穏やかなるかなカルネ村 作:ドロップ&キック
<< 前の話 次の話 >>
モモンガ様、未来への一歩を踏み出す!……って感じで(^^
「モモンガ、この世界の見聞を広めることを兼ねて、アーグランド評議国評議会の”
「エージェント!? なにそれ、カッコイイ!!」
子供のように……と言うか子供そのままに目をキラキラさせ始めたモモンガのリアクションに、ツアーとリグリットが思わず頭を撫でてしまったことを誰が責められようか?
無論、ツアーは気を使って指先でだ。
「えっ? えっ? えっ?」
目を白黒させるモモンガに、
「確かに妙案じゃな。評議会の依頼をいくつかこなすうちに自然と信用もできよう。さすれば、フリーランスの傭兵やら護衛やらもじきに成り立つようになるじゃろうて」
「えっと、ツアー……ところでエージェントってどんなことをやるのかな?」
ツアーに視線を向けたモモンガに、
「大雑把に言えば、”世界を大きく歪ませる予兆を察知するために、人間社会に送り込む調査員”ってとこかな?」
ツアーの話を要約すればこうなる。
評議国は100年前の魔神と十三英雄の戦いの後にできた国家で、その主導的立場であり発起人であるのはツアーたちドラゴンだった。
また国民は亜人が主流で、人間種はいないわけではないが明らかな少数派だ。
その建国の理念は「世界の滅亡を阻止する」こと。
スレイン法国のそれと似てなくもないが、あっちは「人類の滅亡を阻止する」という人間至上主義的な考えに基づいており、評議国の建国理念とは折り合いが最悪、評議国が基本人外/異形の国家として考えるなら正反対の思想と言っていい。
なぜなら評議国は「人類の存続と世界の存続の二者択一なら、迷うことなく世界を選ぶ」国家であり、極論すれば世界の存続のためなら人類という種の滅亡も容認する国家なのだ。
「具体的に言えば、今回はたまたま私の前にモモンガが落ちてきたし、おかげで事なきを得たけど……100年ごとにおこる公算が大きい、いわゆる”百年の揺り返し”。100年ごとに転移してくるぷれいやーが巻き起こす騒動や異変を事前に察知するのが一番大きな役目だよ」
そしてツアーはもう一度指でモモンガの頭を撫でながら、
「モモンガ、よく聞くんだ。ぷれいやーは君のような善良なものばかりじゃない。むしろ君のような存在は稀有、例外的と言っていい。彼ら彼女らの多くは人間……人間であるからこそ、善性も悪性も持つ。また善性は時の移ろいと共に容易に悪性へと変わり行く。それはわかるね?」
「ああ勿論。俺も何度も”異形種狩り”に合って……大きな理由もなく、面白半分に人間に襲われてるから」
『たっちさんに出会ってなければ、すぐにユグドラシルをやめてただろうな……』という言葉をモモンガは飲み込んだ。
「そして滅びの予兆は、大抵が人間の世界で観測される……これはきっと、どんな異形の姿をしていても、ぷれいやーが元々は人間だったことが大きく影響してると思う」
納得のいく話だった。
人間種だろうがそれ以外だろうが、ユグドラシルのプレイヤーは元をただせばただの人間だ。ミノタウロスの国で暮らした”口だけ賢者”のようなケースもあるが、少なくとも人間に化けれるか人間社会に馴染める素養があれば、人間世界をベースにする方が馴染みがある分、何かと都合がいいのであろう。
「でもツアー、プレイヤーの出現は100年ごとなんだろ? 俺がここにいるってことは、次は100年後じゃないのか?」
「そうとばかりは言い切れない。同時多発的に複数のぷれいやーが別々の場所に漂着する可能性も捨てきれないし、それに問題はぷれいやー本人だけじゃないんだ」
「というと?」
「さっきも言ったろ? ギルド武器を破壊されるなりして暴走、魔神と化した従属神……えぬぴーしーとか、ぷれいやーが遺した危険極まりないアイテムの発見と回収も重要な任務さ」
「特に法国は六大神、記録上はこの世界に漂着した最初のプレイヤー達の遺産を大量に隠し持っとるよ。中にはボン達が言うところの
「んげっ!?」
リグリットの追加情報にモモンガは妙な声を出しながら法国に対する警戒レベルを一段階引き上げた。
確かにモモンガにワールドアイテムは通用しない。何しろお骨な体の中心部で輝く赤い宝玉、通称”モモンガ玉”は立派なワールドアイテム、その効果を相殺できる。
だからといって警戒しないわけにはいかない。
全200種類の世界級アイテムの中でも、別格の20……1回限りの使いきりアイテムゆえに、その効果は絶大にして凶悪なそれは、使われるたびに洒落にならない事態を引き起こす。
例えば、”
そしてツアーは八欲王が世界を歪め、自分たちの魔法を穢しユグドラシルの魔法を世界に
「そんな状況だからね。だから人間社会を見張る監視者、エージェントが必要になってくるのさ。だけど評議国の住人は人間以外が多数派、人間もいなくはないけど生半可な強さだといざという時には返り討ちにあいかねない。リグリットも言ってたけど、特に法国には要注意だ。どんな遺産を隠し持ってるか判らないし、それを使えるだけの人員も用意していることだろう」
モモンガにはツアーが言わんとすることが判ってきた。
つまり、
「ある程度の強さがあって、ユグドラシルの装備やらなにやらに詳しい……まさに俺が適任ってことだね?」
「モモンガ、大変な仕事になると思うけど引き受けてくれるかい?」
「ああっ!」
☆☆☆
力強く頷くモモンガだったが、ミッションの性質上、すぐに始められる訳じゃない。
相応の準備も訓練も必要になる。
それに、
「ボンには”
リグリットはそう切り出した。
「えっ? どうして?」
「モモンガはボンの本来の名、ヌシの
う~んとモモンガは考え込むがリグリットはカカッと笑い、
「なに、難しく考えることはないぞえ。冒険者など本来の名を捨てた者なぞごまんとおる。名がないと不便なのでつけるようなものじゃて」
モモンガはふと自分が漆黒の鎧を身に纏ってることを思い出した。しかもこの世界では”南方系”と認識されることが多い黒い瞳に黒髪だ。
「”
ふとそう口から漏れた。
「なぬ?」
「いえ、黒い見た目のまんまですけど……”
「ああ、たしかに歴史上には黒騎士を名乗った者はごまんとおるな。そういえば
「でしょ? だけどダークウォリアーなら似たような意味でも誰も使ってないでしょうし、第一、俺は騎士ってガラじゃないですから」
きっとモモンガの中での騎士像は、かつて同じ時間を過ごした白銀の聖騎士なのだろう。
「ダークウォリアーか……いいんじゃないか?」
ツアーもその響きが気に入ったのか、賛成の意を示した。
こうして、かつて鈴木悟と呼ばれた青年……モモンガとしての再出発、そして生涯”もう一つの名”として背負う名が決まったのだった。
だが、彼がこの世界に旅立つにはもうしばしの月日が必要だった。
未だ出てこぬ”もう一つの姿と名”はこの時は影も形もなく、また何より……そう遠くない将来に伴侶となる最愛の存在と出会ってもいないのだから。
だが、それを今語るのは野暮と言うものだろう。
もし再び過去を振り返る日があるのなら、その時に改めて……
読んでいただきありがとうございました。
このエピソードでちょうど過去篇Iは10話目、偶然ですが随分キリがいいところで終われました(^^
この過去篇Iは、「モモンガ様の異世界における新たな出発、ダークウォリアーの誕生、そしてそれを支えたツアーとリグリットとの出会い」をメインにかく”始まりの物語”なのでなんとかそのコンセプトを完遂できたかなと。
次回から時間軸は100年前から現在に戻りますが、改めてよろしくお願いします。