ポーカーで長期的に利益を出すためには数学的なアプローチが欠かせません。その最も基本的なコンセプトがエクイティ(Equity)と期待値(EV:Expected Value)でしょう。
今直面している状況で自分のハンドはどのくらいの価値があるのか、どのアクションが最も利益を生むのか、エクイティと期待値はその重要な判断基準になります。
一方でしばしば混同されがちですが、エクイティと期待値は別のコンセプトです。
両者には明確な違いがあり、その違いを理解して使いこなせば、ポーカーの戦略をより洗練されたものにすることができるでしょう。
ここではエクイティと期待値の定義・計算方法・実戦での活用法について、全2回で詳しく解説していきます。
エクイティと期待値(EV)の定義・計算
以下が定義です。
- エクイティとは、特定の状況において、勝率に基づいて計算されたポットの取り分の比率、あるいはその勝率のこと。単位はパーセント。
- 期待値(EV)とは、特定の状況において、あるアクションを選択したときに見込まれる利益・損失(金額やチップ)のこと。プラスにもマイナスにもなり得る。単位はドル、点など。
それぞれの違いをわかりやすくするため、一つ例を挙げましょう。
100bb持ちのBU(ボタン)はAKで3.5bbにオープンしました。SBがコール、BBはフォールドし、ヘッズアップです。
フロップ:KJ5(Pot 8bb)
SBはチェック、BUはポットの1/4のサイズ(2bb)のベットをしたところ、SBは10bbのオールイン。SBはショートスタックだったのです。
BUがコールするにはあと8bbが必要です。
さて、この状況でのBUのエクイティと、オールインにコールしたときのEVを考えてみましょう。
まずはSBがオールインするレンジを知る必要があります。今回はSBのレンジを5のセット、Kのワンペア、KJのツーペア、ダイヤのフラッシュドロー、オープンエンドストレートドローと仮定します。
黄色と緑色がオールインするハンドで、緑はダイヤのスーテッドのみです。
この場合、SBのレンジ全体とBUのAKの勝率は36% vs 64%となっています。
この64%というパーセンテージがBUのエクイティです。
BUはターン、リバーでダイヤが落ちてSBに負けることもあれば、AとKが落ちて5のセットに勝つこともあります。ターンとリバーで落ちるカードのすべてのパターンを考えたとき、BUが勝つのはそのうち64%である、というのがBUの勝率です。
ということは、長期的に見ればBUは20bbのポットのうちの64%を既に持っていると考えることもできます。このポットの取り分の比率、あるいは勝率をエクイティと呼びます。
では、BUがコールしたときのEVについて考えてみましょう。
しばしば誤解されがちですが、20bbのうち64%の12.8bbはあくまでもエクイティに基づいたポットの分け前であって、EVではありません。
エクイティはあくまでも現在の勝率に過ぎず、EVを計算するためにはそれだけでは不十分です。
なぜなら、コールというアクションを取るのに必要な8bbがBUにとってはリスクであり、勝率に基づいてそのリスクを評価した上で、ようやくコールのEVが計算できるからです。
つまりEVの計算は、勝率に基づいたリターンだけでなく、そのアクションを選択することによる利益・損失も加味する必要があります。
仮にポストフロップのアクションはチェックしかないようなルールのポーカーを考えるならば、フロップでのエクイティ(に基づいたポットの取り分)とEVは等しくなります。
その理由は二つあります。一つは、チェックはベットやコールのようにポットの大きさを変化させることがないからです。
もう一つは、互いにチェックすることしかできないポーカーでは、相手のアクションを考慮してより有利なアクションを選ぶことができないからです。
この点はエクイティとEVの違いを理解する上で非常に重要ですので、もう少し詳しく見ていきます。
通常のポーカーでは、プレイヤーAがチェックをしたとき、プレイヤーBはそのチェックを見てベットをすることができます。Aのチェックは弱みであると判断し、Bはチェックするよりもベットをしたほうが利益が大きくなると判断したわけです。
一方で、Aは非常に強いハンドを持っているときにチェックすることもできます。その場合、Aはベットするよりもチェックをして、Bにブラフを打たせたあとで、それに対してレイズしたほうが利益が大きくなると判断したわけです。
この場合、Bはブラフせずにおとなしくチェックをしたほうが利益が大きく(損失が小さく)なります。
もちろん、互いのハンドレンジ、ボード、スタックサイズ、ポジションなどによってA、Bの判断は変わります。ある状況ではチェックよりもベットのほうが利益が大きいでしょうし、逆もまたしかりです。
ここで重要なのは、アクションによって互いの利益や損失が変化するということです。
アクションが利益や損失を変化させる理由は二つあります。
- アクションはポットサイズに影響を与える:ベット、レイズ、コールはポットを大きくし、チェックはポットサイズを保つ効果がある。ポットサイズは利益や損失をダイレクトに変化させる。
- ポーカーにおける利益はアクションを適切に選ぶことでもたらされる:ポーカーにおける戦略とは、ベットサイズの調節を含むアクションそのものであり、プレイヤーは互いに自らのアクションを適切に選ぶことで利益を最大化(損失を最小化)を図ることになる。また、利益・損失がゼロであるフォールドを選択する場合もある。本来、ポーカーはそのようなゲームデザインになっている。
ポストフロップでチェックしかないポーカーではポットサイズが変わらず、さらに互いのアクション(戦略)も選択の余地がないので、結果としてポストフロップの利益・損失はフロップが開いた時点で見込まれたものから変化せず、エクイティとEVが等しくなります。
エクイティはアクションによる利益・損失の変化を無視して計算されます。
一方でEVは、勝率に基づく現在のポットの取り分をベースとして、未来のアクションによってどのように利益・損失が変化するかまで含めて初めて計算できるのです。
これがエクイティとEVの最大の違いであり、最も混同されやすいポイントだと思います。
BUとSBの例に戻りましょう。
ここでのEVを計算するためには、アクション(コール)によってBUの未来の利益・損失がどのように変化するかを考慮しなければなりません。
オールインに対するコールですので、ターン以降で互いのアクションの余地は残されていません。そのため、ここで考えるのはコールの「ポットサイズに対する影響」のみです。
コールがポットサイズに与える影響は当然ポットを大きくすることですが、ターン以降はSBがポットをこれ以上大きくすることはないため、コールによる未来のポットの増大分は100%BUが投資したものとなります。
つまり、ポットサイズの増大によってもたらされるBUの利益・損失は、「勝ったときはコールの投資額が戻ってくるが、負けたときは戻ってこない」といったものであり、BUにとっては純粋なリスクでしかないことがわかります。
以上のことを考慮してBUのコールのEVを計算すると、次のようになります。
- EV(call)=(勝ったときの利益ー勝ったときの損失)*勝つ確率 +(負けたときの利益ー負けたときの損失)*負ける確率
EVの計算式は起こり得るすべての事象の確率とその収支(利益ー損失)の積の総和になります。
ここで言う「損失」とはコールに必要な8bbですので、この式に数字を当てはめるとこのようになります。
- EV(call)=(28bbー8bb)*64% +(0bbー8bb)*36%=9.92bb
この9.92bbがBUがコールしたときのEVです。
エクイティに基づいたポットの取り分である12.8bbよりも低くなっています。その原因としては、
- コールというアクションを取ることによってターン以降でSBからさらにチップを引き出したり、あるいは損失を小さくすることができない(戦略で未来の利益を改善する余地がない)
- コールに必要な8bbがBUにとってのみリスクとなってしまう
という二つが挙げられます。
とはいえ、BUのアクションはコールかフォールドの二択で、フォールドはEV=0ですので、よりEVの高いコールが正しいアクションになるでしょう。
そして、より多くの状況で+EVのアクションを選択できれば、長期的に見て収支は増えていくことになります。
このように、EVの計算にはアクションによる未来の利益・損失の評価が必要になります。
ポストフロップのアクションをすべてチェックで回した場合や、あるいはオールインした・された場合は、未来のアクションに選択の余地が残されていません。
そのため、これらの場合はアクションがポットサイズに与える影響だけを評価すればよく、比較的計算が容易です。
しかし、実際には未来のアクションの選択の余地が残されている状況がほとんどでしょう。
例えばフロップでコンティニュエーション・ベット(CB)を打つ場合、相手プレイヤーにはフォールド、コール、レイズの選択権が発生しますし、ターンでは互いにチェックやベットのアクションの選択肢が残っています。
相手がCBにコールした場合、相手はドローハンドを持っているのかもしれませんし、トップペアを持っているのかもしれません。ターンで落ちるカードによっては自分の勝率が上がることもあれば、下がることもあるでしょう。
フロップのCBのEVを計算するためには、それらすべての可能性が自分の利益・損失にどのように影響を与えるのか、一つ一つを計算しなければなりません。もちろん、そのような複雑な計算は人間には不可能です。
そのため、以後のストリートにアクションが残っている場合のEV計算については、以下の二つのやり方をおすすめします。
- 以後のストリートではエクイティを最大限実現するようなプレイができると仮定して簡易的なEV計算をする
- ポーカーツールに任せる。具体的にはPokerSnowie、PioSOLVERなどの人工知能やGTO計算機を使う。
一つ目の簡易的なEV計算は真のEVではありませんので誤差がありますが、人間でも計算が可能ですし、頻出の状況の計算結果を覚えておき、似た状況のEVを類推することが可能ですので、実戦的な方法だと思います。
次の記事で簡易的計算の例を挙げていますので、詳しくはそちらをご覧ください。
二つ目のポーカーツールはショーダウンまでのすべてのシチュエーションを考慮した真のEVを計算してくれます。
ただし、Snowieはディープラーニングを用いたポーカーAIであり、PioSOLVERはアルゴリズムを用いたGTO計算機ですので、計算方法がそれぞれ異なります。
そのため、状況によっては計算結果に差が生じてしまいます。
エクイティと期待値(EV)の関係
最後に、エクイティとEVの関係について少しふれたいと思います。
一般的に、同一の状況でのハンド(レンジ)を比較したとき、よりエクイティの高いハンド(レンジ)の場合のほうがEVが高い傾向にあります。
例えば、先ほどのBUとSBの場合なら、BUのハンドをAKからKKのセットに変えると、当然エクイティは上がります。それに伴って、オールインにコールする場合のEVも上がることはすぐにわかると思います。
逆にBUのハンドをエクイティの非常に低い76にすると、EVは大幅に下がり、明らかに0以下の−EVとなるでしょう。
一方で、エクイティが非常に低い場合でもEVがプラスになる状況もあります。
ポーカーでは基本的に勝率(エクイティ)が50%以上あるならばEVはプラスになることが多いため、反対に勝率が極めて低いときはEVがマイナスになると思いがちですが、実際にはそうとは限りません。
例えば、ポットが100bbで相手のスタックは10bb、ボードがAK5で自分のハンドがQTだとします。
ガットショット・ストレートドローができているものの、相手のレンジは非常に強く、自分のQTのエクイティは20%でした。
相手が残りの10bbをオールインしてきた場合、コールのEVはいくらになるでしょうか。
先ほどのSB vs BUと同じように計算式を立てると、
- EV(call)=(120bbー10bb)*20% +(0bbー10bb)*80%=14bb
となり、+EVになっていることがわかります。
QTのエクイティは非常に低いものの、相手のベットサイズが非常に小さいため、コールするのに十分なオッズが与えられていることがその理由です。
このように、エクイティとEVは同一の状況の中では正の相関がありますが、「一般的にエクイティが50%よりも低い=常にEVがマイナス」というわけではありません。
この点には注意が必要です。
次の記事ではエクイティ・期待値の実戦での活用方法、簡易的な計算方法を紹介するよ。