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第4回 | マセラティの最新車デザイン・性能情報をお届け

「オールドマセラティ」が粋な大人たちに人気の理由

海神ネプチューンが手に持つ三叉の銛をモチーフに、マセラティのフロントグリルに鎮座する「トライデント」。最近、都心部などでこのエンブレムを目にすることが多くなった。エレガントなスタイリングと、ヴァイオリンの名器にも例えられる素晴らしいエンジン音で知られるマセラティは、フェラーリよりも古い歴史を持つイタリアの名門スポーツカーブランド。このマセラティの販売台数が近年、日本市場で大幅に伸びており、街中で存在感を高めているのだ。しかし、最新モデルも悪くないが、マセラティらしさを堪能したいなら、むしろ乗ってみたいのは1980〜1990年代の「オールドマセラティ」。通のクルマ好きの間で高い人気を誇る、粋な大人の男にこそ似合うマセラティである。

ハードボイルド作家・北方謙三も愛した1980〜90年代の「ビトゥルボ系」マセラティ

40〜50代のスーパーカー世代には、マセラティと聞くと、1971年に登場したミッドシップ・2シーターの『ボーラ』、あるいはその弟分の『メラク』を思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし、『ボーラ』は総生産台数530台の希少なスーパーカーで、コレクターの間では数千万円単位の高値で取引されることもある。実用的でもないだけに、よほどの資産家でなければ所有するのはむずかしいクルマだ。

一方、以前から通人のクルマ好きの熱い支持を集めてきたのが、1981年に発表されたコンパクトなクーペ『ビトゥルボ』である。マセラティは創業以来、何度も経営母体が移り変わり、1976年にはアメ車の大排気量エンジンを搭載したスーパーカー『パンテーラ』で知られるイタリアの自動車メーカー、デ・トマソに買収された。このデ・トマソが「手に入れやすい価格の4シーター・スポーティカー」をコンセプトに開発を主導したのが、マセラティ初の量産車となった『ビトゥルボ』だ。

それまでのスーパーカーメーカーというマセラティのイメージを一変させた『ビトゥルボ』は、その後、セダンや2シーターオープンもバリエーションに加えて大ヒットを記録。1980年代後半に『ビトゥルボ』の名は消えたものの、このクルマをベースに『222』『430』『スパイダー ザガート』『ギブリ』『シャマル』など、数々のビトゥルボ系モデルが生み出されていく。

「オールドマセラティ、いわゆる『ビトゥルボ系』のファンはたくさんいらっしゃいますが、特に多いのが音楽家やデザイナー、写真家など、クリエイティブな職業のオーナーです。なかには、最新のスーパーカーを手に入れたのに、わざわざオールドマセラティに戻ってきた方もいらっしゃいます」。そう話すのは、オールドマセラティを中心にイタリア車を多数取り扱う埼玉県川口市の「アウトピッコロ」の取締役、鳰川(みよかわ)勝彦氏である。

たとえば、ハードボイルド作家の北方謙三氏もそのひとりだ。北方氏は30代半ばを過ぎてから普通免許を取得したが、そのときに自動車評論家の故・徳大寺有恒氏にすすめられて最初に購入したのが『ビトゥルボ』だった。その後、北方氏はビトゥルボ系を乗り継ぎ、作品にもマセラティがたびたび登場する。

(C)ArdorAuctions
(C)ArdorAuctions

カロッツェリアの職人が貴族に向けて丹念に作った「オールドマセラティ」の内外装

とはいえ、オールドマセラティには、「マセラティ」と聞いて誰もが思い浮かべる華美でラグジュアリーなイメージはない。フェラーリやランボルギーニと比べると、まるで「普通車」のように見えてしまうのも事実だろう。なぜ、その一見普通なクルマがそれほどの人気を集めるのか。

「その普通車のような見た目こそが、じつはオールドマセラティの魅力なのです。高価で派手なスーパーカーやラグジュアリーカーは、街中を走っていると常に好奇な目を向けられます。プライベートなドライブだったり、疲れているときだったりすると、それは苦痛以外の何物でもありません。その点、オールドマセラティならそんな気遣いも必要ないのです」

そして、普通車のように見えても、クルマの細部にはマセラティらしいラグジュアリーさが横溢している。ドアを開ければ、そこにあるのは外観と相反する豪華な内装。ふんだんに使われたウッドパネル、金で装飾されたアナログ時計、高級ソファのようなシート、イタリア本国でなめした革の匂いなど、そのすべてが“本物”で、手の込んだ素材がオーナーを包み込んでくれるのだ。

「マセラティは1957年の『3500GT』をはじめ、貴族的な高級スポーツカーを数多く作ってきました。それはビトゥルボ系でも変わらず、いつの時代のモデルにもマセラティならではといえる貴族的なムードがしっかり残されているのです。ビトゥルボ系のエクステリアも細部を見ると美しく、ボディラインひとつをとっても、コンピュータで描いた無機質さと対極にある『人の手の温もり』が感じられます。イタリアの自動車メーカーには、企業というよりもカロッツェリア(コーチビルダー)の文化が色濃い。貴族に向けて丹念にクルマを作ってきた職人の芸術性が宿っているのです」

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(C)Ludovic(SCLUDO.com)
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予算は整備費込みで約500万円、経験を重ねた大人の男の審美眼にかなうマセラティ

オールドマセラティが高い人気を集めるのは、もうひとつ、ビトゥルボ系のマセラティは比較的量産されていたために手に入れやすいという理由もある。

その分価格もお手頃だ。マセラティは現在、スポーツセダンの『クアトロポルテ』やクーペの『グラントゥーリズモ』、オープンモデルの『グランカブリオ』などをラインナップしているが、車両価格は900万円から2500万円と超高額。しかし、オールドマセラティなら、手に入れるための予算は整備費込みで500万円前後。取材時には希少な『スパイダー ザガート』が入庫していたが、こちらも450万円ほどだという。

「1970〜1990年代のマセラティには『故障が多い』というイメージがありますが、きちんと整備さえすれば大丈夫。たとえば、オールドマセラティは電装系が非常に脆弱で、必ず不具合が出ます。しかし、それも現在の信頼性の高い部品に交換すれば問題は発生しません。弊社では故障の心配のある部分はすべて新品に取り替えています。また、マセラティはモータースポーツ由来の自動車メーカーだけあり、心臓部がオーバークオリティに作られているので、エンジンが壊れることもほとんどありません」

粋とは、その人の姿勢や行動、美意識であり、ある種の生き様でもある。これ見よがしに高価であることをアピールするクルマと違い、けっして派手ではないが、わかる人が近くで見れば良さが光る…。だからこそ、オールドマセラティは年齢や経験を重ねた大人の男の審美眼にかなうのである。

(C)ykcky

Text by Tetsuya Abe

Photo by (C)ykcky(main)

取材協力
アウトピッコロ
TEL:048-291-5130
MAIL:auto.piccolo@ld.dream.jp
住所:〒333-0813 埼玉県川口市西立野757-1
営業時間:10時〜19時
定休日:毎週水曜

マセラティを中心にフェラーリやアルファロメオなどのイタリア車を取り扱う。車両の輸入・販売だけではなく、エンジンや内外装のなど細部へのメンテナンスサービスにも力を入れる
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レヴァンテONE OF ONE──マセラティの新たな付加価値

出来合いではない平均以上のクルマを求めるカーガイは一定数いる。オーダーメイドやカスタマイゼーションといった高付加価値サービスが存在するのはそのためだ。多くの高級車ブランドは、自分だけの一台を所有したいという顧客の要望に応えるプランを用意している。イタリアのラグジュアリーカーブランド、マセラティもしかり。3月のジュネーブモーターショーでは、フルカスタマイズしたコンプリートカーの『レヴァンテONE OF ONE』を披露した。これは今後のカスタマイゼーションを示唆する一台でもあるという。

オーナーとマセラティが「共同製作」によって一台のコンプリートカーを作り上げる

高級車の多くは、ボディやインテリアのカラー、素材などを選ぶことができるが、これはあくまで「既成の選択肢」で、自分だけの一台を作るのとは違う。そこで高級車ブランドが用意しているのが、カスタマイゼーションやオーダーメイドといったプログラムだ。

ブランド側は、そうしたサービスを顧客にアピールするために、さまざまなイベントやプレスリリースを通じて多彩なカスタマイズモデルを発表する。3月のジュネーブモーターショーでマセラティが披露した『レヴァンテONE OF ONE』は、まさにそれである。イタリアの世界的ワイナリー「マルケージ・アンティノリ」で副社長をつとめるアレグラ・アンティノリ女史の特別注文を受けて製作された上質で贅沢なカスタマイズモデルだ。

しかし、このカスタマイゼーションは単にアクセサリーを選んだだけのものではない。製作にあたっては、マセラティのデザインセンターである「チェントロ スティーレ」が女史をサポート。つまり顧客との「共同製作」によって作られたコンプリートカーなのだ。

ボディカラーは特注のグリーン。インテリアにも通常モデルでは使われない素材を採用

アンティノリ女史とチェントロ スティーレが選んだエクステリアカラーは、三層コートによる特注のグリーン。イタリア中部、トスカーナ地方の丘の色彩にインスパイアされたものだという。ドアハンドル、サイドエアベント、グリルインサートなどにはダーククロームを採用。全体として、なんともシックでラグジュアリーな雰囲気に仕上げられている。

もちろん、ドアを開ければ、そこにも通常モデルの『レヴァンテ』とは違った世界が広がっている。シートには「ピエノフィオーレ」と呼ばれるレザー素材が採用されたが、これは仕上げ剤を使わずにアニリンとオイルだけで着色されたもの。ボタンタフトによる立体的なオーナメントと相まって、美しく独特な風合いが老舗ワイナリーの雰囲気を醸し出す。

インパネやドアの印象を左右するインテリアパネルは、カーボンファイバーに鏡面仕上げの銅線を用いたユニークな素材が使用された。ヒントを与えたのは、フィレンツェとシエナの中間に位置するキャンティクラシコ地方のアンティノリワイナリーの建物に用いられている「Cor-Ten(耐候性鋼)」。これは過去のどの『レヴァンテ』にも採用されていないめずらしい素材だ。ドアを開けたときに見えるスカッフプレートにも銅板を使用した。フロアマットも特別な仕立てで作られており、100%天然モヘアウール製で足元を演出する。

こうしたカスタマイゼーションの全工程において、イタリアを代表するワイナリーの幹部であるアンティノリ女史のパーソナリティが最重要視されたのは言うまでもない。

今後のマセラティのカスタマイゼーションを示唆する『レヴァンテONE OF ONE』

『レヴァンテONE OF ONE』のカスタマイゼーションに費やされた時間や費用は公表されていない。しかし、アンティノリ女史とマセラティが当初から幾度も話し合いを重ね、素材やカラーをよく吟味し、じっくり時間をかけて作られたことは間違いないだろう。

マセラティは、この『レヴァンテONE OF ONE』を今後のカスタマイゼーションを示唆する一台としているが、それはおそらく顧客との「共同製作」によってコンプリートカーを作り上げるという意味ではないか。全面的なカスタマイゼーションに、さらなる付加価値を与えるわけだ。もし自分が「ONE OF ONE」を作るとしたら、どんなカラーや仕様にするだろうか? そんなことを夢想するのも、カーガイの愉しみのひとつに違いない。

Text by Muneyoshi Kitani
Photo by (C) Maserati
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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