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第3回 | 世界の名車コレクション

80年間変わらない英スポーツカー『モーガン』に乗る

英国のスポーツカーメーカー、モーガンの『4/4(フォーフォー)』は、1936年の登場以来、一度もモデルチェンジをせず、80年以上にわたって生産され続けてきたスポーツカーだ。モーガンが作るクルマは、どれもがクラシカルなメカニズムとスタイリングを持ち、現代のクルマでありながら、まるで戦前に作られたヒストリックカーのような魅力を放つ。ハイテクで武装した現代のスポーツカーとはまったく異なる「新車で買えるクラシックカー」なのである。

昔ながらの作りを持ち、「ドライバーの腕が試せる」ことが『モーガン』の大きな魅力

モーガンが誕生したのは、いまから100年以上も昔に遡る。1909年、創業者H.F.S.モーガンがイングランド中部ウスターシャーのマルヴァーンに自動車製造のガレージを建て、前2輪・後1輪の3輪自動車「スリーホイーラー」を作ったのがこのスポーツカーメーカーの成り立ちだ。

モーガンの本社は現在も同じ場所にあり、そのクルマも、小さな改良が施されたり最新のエンジンになったりしているが、基本的には当時と変わらぬスタイルのまま生産されている。

「たしかに、パフォーマンスは新しいスポーツカーに劣ります。しかし、昔ながらの作りを持つモーガンは、ドライバーの腕が試せるクルマでもある。変わらないスタイルもそうですが、『ドライビングの原点』を感じられるのはモーガンの大きな魅力です」

そう話すのは、「モーガン・オート・イワセ」の渡部英人氏だ。モーガン・オートは、半世紀以上も前、1968年から英国モーガン モーター社の日本総代理店となってきた、いわば「モーガンのスペシャリスト」である。

BMWの最新エンジンを搭載、普段使いもロングドライブもできる「クラシックカー」

渡部氏によると、モーガンのもうひとつの大きな魅力は「気軽に乗れること」だという。

「モーガンは一見、古いクルマに見えますが、今も現役で生産される新しいクルマです。エンジンもフォードやBMW製の最新エンジンなので、クラシックカーのようにメンテナンスで苦労することもありません。一般的に『ハードルが高い』と思われがちですが、じつは普通のクルマと同じように気軽に乗ることができます」

モーガンは、ラダーフレームに木製のボディフレームを載せ、そこに金属のボディパネルを被せている。2000年代になると、衝突安全に対応するためボディの内側に補強用のバーが入りようになり、最新のモデルではボディパネルなどの一部にステンレスが用いられている。

変わらないようでいて、細部では時代に合わせて変わった部分もあるわけだが、なかでも、一番大きな変化が渡部氏の話に出てきた「エンジン」だ。

モーガンは少量生産の小さなスポーツカーメーカーゆえに、トライアンフやローバー、フィアットなど、時代ごとに他メーカーから最新エンジンを調達してきた。現在は、4気筒モデルにはフォード、8気筒モデルにはBMWのエンジンが搭載され、4気筒エンジンに組み合わされるトランスミッションはマツダ製。さらに、創業当初のモデルを復刻した『スリーホイーラー』には、S&SのVツインエンジンが使われているという。

「もっともベーシックなモデルの『4/4』は、1.6Lで、最高出力も86kw(115hp)しかありませんが、車重が800kgと軽量のため、動力性能は十分です。同じボディに2.0Lを積む『Plus4』やV8エンジンの『Plus8』にはエアコンも装着できますし、さらにPlus8ではATも選べます」

最新式のエンジンを積むので信頼性は非常に高く、オイル交換さえすれば、車検までほとんどメンテナンスフリーで乗ることができる。オーナーのなかには、東京の都心部で日常の足に使う人や、九州や北海道へのロングドライブを愉しむ人もいるそうだ。ただし、事故などを起こすと修復するのは容易ではなく、費用もそれなりかかるという。

メイン写真はV8エンジンを搭載する『Plus8』、下の写真はベーシックモデルの『4/4』だ。

待つ愉しみも…フルオーダー制により1台1台ハンドメイドで作られる『モーガン』

また、モーガンはフルオーダー制のハンドメイドによって作られるため、「自分だけの1台に仕立てる」という愉しみもある。

「モーガンは、ボディカラーや内装、オプション…と、新車をオーダーするのと同じように自分好みに仕上げることができます。フルオーダー制なので、カタログにない色も選ぶことも可能です。生産はすべてハンドメイドで、1台作るのに約3週間、年間でも600台から700台しか作れないため、納期はオーダーから1年か1年半。その納車を待つ時間も、モーガンの愉しみのひとつといえるでしょうね」

下のリンクにある4分余りのオフィシャル動画を見れば、モーガンの工場で『4/4』がどのように作られているか、イメージはつかめるだろう。

もちろん、中古車を購入するという選択肢もある。しかし、もともとモーガンは希少なクルマであるうえ、手放すオーナーも少ないので市場に中古車が出回ることが少なく、価格も高い。逆にいえば、モーガンは価値が下がらないため、むしろ新車で購入したほうがお得なのだ。なお新車価格は、ベーシックな『4/4』で700万円。もっとも高価なのは現代的なスタイリングを持つV8モデル『エアロ8』で、2000万円である。

「モーガンのオーナーには、このクルマを『一生もの』として購入する方も少なくありません。オーナーの層は、60代以上の方がほとんど。仕事を退職し、子どもも一人前となり、ようやく好きなクルマにじっくり乗る時間ができたという方が多いのでしょう。そして、所有する時間とともにだんだんと愛着が増していき、まるで家や家具のようにモーガンが『なくてはならない存在』になっていくのです」

下の写真は『4/4』の80周年を記念して作られたアニバーサリーエディション。

ヴィンテージカーやヒストリックカーと呼ばれるクルマへの憧れはあるが、維持するための費用などを考えて二の足を踏む人は多い。その点、モーガンは「クラッシックで新車」というわがままに応えてくれるクルマといえる。

なにより、昔のままの魅力を現代に伝えるモーガンは、スポーツカーの原点というべきクルマだ。渡部氏は「ぜひ一度、実車を見にきてほしい」と語る。この言葉の意味は、実際にモーガンを間近で目にすればすぐにわかるはずだ。

Text by Muneyoshi Kitani

Photo by (C)MORGAN MOTOR COMPANY

取材協力
英国モーガン モーター社日本総代理店「モーガン・オート・イワセ」
住所:〒146-0093 東京都大田区矢口1-4-4
電話:03-3758-6721
営業時間:平日9:00~18:00 土曜日、日曜日10:00~17:00
定休日:木曜日、祭日
前身の「モーガン・オート・タカノ」の時代から50年以上にわたって、英国モーガン モーター社日本総代理店となっているモーガンの日本第一人者。毎年、約20台のモーガンを輸入し、全国に届けている。
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第10回 | 世界の名車コレクション

GT500スーパースネーク──伝説のマッスルカーを見よ

アメリカのカーガイにとって、おそらく「シェルビー・マスタング」は永遠に特別な存在である。登場したのは1964年。製作したのはキャロル・シェルビー率いるシェルビー・アメリカンだ。これはフォード『マスタング』をベースにしたチューニングカーの総称で、1967年に作られた一台限りの『GT500スーパースネーク』はアメ車ファンのあいだで今も語り継がれる。その伝説的なマッスルカーが当時の姿のまま現代に甦ることとなった。5月中旬、シェルビー・アメリカンが1967年型の『シェルビーGT500スーパースネーク』の復刻を発表したのだ。

外観も中身も1967年のまま再来する『シェルビーGT500スーパースネーク』

キャロル・シェルビーは、カウボーイハットとブーツがよく似合ったテキサス生まれの元レーシングドライバーだ。F1グランプリに参戦し、1959年のル・マン24時間レースではアストンマーチンを駆って優勝している。これによって母国のモータースポーツ界でヒーローとなった。

しかし、その名が知られるようになったのは、むしろ開発者となって以降だろう。1960年にドライバーを引退すると、アメリカに帰ってレーシングコンストラクターを設立。最初に手がけた『シェルビー・コブラ』は大人気となった。それがのちに数多の名車を生むことになるシェルビー・アメリカンである。

「シェルビー・マスタング」は、1964年に発売されたフォード『マスタング』をベースにシェルビーがチューニングしたレース用のマシンだ。フォードは『マスタング』を宣伝する目的で、SCCA(スポーツカークラブ・オブ・アメリカ)に参戦。そのホモロゲーション(規定認証)である「100台以上の販売実績のある車両」という規定をクリアするためのクルマだった。

ロードカーとして発売された『シェルビーGT350』は人気を集め、1967年には7.0Lエンジンを搭載してストリート向けに快適性を向上させた『シェルビーGT500』も登場。空力を見直されたボディはデザイン的にも魅力を高め、なにより"COBRA"のバッジがつけられた記念すべきモデルともなった。

しかし、今回「追加生産」として復刻されるのは、同じ1967年型の『GT500』でも、ワンオフの『GT500 Super Snake(スーパースネーク)』なのである。

『GT500スーパースネーク』は、グッドイヤーのハイパフォーマンスタイヤの開発と連携した高速走行試験用に作られたモデルで、さらにいえば、量産化を視野に入れながら実現することのなかった車両だ。

アメ車好きなら、2013年にシェルビー・アメリカンが6代目『マスタング』をベースにした「スーパースネーク」を製作したことを覚えているだろう。ただし、これはあくまで2013年モデルであり現代のクルマ。今回は、ルックスも中身も1967年当時のままの『GT500スーパースネーク』が再来するのだ。

復刻版『GT500スーパースネーク』に与えられるVINコードとシリアル番号

ファストバックスタイルのボディで目を引くのは、オリジナルモデルと同じ3本の青いラインだ。エンジンもオリジナルに敬意を払い、シェルビー・エンジンコーポレーションが製造するレース仕様の427ci(約7.0L)のV型8気筒を搭載する。マッスルカーと呼ぶにふさわしく、最大出力は1967年当時より30ps高められた550psを発揮する。

しかし、エンジンブロックはオリジナルのスチール製から100ポンド程度軽いアルミ製に変更された。あり余るトルクに対応するために、組み合わされるトランスミッションは4速MTだ。

大径のフロントディスクブレーキや大きなフライパンのようなエアクリーナーケースも当時のままである。とはいえ、ステアリングのアシストや排ガス対策といった現代に必要な手配はされている。

タイヤは当然のようにグッドイヤーの15インチ「サンダーボルト」。というのも、シェルビー・アメリカンは当時、西海岸でグッドイヤーのディストリビューターをつとめていたので、ほかのメーカーのタイヤを着けることはあり得ないのだ。ちなみに、1967年に行ったハイパフォーマンスタイヤの開発は見事に結果を出し、テキサスのテストコースでキャロル・シェルビー自身がドライブし、170マイル(274km/h)という同クラスの世界速度記録を樹立している。

うれしいことに、この復刻版『GT500スーパースネーク』には、1967年に販売された当時のVINコード(車両識別番号)に加え、シェルビーから公式なシリアルナンバーが与えられている。まさしくガレージモデルには真似のできない正しい血統を表しているようだ。

復刻モデルの価格は日本円にして約2700万円、生産されるのはわずか10台のみ

復刻版『GT500スーパースネーク』は顧客のオーダーに応じて生産される。予定の生産台数はわずかに10台。価格は24万9995ドル、日本円にすると約2700万円だ。

キャロル・シェルビーはビジネスの拡大にはあまり興味がなく、レースカーとして「とにかく速い車を」と望み、彼とシェルビー・アメリカンを創立したマネージャーのドン・マケインは、会社を成長させるために「50台は作りたい」と語っていたという。

しかし、残念なことに、ふたりともすでに亡くなってしまっている。この10台の復刻が彼らにとって「仕事の完了」になったことを願わずにはいられない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Carroll Shelby International
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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