日本市場に向けて開発された初の「フェラーリ フォーリ セリエ」となった『J50』
フェラーリが日本に初めて正規輸入されたのは1966年。当時のフラグシップモデルである『275GTB』が公道車両として形式認定され、ナンバープレートを付与されたのが始まりだったとされている。
それから50年が経った2016年、フェラーリは「Ferrari 50 Year Anniversary in Japan」と題し、フェラーリ・レイシング・デイズをはじめ、北海道ラリー、大阪リバーサイドパーティ、インターナショナル・カヴァルケードなど、日本各地でさまざまな記念イベントを開催。2016年の師走には、このアニバーサリーイヤーを締めくくるファイナルイベントとして、六本木の国立新美術館に300人を超えるVIPゲストが招かれ、フェラーリ日本進出50周年記念式典が盛大に行われた。
そして、このセレモニーのハイライトとしてワールドプレミアされたのが、日本市場に向けて製作された初の「フォーリ セリエ」であり、日本だけで限定10台が販売されるビスポークモデルの『J50』である。この車名はもちろん、ジャパンの「J」と50周年の「50」を組み合わせたものだ。
ひと目でフェラーリとわかるデザインながら、どのフェラーリにも似ていない『J50』
『J50』は、3.9L V8ターボエンジンをミッドシップに搭載する『488スパイダー』をベースにしているものの、ボディは完全な新設計で、まったく独自のスタイリングが与えられている。
デザインの基本アプローチは「極めて低いフォルムのロードスター」。モチーフとなったのは、フェラーリのV8ミッドシップ2シーターの原点というべき『308』シリーズのタルガトップ仕様『308GTS』である。タルガトップとは、Bピラーが固定されたデタッチャブルルーフのことで、『J50』のルーフも脱着可能な2分割式カーボンルーフを備えたタルガトップとなっている。
フロントからサイドにかけて入るブラックのラインや、スリムなフルLEDヘッドライトによって実現したフラットなノーズも、やはり308GTSを想起させるものだ。308GTSがモチーフに採用されたのは、フェラーリの本格的な日本国内輸入が始まった時期の代表的なモデルが308シリーズであり、1970年代から1980年代にかけて日本で人気を集めたフェラーリだからだろう。
このほか、1980年代のF1グランプリで活躍したマシンをはじめ、歴代のフェラーリのレーシングカーに影響を受けた部分もあるという。ひと目でフェラーリとわかるスタイリングでありながら、過去のどのフェラーリとも似ていないという意味で、極めて個性的かつ革新的なスタイリングとなっている。
フェラーリ『J50』の価格は3億円以上、世界初公開された時点で10台すべてが完売
エンジンも特別仕様だ。『J50』に搭載されるのは、2016年のインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーで総合優勝に輝いた『488シリーズ』の3.9L V8エンジンをさらにチューンナップし、出力を690cvまで高めた特別バージョン。この心臓部を透明のポリカーボネートエンジンカバーで覆い、エンジンそのものを“魅せて”いるのもフェラーリらしい演出である。
さらに、20インチアルミホイールも『J50』のために製作された専用ホイール。日本上陸50周年を記念したフォーリ セリエにふさわしく、すべてにおいて特別仕様となっている。
ちなみに、『J50』は1台1台をオーナーのリクエストに合わせてテーラーメイドで仕上げるビスポークモデル。記念式典で公開されたモデルは、ボディカラーに3レイヤー・レッドのスペシャル塗装を纏い、インテリアはブラックを基調にレッドを配したファインレザー&アルカンターラ仕上げだ。
テーラーメイドゆえに仕様によって価格が変わってくるが、フォーリ セリエの価格相場は3億円から3億6000万円ともいわれている。しかし、驚くべきことに、『J50』は12月の記念式典で実車が世界初公開されたにもかかわらず、この時点で限定10台すべてが完売していたという。フェラーリに上顧客と認められ、優先的に購入権を与えられた日本の超富裕層が、フェラーリから送られてきた『J50』のスケッチ画像を見ただけで購入を決めたのだ。
日本国内でしか販売されない、わずか10台限定の特別なフェラーリ。世界中のフェラーリファンが羨む超希少な限定モデルを手に入れる幸運を得たのがどのようなセレブレティなのかはわからないが、近い将来、日本のどこかで『J50』が走る姿を目にすることがあるかもしれない。
Text by Tetsuya Abe
Photo by (C)Ferrari S.p.A.