いつの時代からどの時代まで、どの作家から誰までを「現代アート」と呼ぶのか?
「現代アートはいまいちよくわからない」という人は多いことでしょう。しかし現代アートほど、その字面から意味が推察しやすいジャンルはないかもしれません。
たとえば、「ルネッサンス」「バロック」「ロココ」といわれても、いつの時代のどんな作品を指すのかわかりませんが、なにせ「現代」の「美術」です。今、この時代、リアルタイムで生み出されているアートであろうことはうかがえます。
しかし、それには亡くなった作家も含まれるのか。《太陽の塔》でおなじみの岡本太郎は現代美術作家っぽいものの、それ以前は誰から誰まで、どこからどこまでなのか。
現代アートは、いつから現代アートなのか?
現代アートの基本の「き」を学ぶべく、六本木の現代美術ギャラリー「hiromiyoshii」のオーナーであり、『現代アートバブル』の著作でも知られる吉井仁実さんを訪ねました。
アートの中心がニューヨークに移行した1950年代が近代美術と現代美術の分かれ目
「現代美術の直前は『近代美術』と呼ぶのですが、その分かれ目はどこだったか? たとえばピカソ以降だとか、意見はいろいろあります。私は、アート業界の中心地がフランスのパリからアメリカのニューヨークに移った1950年代だと考えます」(吉井さん、以下同)
吉井さんによれば、その背景には、第二次世界大戦によって経済の中心がアメリカに移ったこと。また、歴史や伝統がなかったアメリカが国をあげてアートを支援したことが挙げられる、とのことです。これはわかりやすい。
絵画に限らず、音楽でも映画でもダンスでも、アートとは常に新しい表現を求めるもの。ヨーロッパはアートの歴史が長いだけに、大きな変化を受け入れられなくなっていた。その点もアメリカで現代アートが生まれる契機になったそうです。
では、その頃にニューヨークで評価された代表的な現代美術作家とは?
「床にキャンバスを置き、上から塗料をたらしこむ『ドロッピング』という手法でおなじみのジャクソン・ポロックですね。彼は、絵を描こうと思って描いていた従来の絵画の概念を根底から変えてしまいました。その挑戦は、まだまだアカデミックなヨーロッパのアートに引きずられていた作家たちに多大な影響を与えたんです」
ジャクソン・ポロックと聞いてピンとこなくても、その作品を見れば「あれか」と合点がいく人も多いことでしょう(トップ写真)。しかしある面では、アイデアひとつ、素人でも描けそうな絵画と思えなくもありません。ポロックの作品になぜそこまでの価値が生まれたのでしょうか。
「現代アートにおいては、“コンセプト”が重視されるからです。ポロックの作品は、ジャンルでいえば抽象画ですが、抽象画とは本来、雑念を排して無意識で描くもの。とはいえ、手慣れるとうまくなってしまう。この問題をドロッピングで解決した。そこが評価されたのです」
いずれ初期の現代アートが「21世紀の美術」と呼ばれるようになる日がやって来る?
なるほど。今まで誰も思いつかなかった新しい表現や手法、概念を編み出した人こそが評価される──それが現代アートの世界なのですね。少しだけわかってきたような気がします。
ちなみに現代アートが誕生して70年近く経つわけですが、逆にいうと、いつまで「現代アート」と呼び続けるのか? という点も気になります。
たとえば、ピカソやポロックといった教科書に掲載されるような歴史上の作家と、いまアートフェアで活躍しているような作家をひと括りにしていいのかどうか。
「いいと思いますよ。やっぱり美術史のなかでは延長線上にいるわけですから。ただし、いま私のギャラリーで展示している脇田玲さんの『アート&サイエンス』や、チームラボの『アート&テクノロジー』のような、“その先のアート”も生まれてきています。しかし、まだ明確な名前や区切りはついていませんね」
いつの日か、初期の現代アートを「21世紀の美術」と呼ぶようになるかもしれません。
Text by Jun Kumayama
Photo by (C) Polaris /amanaimages(main)
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)