6000万円のEWBをベースに芸術品のような内外装に仕上げた特別仕様のファントム
最後の1台のベースとなったのは、通常モデルでも車両本体価格に約6000万円のプライスタグがつき、標準モデルより250mmほど長い全長約6mのボディを持つEWB(エクステンデッド・ロングホイールベース)のファントムだ。
ボディカラーは、「ベルベットブルー」と呼ばれる限りなく黒に近い濃紺。ロールスロイスの象徴である「スピリット・オブ・エクスタシー」はシルバー製で、ホワイトのピンストライプとクラシカルな印象を与えるホワイトリボンタイヤが組み合わされる。ロングボディの側面を走り、しかし、ゆがみもムラもなく描かれた見事なピンストライプは、英国グッドウッドに本社を構えるロールスロイスのビスポーク部門の職人による“手描き”だという。
海を思い起こさせるトーン・オン・トーン配色の刺繍をあしらい、「パウダーブルー」のレザーが鮮やかなインテリアの床には、毛足の長いカーペット。これは、生後約半年のメリノ種の子羊から刈り取った高級なラムズウールを手作業で起毛させたものだ。
とりわけインテリアで目を奪われるのは、英国車の伝統でもあるウッドパネル。ダッシュボードにある1930年代の「オーシャンライナー(スケジュールに従い大洋を渡る船)」は、ペイントなどではなく、熟練の木工職人による本物のデコレーションだ。額装して豪華な客間に飾られていても不思議ではないその仕上がりは、もはや自動車のインテリアというよりアート作品に近い。インパネ中央に装備された24時間表示のアナログ時計も、オーシャンライナーに飾られていた時計を意識している。
2018年にも登場する!? 開発が進められている次期モデル「第8世代のファントム」
「航海」をテーマにした、この特別かつ最後の1台となったファントムは、とあるロールスロイスコレクターのスペシャルオーダーによって作られたものだという。
ただし、ロールスロイスがいつ注文を受け、どれくらいの期間をかけて作ったのか、なにも明らかにされていない。どこの国に納車されるのかも不明だ。そうしたことを踏まえると、この最後のファントムの実車に目にする可能性はゼロに等しいだろう。
しかし、その代わり、早ければ2018年中にも次世代のファントムを目にすることができるかもしれない。13年にわたって第7世代モデルを作り続けた生産ラインは今後、次に導入される「第8世代のファントム」の舞台となる。開発が進められている次世代ファントムは、風格のあるスタイリングやV型12気筒エンジンはそのままに、まったく新しいアルミニウムアーキテクチャーを採用して2018年に発表されるともいわれている。
世界最高のラグジュアリーカーとして一時代を築いたファントムの新たな「航海」は、すでに始まっているのである。