子どもの頃に想った「岩と砂がどこまでも続く荒野をクルマで駆け抜ける」夢
子どもの頃「行ってみたい国はどこですか?」と聞かれると、「アメリカ合衆国です」と答えていた。今でこそ選択肢は無数にあるけれど、40代以上の男にとって、テレビや映画でとり上げられる外国はまずアメリカであり、海外旅行とはアメリカを旅することであったように思う。
なかでも僕の夢は、ハワイでもニューヨークでもなく、グランドキャニオンに行くことだった。岩と砂がどこまでも続く荒野をクルマで駆け抜けてみたい。おそらく同年代の読者諸兄も同じような想いを抱いていたのではないだろうか。
でも、あまりにステレオタイプな旅だけにずいぶんと後回しにしてしまった。なぜならアジアやヨーロッパ、さらには中東やアフリカを旅するほうが「意識が高そう」だからだ。最近でこそヒップでクールなアメリカンカルチャーが取りざたされているものの、少し前までアメリカといえばおバカで間の抜けた印象を抱いていたように思う。
ともあれ、今あえてアメリカを旅するにはそれなりのエクスキューズが必要だ。今回はさしずめ「子どもの頃の夢をかなえる」ということになるだろうか。場末のダイナーでハンバーガーにかぶりつき、ロードサイドのモーテルで眠りたい。アメリカンニューシネマで観たあのシーンを追体験したいのだ。
レンタカーの料金は1週間で4万円以下、驚くほど低コストのアメリカロードトリップ
アメリカのロードトリップに先立って必要なのは、国際免許証の取得とレンタカーの予約だ。国際免許証は所定の証明写真を用意して最寄りの運転免許センターに行けば即日交付される。レンタカーも──たとえ英語が苦手でも──インターネット上にて日本語で予約することができる。スマホのおかげで旅行の手配はますますお手軽だ。
レンタカーは、「バジェット」「アラモ」「エイビス」など日本語サイトを用意している大手のなかから、今回は日本にも営業所があり、多くの提携クレジットカードの割引が受けられる「ハーツレンタカー」を選んだ。現地では75マイル(約120km/h)ほどで長時間巡航するので、クルマはオートクルーズコントロールが付いた2000cc以上のクラスが良いだろう。車上荒らしも少なくはないと聞いたので、トランクルームに荷物を隠すことができるセダンをチョイスした。
保険は、不安であればフルカバーしておくのが無難。切り詰めるにしてもLDW(車両損害補償制度)、LIS(追加自動車損害賠償保険)、PAI/PEC(搭乗者傷害保険/携行品保険)には最低限加入しておきたい。一方、カーナビはオプションかつ高価なのでGoogleマップでまかなうことにした。
以上の条件で、1週間わずか354ドル、日本円にして4万円以下。ガソリンは1日、400〜500km走っても3000円程度だし、高速道路は無料なので、いかに日本でのロードトリップが高コストであるかがうかがえるだろう。
なお、出発までに余裕があれば、レンタカー会社の会員証を作っておくことをおすすめする。ハーツレンタカーの場合、会員証があればクラスごとに駐車されたスペースの中から好きな車種を選ぶだけ(営業所によっては電光掲示板で、自分の名前と車種が案内されている場合もある)。あとは営業所の出口で、車内に用意されていた契約書と運転免許証を見せればすぐに出発できるからだ。
注意が必要なのは「左ハンドル右側通行」「速度制限」「ガソリンスタンドでの給油」
さて、ここまでは良しとしよう。問題は左ハンドルと右側通行だ。
とりわけ危険なのが営業所を出た直後。特に左折時は、長年の習慣でうっかり左車線に吸いこまれそうになる。脅すわけではないが、海外でレンタカーをピックアップしてすぐに交通事故で命を落とした知人もいる。
もし右側通行に不安を抱くのであれば──ちょっと馬鹿馬鹿しい忠告に聞こえるかもしれない──『グランドセフトオート』や『ウォッチドッグス』といった、アメリカを舞台にしたオープンワールド型のアクションゲームにつね日ごろから慣れ親しんでおくことだ。事実僕はプレイ経験のおかげでロサンゼルスの交通にすんなり順応することができた。騙されたと思って試してみてほしい。
その他にアメリカの交通ルールで注意しておきたいのは、「基本的に赤信号でも右折できること」「トラックやトレーラー以外は踏切で一時停止しない」「スピード違反の取り締まりが厳しいこと」などだろう。なかでも制限速度は小さい標識で一度だけ表示されるケースが多いので見逃さないようにしたい。
また、誰もが戸惑うのはガソリンスタンドでの給油方法かもしれない。
ほとんどがセルフ式で、なおかつ日本のクレジットカードは給油機で弾かれることが多く、給油前に併設されたコンビニのレジで受付しなければいけないケースがほとんどだった。その際、給油機の番号と、給油したい金額を先に伝える必要があるのだが、普段乗り慣れないクルマだけにどれだけガソリンが入るかがわからない。最初は10ドルや20ドルなど少なめに申告して様子を見ると良いだろう。
あれこれ面倒くさいファクターが多いように感じるかも知れないが、一度経験してしまえば「あんなに不安を抱いていたのはなんだったんだろう?」と拍子抜けしてしまうほど簡単だ。
というわけで、これで僕らはフリーウェイに乗ってどこまでも行けるようになった。フロントウィンドウにはやけに青い空と、途方もない地平が広がっている。ハンドルを握る手はまだ少し緊張しているけれど、きっとそれも含めて「自由」ってことなんだろう。さて、30年越しの夢を叶えに行くとしよう。
Text&Photography by Jun Kumayama