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第4回 | 基礎から知る大人の現代アート入門

レアンドロ・エルリッヒ展──超人気展覧会で現代アートに触れる

六本木ヒルズの森美術館で今、現代アートとして異例の大ヒットを記録中の展覧会が開催されているのをご存じだろうか。『レアンドロ・エルリッヒ展』は、現代アートに興味はあるものの、これまで作品に触れたことがなかった初心者にとってまたとない機会である。

すでに入場者数が40万人を突破した『レアンドロ・エルリッヒ展』

六本木ヒルズ・森美術館で開催中の『レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル』(2017年11月18日〜2018年4月1日)は、開幕から48日間で入場者数が20万人を突破。この2月末にも40万人を突破するなど、同館の動員記録を塗り替えただけでなく、現代アートの展覧会としては異例の大ヒットを記録しています。

その理由は、まるでだまし絵やトリックアートのように、観るだけではなく自ら参加したくなる作品の楽しさと、インスタ映えする話題性といえるかもしれません。事実、インスタグラムには、ハッシュタグ「#レアンドロ・エルリッヒ展」で1万8000件(2月21日現在)もの写真が投稿されています。

そもそもレアンドロ・エルリッヒとは何者か? アートには詳しくなくても、金沢21世紀美術館にある彼の作品《スイミング・プール》はどこかで見たことがある、という人も多いのではないでしょうか。

《スイミング・プール》は、上から眺めると普通のプールに見えますが、水面は透明の板に薄く水が張られているだけで、プールの底にも人が入ることができるという不思議な作品です。

レアンドロ・エルリッヒ《スイミング・プール》(プロトタイプ模型)/Photo by Jun Kumayama

来場者に人気の高いレアンドロ作品は《建物》《反射する港》《教室》《試着室》

「レアンドロは、南米のパリとも呼ばれるアルゼンチン・ブエノスアイレス出身の現代美術作家です」と話すのは、『レアンドロ・エルリッヒ展』のキュレーターである森美術館の椿玲子さん。

「27歳の頃にベネチアビエンナーレなどの国際展で話題を集めて以来、44歳の現在にいたるまで第一線で活躍し続けています。今回の展覧会は、四半世紀にもなるレアンドロの活動を紹介する過去最大規模の個展で、44点の作品中、その8割が日本初公開という貴重な機会なんです」(椿さん、以下同)

キュレーターの椿玲子さん。レアンドロ・エルリッヒ《部屋(監視Ⅰ)》/Photo by Jun Kumayama

現代アートは予備知識なしで愉しんでもいいものとはいえ、せっかく行くならどの作品の人気が高いのか、事前に知っておきたいのが人情でしょう。

「来場者アンケートで好評なのは、まるでパリのアパルトマンの壁にぶら下がっているように見える《建物》、そして水がないのに船が浮かんでいるように見える《反射する港》、無人の教室に幽霊のように自身が映り込む《教室》(トップ画像)、迷路のように小部屋が続く《試着室》などですね」

メインビジュアルにも採用され人気のレアンドロ・エルリッヒ《建物》/Photo by Jun Kumayama

レアンドロ作品を愉しむためのポイントは「積極的に作品のなかに入っていくこと」

いずれも、いかにもインスタ映えしそうな作品ばかり。ちなみに、椿さんによると、現代アートとしてのレアンドロ作品とトリックアートとの違いは「『仕掛け』をすべて見せてしまうところ」だそうです。

「だまし絵のように見えるのは、『建物は垂直に建つもの』『船は水の上に浮かぶもの』といった私たちの思い込みのせいです。つまり、これはレアンドロからの『常識や現実を疑え』というメッセージなんです」

なるほど。まさにデートのとき女性に語りたくなるようなコメントです。また、レアンドロ作品を愉しむには「作品のなかに入る」のがポイントとのこと。

「レアンドロ作品は、鑑賞者が参加して初めて完成するものが多いので、積極的に作品のなかに入って楽しんでほしいですね。そして、楽しさのなかにも現代社会への風刺や批評性が込められているので、その真意を探ってみるのもいいでしょう。また、美術史に興味をお持ちなら、シュールレアリスムやマジックリアリズムの延長として楽しんでみるのもいいと思いますよ」

最初は無心でざっと楽しみ、次にメッセージやテーマをじっくり推察してみる。レアンドロ展に限らず、それが現代アートを愉しむセオリーなのかもしれません。レアンドロ展は4月1日までの開催なので、お早めにどうぞ。

Text by Jun Kumayama
Photo by Jun Kumayama(main)
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52〜53階
開館時間:月・水~日 10:00~22:00(最終入館 21:30) 火 10:00~17:00(最終入館 16:30)

『レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル』
会期:2017年11月18日(土)~ 2018年4月1日(日)会期中無休
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第3回 | 基礎から知る大人の現代アート入門

注目の10人──ギャラリストが推す現代アート作家たち

美術館やギャラリーに行き、現代アートについて語りたいなら、やはり作家たちを知っておきたい。それが初心者向きの作家なら、なおベターだ。ギャラリストの吉井仁実さんに、おすすめの現代アート作家10人を教えてもらった。

草間彌生、杉本博司…世界的評価が高くどこの美術館でも観ることのできる作家たち

六本木のギャラリー「hiromiyoshii」のオーナーで、ギャラリストの吉井仁実さんは、世界中から数々の現代アート作品を買い付けています。その吉井さんが、国内でも観ることが可能で、初心者におすすめというのが以下の10人の作家たち。一気にご紹介しましょう。

■おすすめ作家(1)草間彌生(くさま・やよい)

「日本各地に水玉のかぼちゃオブジェがありますし(トップ写真。草間彌生《南瓜(黄かぼちゃ)》・直島)、最近では国立新美術館の展覧会や、新宿に『草間彌生美術館』もできたので、誰もがご存じでしょう。今、最も世界の評価が高い日本人作家のひとりです。みなさん可愛いと言いますが、じつは彼女が作る立体物は男性器、水玉は女性器をモチーフにしているんです」(吉井さん、以下同)

■おすすめ作家(2)杉本博司(すぎもと・ひろし)

「草間彌生と同じく、どこの美術館でも観ることができ、かつ世界的に評価が高い作家です。海と空を水平線で区切った代表作《海景》は、観てきれいだし、コンセプトもしっかりしている。最近、小田原に『江之浦測候所』(完全予約制)という同氏の集大成的な美術館もできたので、訪れてみてはどうでしょう」

杉本博司《海景》・江之浦測候所(小田原)

■おすすめ作家(3)ON KAWARA(オン・カワラ)

「《デイト・ペインティング》という日付が記された黒い箱の作品で知られる作家。箱のなかにはアーティストがいた場所の新聞紙が入っています。その日は重大な事件が起きた日なのですが、ある人とっては幸せな日であったり、ある人にとっては不幸な日だったりもする。日付だけで受け取り手に世界や宇宙とのつながりを感じさせる、ミニマルアートの極致です」

ルイ・ヴィトンとコラボし、現代アートの最高額を更新し続けているアメリカ人作家

■おすすめ作家(4)Chim↑Pom(チンポム)

「3.11の際、渋谷駅にある岡本太郎の壁画に福島原発を貼り付けたことで一躍有名になったアートグループです。彼らの活動は常にボトムアップというか、パンクなんです。それはきっと、支配階級やインテリではなくても世界は変えていくことができる、ということ。彼らのアクションには、私たちのなかにあるちょっとした正義感を体現する力強さがありますね」

■おすすめ作家(5)MADSAKI(マッドサキ、マサキ)

「バスキアやキース・ヘリングの流れを汲む、ストリートペインティングの作家です。名画をパクったり著名人のポートレートを描いたりするんですが、顔の部分を鼻血を流すスマイルマークにすることで知られています。アートは美術館だけでなく、外で愉しんでもいい。また、アートに興味がなかった人も巻き込んで世のなかを変えていくという点では、ストリートアートは文明の最前線だと思うんです」

■おすすめ作家(6)Damien Hirst(ダミアン・ハースト)

「白いキャンバスにカラフルな点を描く『ドロップペインティング』という手法で世界を変えた、イギリス人アーティストです。また、ホルマリン漬けにした動物の死骸の作品で、彫刻の新しいかたちを提案しています」

ダミアン・ハースト《引き裂かれた母と子》。『美術手帖』(1993年9月号)より/ Photo by Jun Kumayama

■おすすめ作家(7)Jeff Koons(ジェフ・クーンズ)

「アメリカを代表するアーティストで、常に現代アートの最高額を更新し続けている存在です。有名な作品は、一見風船で作った犬のように見え、実はブロンズ彫刻である《バルーン・ドッグ》。最近は、ルイ・ヴィトンとコラボしたことで注目を集めたので、名前は知らなくてもご覧になった方は多いのではないでしょうか」

クリスチャン・ボルタンスキー《最後の教室》・新潟県十日町/Photo by Jun Kumayama

冗談のような抽象画や彫刻を作り、それが数億円で売れるイタリア人アーティスト

■おすすめ作家(8)Christian Boltanski(クリスチャン・ボルタンスキー)

「いかにもフランス人っぽく、常に政治的なメッセージを問いかけるアーティストです。戦争や事件などの記録をもとに作られる作品は、我々の想像力をかき立て、また大がかりな展示が多いので、圧倒的なスケール感で迫ってきます。2019年には大阪を皮切りに大回顧展が開催されますが、常設展では越後妻有の《最後の教室》がおすすめです」

■おすすめ作家(9)Bruce Nauman(ブルース・ナウマン)

「世界を代表するアメリカ人アーティスト。その名作を、瀬戸内海・直島のベネッセハウスミュージアムで観ることができます。《100回生きて死ね》は、食べたり飲んだり眠ったりといった人々の営みを表す動詞がネオン管で作られていて、それがランダムにチカチカと点滅する作品なんですが、あるとき一気に消えるんですね。つまり人間の一生と死を表現している。考えさせられる作品であり、作家です」

■おすすめ作家(10)Rudolf Stingel(ルドルフ・スティンゲル)

「ぼくが大好きなイタリア人のアーティストですが、彼は自分で作品を作りません。たとえば、他人にカーペットや発泡スチロールの上を歩かせて、その足跡を抽象画や彫刻にしたりする。冗談みたいですが、それが数億円で売れるんですよ。つまり彼は『アートとは何か?』を社会に問いかけている。ジェフ・クーンズを進化させた存在だと思います」

吉井さんの解説を聞いているだけでも、観てみたいと思った作家や作品があったのではないでしょうか。実際に作品に触れたら、あなたの世界が変わるかもしれません。

Text by Jun Kumayama
Photo by Jun Kumayama(main)
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

現代美術ギャラリー Hiromiyoshii roppongi
3月10日まで「脇田玲|Symptom Visualized」展が公開中(入場無料)
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