オーバーロード 骨の親子の旅路 作:エクレア・エクレール・エイクレアー
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法国。人類国家最強の名を持つ宗教国家であり、六大神の恩寵を受けて人類の守護を受け持っている大国である。
最近この法国では数々の問題が起きている。国の運営には支障がないが、国の根幹には関わる出来事ばかり。
その初めは王国戦士長ガゼフ・ストロノーフの抹殺失敗から起き続けている。
そもそもとして、過去にこの世界で暴れた魔神すらも打ち破った最高位天使が封じられている魔封じの水晶を持った陽光聖典が、たとえ周辺諸国最強の戦士と言われていても最高装備を剥ぎ取られている状態では万に一も失敗はないはずだった。
後々の調査から陽光聖典の出撃していた班員半数と最高位天使を屠った者は、今エ・ランテルで冒険者をやっているモモンとパンドラということがわかり、南方からの流れ者だという話だが、神官長による会議の結果神または神に準ずるものではないかという結果になった。
最高位天使を一撃で屠る実力。その実力を測ろうと覗き見した巫女姫への瞬時の対応ともたらされた被害。その被害の甚大さと陽光聖典隊長であるニグンが持ち帰った情報から神に関する者でなければそこまでのことはできないだろうという結論だ。
法国としても痛い被害が出たが、唯一の幸いはその神と思われる存在があくまでカルネ村という辺境に留まって冒険者をやっていること。その冒険者としての活動も、そこまで目立つようなものではなかった。大きな事件を解決してみせたが、最高位天使を撃破した時のような強大な力の発露はせずに小さく事件を纏めてくれたからだ。
その事件のどさくさで失った土巫女の補填ができたことも大きい。男だが。クレマンティーヌが出した被害も合わせると差し引きマイナスではあるが、補填できただけマシというもの。
むしろその少年は元々「どんなマジックアイテムでも用いることができる」という希少すぎるタレントだったために、法国も手中に収めようと狙っていた少年だった。そういう意味ではあのエ・ランテルでの事件は都合が良かったとも言える。
その希少なタレントも、叡者の額冠を装備したことで潰されてしまっているが。
そんな大なり小なりの事件を経て、カルネ村への不可侵も言い渡されてしまったことで法国としてはモモンたちに接触できなかった。ごたごたがあって王国を帝国に併合させるというのもできそうになく、また神かもしれない存在がいるのだから本当に神であるならば一つの国くらい救って見せるだろうという楽観視もあった。
それ以外にも竜王国のビーストマンやエルフ国など人類の危機はたくさんあった。そのために王国は二人に任せて他のことへ着手していたというわけだ。
王国には手を出さないとはいえ、破滅の竜王という予言された存在は無視できなかったためにトブの大森林は調査していた。その休憩がてらエ・ランテルへ寄っていたら叡者の額冠を装備した少年を見つけたために保護したのだが。
その護送も済んで今は漆黒聖典は法国に戻っている。しばらくしたらまた破滅の竜王は探しに行くが、今は休養中だ。
だからこそ、漆黒聖典の隊長はとある人物に捕まってしまうのだが。
「神様が現れたって本当なの?」
そう問いかけたのはルビクキューという物をいじっているエルフ耳を隠した十代半ばの姿をした少女。こんな見た目ではあるが法国最強の戦士であり、漆黒聖典全てを敵に回しても勝利できるという番外席次その人だった。
「その疑いのある人物、ですね。もしかしたらどちらも従属神様かもしれませんし、あなたのように血を受け継いでいるだけかもしれません」
「まだその段階なんだ。ああ、不可侵を言い渡されて、覗き見したら巫女姫ちゃん爆発しちゃったんだっけ?」
ケラケラと楽しそうに嗤う少女。その存在そのものを秘匿すべしという方針のもと、彼女は基本的に中央神殿から出ることはない。評議国を敵に回した時に竜王たちを屠るための最終兵器なのだ。おいそれと表に出していい戦力ではない。
そんなある意味侮辱的な態度を取っていても誰も咎めることはできない。それだけの実力と立場があった。
「はい。その補填をできたのは僥倖でした。彼は我が国で丁重に管理する予定です。それと先程の存在は冒険者をしている際に調べるしかありません。彼らが保護するカルネ村に監視員を送り込めば何をされるかわかりません。逆鱗に触れないよう、彼の村の外でのみ接触をするよう心がけています」
「じゃあ確証がもてなくても仕方がないか。それで、男?」
「はい。冒険者登録での性別は男。陽光聖典のニグン隊長も男だろうと述べていました」
「それは楽しみ。……でも、あの魔封じの水晶に入ってた天使倒しただけでしょう?あれ、私にも倒せるしそこまで期待しないでおこ。私と同格じゃなくて、強い存在がいいわ」
そう言いながら下腹部を撫でる少女。彼女は自分より強い存在との間に子を為すことを唯一の願いとしている。
そんな彼女だからこそ、漆黒聖典隊長は疑問に思う。彼の者の力を知らないのかと。それを口にしてしまい後悔することになる。
「剣士の方は空を割ったとニグン隊長は語っていましたよ?」
「空をっ!?……神官長ども、私に全部報告しなかったな」
(しまった……。彼女が飛び出さないように秘匿していたのか)
「ですが、単独行動は控えてくださいね。おそらく我が国のことは良く思っておりませんし、あなたが法国の者と知れば接触も許してくれないでしょうから」
「イヒッ。なら交渉できるように神官長たちを脅してくればいいんでしょう?神かもしれない存在を放置するのかって」
こうなってしまえば誰も本当に止められない。自分の失態だとわかっているので、もし彼女が無茶を言うようであれば、できる限りはしようと思った隊長だった。
「命令が下されれば我らが主となって動きましょう。ただ風花聖典や巫女姫を使うのはやめてください。彼の者たちに魔法で干渉すれば先日のような仕返しを受けかねませんので」
「わかったわ。法国っていう体裁がなくなるのはマズいもの。それくらいの分別はあるわ」
諦めてルビクキューを弄り直す。諦めたように見せているが、ちょっとそそのかしてあえて喧嘩を振って怒らせて、法国という枷がなくなって素性を画して会いに行くのもアリかと思っていた。
隊長はなんとなくそんな様子の番外席次に一抹の不安を感じていたが、それが確信になる前に邪魔が入る。
「隊長、大変です!」
「どうした?裏切り者のクレマンティーヌでも見つかったのか?」
「いえ、そうではなく……。王国で大規模な革命が起きました」
「……なに?」
それは人類圏において確実な厄介ごと。世界の歯車が回る撃鉄。
どういった内容なのか、どう変化するのか。その結果どういう王国になり、周辺国家にはどのように対応するのか。
人類圏でもっとも国民がいる国だけあり、今後の人類保護計画には何かしら影響が出てくる。その良し悪しを確認するために、正確な情報を手に入れるために隊長は速足でその場を去った。
残された少女は、口元を三日月に歪める。
「ああ……。世界が流転する。楽しいこと、起こらないかなあ……?」