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第19回 | 大人旅にオススメ!世界の旅館・ホテル

文人が愛した宿──落合楼村上で日本の美を堪能せよ

老舗旅館は、創業時の精神を今に受け継ぎ、往時の職人の技を見ることのできる貴重な場所である。100年、あるいは150年にもおよぶ年輪の重みは最高のおもてなしを生み出す。湯ヶ島温泉の「落合楼村上」は、長い時間を紡いだ歴史の重み、そして日本の美を堪能できる至高の老舗旅館だ。旅ライター熊山准がレポートする。

与謝野晶子、川端康成、北原白秋ら文人墨客にこよなく愛された宿「落合楼村上」

伊豆半島のほぼ中央、天城山中に位置する湯ヶ島温泉。ここに、古く明治から昭和初期にかけ、島崎藤村や与謝野晶子、川端康成、梶井基次郎、そして北原白秋といった名だたる文人墨客にこよなく愛された宿がある。それが「落合楼村上」だ。

宿の歴史は明治7年(1874年)、周辺地域での金山事業で財をなした足立三敏が来客をもてなすため、家一軒が100円で建つ当時に、25万円という莫大な費用をかけてこしらえた迎賓館に始まる。

当初の名称は眠雲樓。やがて旧幕臣で、明治天皇側近だった宿の常連の山岡鉄舟が、旅館の横を流れる川──本谷川と猫越川が合流するのを見て、「落合楼としては?」と提案したことから現在の名前になったという。

さらに、平成14年(2002年)に現オーナー、村上昇男氏が宿を引き継いでから、落合楼に「村上」の文字が加えられた。

時代をさかのぼるかのような酩酊感、暖簾をくぐると140年前へとタイムスリップ

落合楼村上の身上はなんといっても、「国の登録有形文化財に泊まれる宿」という点だろう。

その風格はすでに入母屋造りの玄関から感じられる。紫の暖簾をくぐると、たちまち往時へとタイムトリップ。暖炉と骨董にかこまれたラウンジで一杯ごとにハンドドリップで淹れられるコーヒーでもてなされ、仲居さんの手引きで館内の深部へと歩みを進めると、まるで時代をさかのぼってゆくかのような酩酊感に襲われる。

明治創建の宿とはいえ、クラシカルツインの部屋は近代的な温泉旅館のそれ。チェアやベッドルームもあり、老若男女の誰もが快適に過ごすことができる。旅の疲れを癒やすべく、さっそくひと風呂あびることにしよう。

浴室はおもにふたつ。うち「天狗の湯」は、ほの暗い巌窟風呂の先に打たせ湯のごとく源泉かけ流しの湯滝が轟々と流れ落ちる呪術的な空間だ。

カルシウム・ナトリウム−硫酸塩泉、弱アルカリ性の泉質はさらりとやわらかな湯ざわりで、乾燥しがちなこの時期の肌をしっとりと保湿してくれる。

男女入れ替え制で愉しめるもうひとつの大浴場「ひさごの湯」は、モダンなタイル風呂でレトロな雰囲気。また、家族で入っても余りある貸し切り露天風呂(無料)も用意されている。

国登録重要有形文化財であることに驕らず、常に未来を見据える落合楼村上の気概

残るは食事だ。14室のみのゲストを迎える落合楼村上の会席膳は、近隣で採れる野菜や椎茸、わさび、天城軍鶏といった山の恵みを中心に、丁寧かつ滋味あふれるものばかり。

もちろん伊豆沖の海の幸も取り揃えており、この日は真鯛、ほうぼう、金目鯛の三種盛りがテーブルに並べられた。

なかでも嬉しかったのが、締めのわさびご飯に、酒のつまみにほど良いわさびの茎。料理をいただいた──松のどんちょうが見事な──宴会場では、リーズナブルな婚礼宿泊プランも用意されているそうだが、その理由は料理人の向上心とスキルを落とさないためだという。そこからは、老舗の名に驕ることなく、常に未来へと目をやる同宿の気概が感じられる。

落合楼村上への投宿は、本物とは何かを知る手がかり、日本の美を学ぶ絶好の機会

かくして心地良い湯と贅を尽くした食、そして情緒あふれる建築によって深い眠りに就いた夜だが、特筆すべきはまだある。

それがチェックアウト後、毎朝10時から催行される、主(あるじ)による館内ツアーだ。

宿泊者以外でもワンドリンク付き1080円で参加できるそれは、館内7つの有形文化財をはじめとした歴史的な由緒を聞けるまたとない機会。とりわけ注目は、大広間にあしらわれた直径一尺四寸にもおよぶ図太い紫檀の床柱。そして前オーナーの居室として使われていた石楠花の間にある、蜘蛛の巣の欄間だ。

国登録の重要有形文化財に泊まることができる宿という由緒と歴史に甘んじることなく、泉質や食事、そしてなによりホスピタリティにも抜かりがない高級旅館「落合楼村上」。

本物とは何か、を知るひとつの手がかりとして、また、日本の美を学ぶ絶好の機会として投宿することをおすすめしたい。

Text&Photography by Jun Kumayama
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

公式サイトはこちら
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第18回 | 大人旅にオススメ!世界の旅館・ホテル

1日1組限定の幻想体験──八丈島の「星降るプレミアムデッキ」

晴天の夜に東京の空を見上げても、星はポツポツと見えるだけ。「都会の空に星をください」と呟きたくなったことがある人は多いだろう。しかし、東京に見事な星空がないわけではない。自然豊かな島しょ部に行けば、東京とは思えないプラネタリウムのような星空が広がっている。そして、そんな夜空を満喫できるなんとも贅沢な「プレミアムデッキ」が八丈島に完成した。

透明のテント内から優雅に星空観察できる1日1組限定「星降るプレミアムデッキ」

「星降るプレミアムデッキ」が設置されたのは、八丈島にあるオーシャンビューも魅力のホテル「リードパークリゾート八丈島」の敷地内。アカツキライブエンターテインメント(旧・ASOBIBA)のプロデュースによって誕生したもので、東京都が推進している「多摩・島しょの自然を活用した新たな体験型エンターテインメント創出事業」のモデルプロジェクトにも選ばれている。

デッキには、360度を透明のシートで覆われたテントを設置。利用者はテント内のソファに深々と腰掛けて、夜間でも冷え込みを気にせずに星空を観察できる。また、利用できるのは1日1組限定(要予約、対象は同ホテルの宿泊者のみ)なので、絶景を独り占め状態で楽しめる。

アカツキライブエンターテインメント広報の正嵜さんによると、八丈島には海、山、空など自然を堪能できる観光資源が豊富で、東京都心からも飛行機なら1時間以内で行ける。しかし、その魅力が伝わりきっていないように感じたことから、八丈島に興味をもってもらうための入口として、キャッチ―なコンテンツを開発することに。そうして、「星降るプレミアムデッキ」が作られたという。

利用者には、八丈島ならではの特別メニューも提供

テントからゆったりと星空を眺められるだけでも十分だが、プレミアムデッキの特色はそれだけではない。利用者には、特別な食事メニューも提供される。その内容は、搾りたての八丈ジャージー牛乳で作ったホットミルクと、同じく八丈ジャージー牛乳を使ったリコッタチーズにサーモンを合わせたベーグルサンド(季節に応じて変更の場合あり)。ここでしか見られない景色と一緒に、地元の特産を活かした味も満喫できるのだ。

また、テントのそばにはハンモックも設置されており、夜風に吹かれながら寝転がって星空を楽しむこともできる。チェックインからチェックアウトまで利用できるので、夕方や朝にこの場でゆっくりと涼しく過ごすことも可能だ。

美しい星空をストレートに楽しめ、まさに八丈島に興味を持つ入口としてふさわしい場所と言える「星降るプレミアムデッキ」。家族やパートナー、仲間たちと一緒に、あるいは贅沢にひとりで極上の眺めを体験したい…そんな人は、まずは宿とプレミアムデッキの予約を済ませてから、島内での観光プランを立ててみてはいかがだろうか。

Text by Fumio Miyata
Edit by Kei Ishii(Seidansha)

施設情報
星降るプレミアムデッキ

住所:東京都八丈島八丈町三根5392番地 リードパークリゾート八丈島
利用料金(特別フードメニューを含む・税別):
1名/8000円
2名/1万円(一人当たり5000円)
3名/1万2000円(一人当たり4000円)
4名/1万4000円(一人当たり3500円)
※利用はリードパークリゾート八丈島宿泊者のみ。宿泊費は別途必要。
※利用時間はホテルのチェックインからチェックアウトまで。


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