロードスター』『モデルS』の2モデルの開発に参加したこともあるようだ。そのせいというわけではないだろうが、『エモーションEV』のデザインはどこかテスラに似た雰囲気もある。

ともあれ、スタイリングは「美しい」のひと言に尽きる。とりわけ特徴的なのは、開くとドア側面が蝶の羽のような形に見える「バタフライ4ドア」だ。同じ上部に向かって開くドアでも、縦方向に開くシザースドアと違い、バタフライドアは外側が斜め前方に、内側が下向きに開く。駐車スペースに苦労する日本ではなかなかお目にかかれないドアだ。

バッテリーはリチウムイオンではなく炭素素材コンデンサ。多くの先端技術を搭載

面白いのは、バッテリーに多くのEVに採用されるリチウムイオンではなく、炭素素材コンデンサのグラフェンスーパーキャパシタを採用したことだ(全個体充電池搭載モデルもラインナップ)。1回の充電あたりの最大走行距離は約640km。急速充電の「UltraCharger」に対応しており、9分間の充電で約205km分の容量までチャージ可能という。

EVパワートレインは最高出力700psを発生し、最高速度は260km/h。このスペックを見ると、テスラ『ロードスター』のようなEVスーパースポーツではなく、あくまでスポーティカーという位置づけなのだろう。全長5085×全幅2015×全高1465mmのボディは軽量のカーボンファイバーとアルミニウムで構成され、駆動方式は四輪駆動だ。

このほか、ADAS(先進運転支援システム)としてクアナジー製LIDARセンサーを5個搭載し、コネクテッドなどのEVスポーツカーらしいさまざまな先端技術を装備する。

『エモーションEV』の価格は1440万円。予約も開始され今年中にデリバリー予定

前述の通り、『エモーションEV』はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルと全個体充電池搭載モデルの2モデルを設定。価格はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルが1440万円(税別)、全個体充電池搭載モデルの価格は未定だ。すでに日本でもデロリアン・モーター・カンパニーを正規代理店に予約受付を開始しており、グラフェンスーパーキャパシタは今年中の納車を予定している。ただし、予約金として約24万円が必要だ。

最近では東京都心部などでテスラをよく見かけるようになり、もはやEVは現実的な乗り物になりつつある。たしかに価格は1000万円オーバーと高価。しかし、この美しいルックスなら、他人と違うクルマに乗りたいという欲求を満たすことができるのではないか。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Fisker, Inc.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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