寄港地ごとに現地調達する旬の食材や名産品、メガクルーズ船にはない食の愉しみ
豪華客船の旅は、海の上を移動する時間そのものが旅の大きな目的だ。船内には日がな一日海を眺めて過ごせるバルコニーがあり、オーシャンビューのジャグジーがあり、いつでも身を預けられるベッドがある。そうしているうちに次の港にたどり着く。ホテルが移動する。それが豪華客船の醍醐味だ。
となると居心地の次に気になるのが食である。日本を代表する豪華客船にっぽん丸は、「食のにっぽん丸」「美味なる船」とも称され、グルメ目的でリピートするファンが存在するほど、食へのこだわりの強い客船として知られている。
こだわりの最たるものが、食材だ。
なにせ、その多くが寄港地ごとの現地調達。旬の食材や名産品など、その時その土地でしか手に入らない食材──例えば大分・別府ならば佐賀関で水揚げされる関アジを、鹿児島・種子島ならばさつまいもブランド安納芋を──毎朝仕入れて船内で提供しているのだ。
こうした小回りが利くのも乗客定員400名というほどよい規模のおかげ。このオーダーならば、たとえお目当ての食材が不作や不漁で仕入れられなくても、臨機応変に別の旬の食材へと切り替えて提供することもできる。こうした細やかな食へのこだわりが、メガクルーズ船にはない、にっぽん丸ならではの愉しみなのだ。
出港地にちなんだメニューがずらりと並ぶ「美味なる船」にっぽん丸のフルコース
では、「九州一周クルーズ」の初日のディナーを紹介しよう。
この日は福岡市場で仕入れたカンパチ、いさき、太刀魚の刺身をはじめ、真鯛と蕪の蒸し物、真鯛と新生姜を使った鯛飯など、出港地にちなんだメニューがずらり。デザートには大分県産の梨とパパイヤを用いるなど、次の寄港地への期待を膨らませてくれる心憎い演出もあった。
現地調達の食材とともに、同船の名物としてファンが多いのが、デラックス、スイート宿泊者専用のオーシャンダイニング「春日」でリクエストすれば無料で提供される特製ローストビーフだ。ほどよくサシの入った霜降りのローストビーフは、まるでトロのようななめらかさ。滞在中にぜひとも一度味わっていただきたい一品だ。
また、別料金となるものの、にぎり寿司を付け加えることや、コース自体をパスして寿司バーで食事をすることもできる。筆者はここで、獺祭や〆張鶴といった日本各地の名酒とともに、ホタテの海苔巻きや穴子の白焼き、お造りといった前菜をはじめ、濃厚な肝を載せたカワハギ、淡くとろけるマグロなど様々なネタを愉しんだ。
食後は船内に2カ所あるオーセンティックなバーで美食の余韻に浸るのもよいだろう。まだまだ食べ足りないという向きには、7階のリドテラスの特製ハンバーガーやホットドッグが、さらには2階のメインダイニングでも毎晩異なるメニューの夜食が、無料で提供されている。
己を律しないとついつい食べてしまう、美食の船にっぽん丸。5日間におよぶクルーズの後、体重計に乗っておののいたことを忠告として最後に付け加えておこう。
Text&Photography by Jun Kumayama
Series:にっぽん丸ラグジュアリークルーズガイド