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第2回 | 基礎から知る大人の現代アート入門

現代アートを読み解くカギ──じつは子どもも愉しめる

新しい領域の趣味に足を踏み入れるとき、多くの場合、大人は形や知識から入ろうとする。特にそれが芸術だったら、なおさらそうだろう。しかし、じつは現代アートには、予備知識やハウツーは「必要ない」という。現代アートを読み解くためのカギとは?

近代美術は歴史や文脈を知る必要があるが、現代アートは予備知識なしで愉しめる

難解そうな現代アートを、できれば専門的な知識を学ばずに愉しみたい。それが多くの人の偽らざる気持ちかもしれません。では、手っ取り早く現代アートを読み解く方法はあるのか。

六本木の現代美術ギャラリー「hiromiyoshii」のオーナーであるギャラリストの吉井仁実さんは、「ハウツーなしで愉しむことができる、最も簡単な美術が現代アート」と話します。それはなぜか?

「たとえば、現代アート以前の近代美術には『印象派』『象徴主義』『フォービズム』などの潮流がありますが、それらを理解するには作品単体だけでなく、そこに至った歴史や文脈を知る必要があります。対して、現代アートは予備知識のない子どもでも愉しむことができる。もちろん、作者には意図がありますが、自分の感覚だけで良し悪しを語ってもいい。それが現代アートなんです」(吉井さん、以下同)

事実、吉井さんも、展覧会の前評判や作品の解説をいっさい見ないで作品と向き合うことが多いのだそう。

子どもも楽しむ、草間彌生《愛はとこしえ十和田でうたう》・十和田市現代美術館/ Photo by Jun Kumayama

アートは「自分自身と世界を読み解くヒント」、作品を通じて自分が鏡のように映る

それなら安心…とはいえ女性とデートで美術館に行ったとき、いい大人が歴史や意図を問われて「わかんない」を連発するのも恥ずかしい。

「最初はわからなくて当然です。テレビや漫画だって、幼い頃はどう見ればいいのか、どこで笑えばいいのかわからなかったはず。現代アートも、たくさんの作品に触れて、そこで初めて愉しみ方がわかってきます」

吉井さんによれば、「理解しよう」とがんばり過ぎず、まず自分が純粋に「いいな」と思う作品、興味を抱いた作家から入っていけばいい、という。

であれば自分の好き嫌いの傾向を知るためにも、アートフェスティバルや集合展などでいろんな作家の作品をまとめて観るのもいいかもしれません。

「そう思います。それとこれは私の持論ですが、現代アートに限らず、アートって『自分自身と世界を読み解くヒント』だと思うんです。同じ作品でも、自分がどう感じるかはそのときの状況に応じて変わる。今幸せなのか、悲しいのか、希望に満ちているのか。アートを通すと自分が鏡のように映るんです」

海外作家の現代アートは、ニュースの現場を見に行くような、旅に行く感覚に近い

たしかに、好きな音楽や映画も、そのときの気分によって聴こえ方や見え方が変わってきますものね。そして、現代アートが「世界を読み解くヒント」になり得るのというのは…。

「テレビの海外ニュースは、フィルタリングされた一方的な情報でしかありません。海外作家の作品は、もっとピュアに、世界各地の人々の気分やメッセージ、ときには社会問題までをも鮮明に伝えます。実際、欧米の作品と、昨今注目を集めている中東や東南アジアの作品は全然違いますしね」

それはまるで、海外ニュースの現場を直接見に行くかのような、ちょっとした旅に出かける感覚に近いのだそう。そんな気持ちで現代アートに触れるのは「大人ならではの愉しみ方」と吉井さん。とりわけ海外のアーティストや芸術祭はきわめて政治的だといいます。

東南アジア作家を集めた芸術祭『サンシャワー展』(森美術館)/ Photo by Jun Kumayama

言葉がわからなくても解説文を読まなくても、メッセージが伝わってくるのがアート

吉井さんが初めて観に行った国際芸術祭は、25年前の『ヴェネチア・ビエンナーレ』。そのときに金獅子賞を受賞したハンス・ハーケというドイツ人作家の作品《ゲルマニア》に大きな衝撃を受けたそうです。

「かつてのナチスが使った作戦会議室のような部屋があり、来場者が歩くと床に敷き詰められたタイルが割れて不吉な音が響き渡る──という作品だったんですが、なにも解説がなくとも、その音を聞いているだけで戦争の恐怖をかき立てられました」

そのハンス・ハーケの《ゲルマニア》がトップ写真(『美術手帖』1993年9月号より)。

言葉がわからなくても、解説文を読まなくても、テーマやメッセージが伝わってくるのがアートのチカラ。「海外のアートフェスに行ってみたい」と思っている人がいるなら、それは案外むずかしいことではないのかもしれません。

Text by Jun Kumayama
Photo by Jun Kumayama(main)
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

現代美術ギャラリー Hiromiyoshii roppongi
3月10日まで「脇田玲|Symptom Visualized」展が公開中(入場無料)
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レアンドロ・エルリッヒ展──超人気展覧会で現代アートに触れる

六本木ヒルズの森美術館で今、現代アートとして異例の大ヒットを記録中の展覧会が開催されているのをご存じだろうか。『レアンドロ・エルリッヒ展』は、現代アートに興味はあるものの、これまで作品に触れたことがなかった初心者にとってまたとない機会である。

すでに入場者数が40万人を突破した『レアンドロ・エルリッヒ展』

六本木ヒルズ・森美術館で開催中の『レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル』(2017年11月18日〜2018年4月1日)は、開幕から48日間で入場者数が20万人を突破。この2月末にも40万人を突破するなど、同館の動員記録を塗り替えただけでなく、現代アートの展覧会としては異例の大ヒットを記録しています。

その理由は、まるでだまし絵やトリックアートのように、観るだけではなく自ら参加したくなる作品の楽しさと、インスタ映えする話題性といえるかもしれません。事実、インスタグラムには、ハッシュタグ「#レアンドロ・エルリッヒ展」で1万8000件(2月21日現在)もの写真が投稿されています。

そもそもレアンドロ・エルリッヒとは何者か? アートには詳しくなくても、金沢21世紀美術館にある彼の作品《スイミング・プール》はどこかで見たことがある、という人も多いのではないでしょうか。

《スイミング・プール》は、上から眺めると普通のプールに見えますが、水面は透明の板に薄く水が張られているだけで、プールの底にも人が入ることができるという不思議な作品です。

レアンドロ・エルリッヒ《スイミング・プール》(プロトタイプ模型)/Photo by Jun Kumayama

来場者に人気の高いレアンドロ作品は《建物》《反射する港》《教室》《試着室》

「レアンドロは、南米のパリとも呼ばれるアルゼンチン・ブエノスアイレス出身の現代美術作家です」と話すのは、『レアンドロ・エルリッヒ展』のキュレーターである森美術館の椿玲子さん。

「27歳の頃にベネチアビエンナーレなどの国際展で話題を集めて以来、44歳の現在にいたるまで第一線で活躍し続けています。今回の展覧会は、四半世紀にもなるレアンドロの活動を紹介する過去最大規模の個展で、44点の作品中、その8割が日本初公開という貴重な機会なんです」(椿さん、以下同)

キュレーターの椿玲子さん。レアンドロ・エルリッヒ《部屋(監視Ⅰ)》/Photo by Jun Kumayama

現代アートは予備知識なしで愉しんでもいいものとはいえ、せっかく行くならどの作品の人気が高いのか、事前に知っておきたいのが人情でしょう。

「来場者アンケートで好評なのは、まるでパリのアパルトマンの壁にぶら下がっているように見える《建物》、そして水がないのに船が浮かんでいるように見える《反射する港》、無人の教室に幽霊のように自身が映り込む《教室》(トップ画像)、迷路のように小部屋が続く《試着室》などですね」

メインビジュアルにも採用され人気のレアンドロ・エルリッヒ《建物》/Photo by Jun Kumayama

レアンドロ作品を愉しむためのポイントは「積極的に作品のなかに入っていくこと」

いずれも、いかにもインスタ映えしそうな作品ばかり。ちなみに、椿さんによると、現代アートとしてのレアンドロ作品とトリックアートとの違いは「『仕掛け』をすべて見せてしまうところ」だそうです。

「だまし絵のように見えるのは、『建物は垂直に建つもの』『船は水の上に浮かぶもの』といった私たちの思い込みのせいです。つまり、これはレアンドロからの『常識や現実を疑え』というメッセージなんです」

なるほど。まさにデートのとき女性に語りたくなるようなコメントです。また、レアンドロ作品を愉しむには「作品のなかに入る」のがポイントとのこと。

「レアンドロ作品は、鑑賞者が参加して初めて完成するものが多いので、積極的に作品のなかに入って楽しんでほしいですね。そして、楽しさのなかにも現代社会への風刺や批評性が込められているので、その真意を探ってみるのもいいでしょう。また、美術史に興味をお持ちなら、シュールレアリスムやマジックリアリズムの延長として楽しんでみるのもいいと思いますよ」

最初は無心でざっと楽しみ、次にメッセージやテーマをじっくり推察してみる。レアンドロ展に限らず、それが現代アートを愉しむセオリーなのかもしれません。レアンドロ展は4月1日までの開催なので、お早めにどうぞ。

Text by Jun Kumayama
Photo by Jun Kumayama(main)
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52〜53階
開館時間:月・水~日 10:00~22:00(最終入館 21:30) 火 10:00~17:00(最終入館 16:30)

『レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル』
会期:2017年11月18日(土)~ 2018年4月1日(日)会期中無休
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