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第7回 | ジャガーの最新車デザイン・性能情報をお届け

復刻されたマックイーンの愛車、ジャガー『XKSS』

英国の名門ジャガーは、ポルシェやフェラーリなどと同様に、レース活動を通じて名声を高め、その地位を確立した高級車メーカーだ。特にジャガーの活躍が目覚ましかったのは、1950年代から1960年代。ロングノーズ・ショートデッキのFRスポーツカーらしいプロポーションを持つ『Eタイプ』も、この時代に登場した名車である。なかでも、当時わずかな台数しか生産されず、“幻のスポーツカー”と呼ばれたのが『XKSS』だ。2016年11月、ジャガーはこの『XKSS』を再び生産することを発表。幻のスポーツカーが新車で甦ることとなった。

わずか16台だけが生産されたジャガー『Dタイプ』のロードゴーイングモデル『XKSS』

今から約半世紀前の1957年、ジャガーはル・マン24時間レースに出場し、独特のスタビライジングテールフィンをもつ『Dタイプ』で表彰台、さらに4位、6位を独占するという輝かしい結果を残した。『Dタイプ』は、名実ともに、史上もっとも美しいレーシングカーの1台となったのである。現代のほとんどのレーシングカーが採用するモノコック構造を、モータースポーツで初めて本格的に使用したのも『Dタイプ』だ。

この『Dタイプ』には、ロードゴーイングモデルの生産計画があった。それが『XKSS』と呼ばれるモデルだ。しかし、不運なことに、ジャガーのブラウンズ・レーン工場のサービスエリアで1957年2月に火災が発生し、生産ラインが焼失。その損害額は、当時としては巨額の300万ポンドに上ったとされる。

そして、焼失した生産ラインには、16台だけが完成していた『XKSS』の北米輸出向けモデル9台も含まれていたという。こうして、『XKSS』はわずか16台のみが作られた“幻のスポーツカー”となってしまったのだ。ちなみに、1971年に公開された『栄光のル・マン』を自ら制作し、主演をつとめるほどのレース好きだったスティーブ・マックイーンは、1955年に『XKSS』を手に入れており、ドライビングする写真も残っている。

それから60年が過ぎた2016年初秋、ジャガーが発表したのが、失われた9台の『XKSS』を再び生産するというプロジェクトである。

生産台数わずか9台、内外装からエンジン、癖までジャガーのヘリテージ部門が再現

なぜジャガーが1950年代のスポーツカーを復刻するのかというと、そこには欧州の高級車メーカーにおけるヘリテージブームがある。実際、2000年代後半以降、フェラーリ、BMW、ポルシェ、ランボルギーニが相次いでヒストリックカーを完璧にレストアするヘリテージ部門を設立。今回、ジャガーで『XKSS』の復刻生産を担当するのも、同様の部門である「ジャガークラシック」だ。

『XKSS』は、この英国のレストア職人たちによって、オリジナルを正確にスキャンし、シャシー、ボディ、エンジン、塗料はもちろん、ボルト1本にいたるまで忠実に再現される。当時から手作りに近い生産だったため、ボディの細部が筐体によって異なり、現存するどのモデルをオリジナルとするか、作業はそんな難題から始まったという。

そして、2016年11月、ジャガーはLAオートショーで復刻した『XKSS』を公開。モノコックフレームのシャシー、流麗なボディデザイン、排気量3400ccの直列6気筒エンジン、ウッドパネルとレザーの内装…と、再現された『XKSS』は1950年代当時とまったく変わらないように見える。

事実、ジャガークラッシックの職人たちは、シフトチェンジをしづらい癖まで再現するなど、オリジナルの追求に余念がなかったそうだ。おそらく、日本の自動車メーカーなら、そこは現代の技術で改善してしまったに違いない。

もう一度記すが、復刻される『XKSS』の生産台数はわずか9台。価格は1万英ポンド、日本円でおよそ1億4300万円だが、プレミアがつくので間違いなく、現実的にはそれ以上になるだろう。英国の名門メーカーが手がけた、純然たる、本物中の本物のレーシングスポーツカー。実車を見ることもむずかしいだけに、興味がある人は下のリンクのオフィシャル動画で『XKSS』が走る姿とエンジン音を堪能してほしい。

Text by Katsutoshi Miyamoto

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第13回 | ジャガーの最新車デザイン・性能情報をお届け

ジャガーEタイプ ゼロ──これが世界で最も美しいEVだ

「世界で最も美しい」は、容姿、景色、芸術、さらには科学実験など、ありとあらゆる事象に対して用いられる形容詞だ。電気自動車(EV)なら、その表現は差し詰めこのクルマにこそふさわしいのではないか。ジャガー『Eタイプ ゼロ』。今年5月に執り行われたヘンリー王子とメーガン妃のロイヤルウェディングに登場した電動バージョンの『Eタイプ』だ。2017年にコンセプトモデルとして発表されたが、顧客からリクエストが相次いだことにより、ついにジャガーが少量生産ながらも市販化を決断した。“世界で最も美しいEV”の誕生である。

見た目は“世界で最も美しいクーペ”のまま。ファンが待望した『Eタイプ ゼロ』

ジャガーは、『Eタイプ ゼロ』はコンセプトモデルだと強調してきた。しかし、ロイヤルウェディングに登場したことにより、「もしかして?」と思った人もいたかもしれない。8月下旬に開催されたモントレー・カーウィークのイベントのひとつ、ザ・クエイル・ア・モータースポーツ・ギャザリングで『Eタイプ ゼロ』の実車が披露され、市販化が正式に発表された。

背景には顧客から寄せられた市販化の要望があったようだ。開発を担当するジャガー・ランドローバー・クラシックのディレクター、ティム・ハニグ氏は、「ジャガー Eタイプ ゼロ コンセプトへの肯定的なリアクションには驚きました」とコメントしている。

『Eタイプ ゼロ』のルックスは、ご覧のとおり、1960年代に生産され、「世界で最も美しいクーペ」と呼ばれた名車『Eタイプ ロードスター』そのもの。つまり、これは往年のクラシックモデルにレストアを施し、そこへ最新の電動パワートレインを搭載したEVなのだ。「世界で最も美しいEV」であり、「最新のクラシックカー」といってもいい。

限りなくオリジナルモデルの『Eタイプ ロードスター』に近いドライブフィール

搭載されるのは、電動コンパクトSUV『I-PACE』のシステムをベースに開発された電動パワートレイン。とはいえ、単にモーターやバッテリーを『Eタイプ』に移植したわけではなく、スタイリングからドライブフィールまで当時の雰囲気を損なわないように配慮されている。

具体的には、リチウムイオンバッテリーを『Eタイプ』の直列6気筒「XK」エンジンと同じサイズと重量に設計し、その後方、もとのトランスミッションがあった場所に電気モーターを配置した。それにより『Eタイプ』と同じ前後重量配分を実現。さらに、サスペンションやブレーキを変更せずに電動化を行ったことで、オリジナルに近いドライブフィールを維持しているという。

見た目は往時と同じでも、バッテリーの搭載位置が違えば重量配分が変わり、また重たいバッテリーによってサスペンションを強化すればやはり別のクルマになってしまう。オリジナルのフィーリングを大切にした点に、ジャガー・クラシックの見識と技術の高さが伺える。

この“設計の妙”により、モーターとバッテリーからガソリンエンジンに変更することも可能という。つまり、いつでもオリジナルモデルの『Eタイプ ロードスター』に戻せるということだ。リチウムイオンバッテリーの容量は40kWhで、充電時間は通常充電で6~7時間、フルチャージからの航続距離は270km。モーターの最大出力は300hpとアナウンスされている。

『Eタイプ ゼロ』のデリバリーは2020年夏を予定。価格は4000万円以上になる?

パワートレインとバッテリーを除くと、『Eタイプ ゼロ』で“最新”を感じさせるのは、エクステリアではLEDヘッドライト、インテリアでは『I-PACE』譲りのダイヤル式シフトセレクター、オプションで装備されるタッチスクリーン式のインフォテイメントシステムのみだ。

ただし、顧客が希望すれば、オリジナルモデルの装備も選択できる。「車両ごとに顧客の好みのカスタマイズが提供される」とジャガー・クラシックはアナウンスしている。

デリバリーは2020年夏からを予定しており、詳しいスペックや価格は未発表。2017年に発表されたフルレストアモデル『Eタイプ リボーン』が28万5000ポンド(約4252万円)だったから、それ以上になることは間違いない。なお、『Eタイプ ゼロ』の生産は、ジャガーの本拠地である英国コヴェントリーの「クラシック・ワークス」で行われる。

Text by Muneyoshi Kitani
Photo by (C) Jaguar Land Rover Automotive PLC
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Jaguar E-type Zero オフィシャル動画
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