かつて上流階級に愛飲された『奥会津金山 天然炭酸の水』を、現地に訪れて味わう
明治時代に「太陽水」と呼ばれて上流階級に愛飲され、瓶詰めされてヨーロッパにも「薬泉」として輸出していた『奥会津金山 天然炭酸の水』。100年ぶりに採水が再開された現在では、2016年の伊勢志摩サミットで各国首脳が喉を潤す卓上水としても提供されるなど、知る人ぞ知る由緒正しき銘柄だ。
1日に3500Lと限られた量しか採取することができないプレミアムな炭酸水だが、「分とく山」「レフェルヴェソンス」「鮨 三谷」など、誰もが知る有名店で採用されているほか、通信販売で購入することもできる。
しかし、都会と現地で飲むのとでは、同じ天然炭酸水でもその価値や風情が大きく異なる。やはり現地で味わってみたくなるのが人情だろう。そこで、天然炭酸水が湧き出す井戸を求めて、福島県大沼郡金山町を目指した。
絶景列車として名高いJR只見線に乗り、車窓を流れる雪景色を堪能しながら奥会津へ
四方を緑豊かな山に囲まれ、冬には特別豪雪地帯に指定されるほど雪深い金山町に行くには、とりわけ鉄路でアプローチするのがおすすめだ。
なにせ、会津若松駅と新潟県魚沼市の小出駅を結ぶJR只見線は、絶景列車として知られる鉄道ファン垂涎の路線。なかでも雪化粧をまとう冬は人気で、わざわざ海外から訪れる客も多い。
車窓を流れる雪景色を堪能しながら、下車したのは会津川口駅。2011年7月に発生した新潟・福島豪雨の影響により、ここから只見駅まで不通となっているため、井戸までは路線バスで向かう。自由乗降区間ゆえ、運転士に「大塩天然炭酸水」で下車したい旨を伝えておくとスムーズだろう。
沼田街道、国道252号線から少し入った森のなか。降り積もった雪を踏みしめながら分け入った先に、静かに湧き出る天然炭酸水の井戸はあった。たしかにゴボゴボと気泡を含む水が立ち上っている。
シャンパンを思わせる微細な泡立ち、全身で味わうこともできる奥会津の天然炭酸水
さっそく備えつけられたコップで湧き水をすくう。シャンパンかと見まがうほどの微細な泡立ちで、口に含むと──硬水の多いヨーロッパ産のそれと異なり平均硬度45の軟水という──まろやかな口当たり。東京から4時間以上もの旅路を経て出会っただけに感動もひとしおだ。
奥会津の天然炭酸水は飲むだけではなく、炭酸泉として全身で味わうこともできる。井戸のすぐ近くに共同浴場の大塩温泉があるほか、少し戻った湯倉温泉、会津川口駅からバスで10分の距離にある玉梨温泉など、源泉かけ流しの炭酸水を愉しめるスポットが目白押しだ。
しかもその湯温は40度超と、凍えた体を暖めるに最適。一般的に炭酸泉は冷泉が多いが、ここ金山町では「熱い炭酸泉」という温泉マニアも認める理想的な湯が湧出しているのだ。
せっかく行くのだから、炭酸泉で疲れをほぐした後は奥会津の山の幸を堪能したい。玉梨温泉「恵比寿屋旅館」や湯倉温泉「鶴亀荘」では、天然炭酸水とともに手の込んだ料理を愉しむことができる。
ここ日本にも天然炭酸水があるという発見のみならず、絶景と温泉、美食が楽しめる奥会津。真のリュクスとは何かを知る大人にこそ訪れてほしい場所だ。
Text&Photography by Jun Kumayama
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)