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第22回 | ポルシェの最新車デザイン・性能情報をお届け

変わらぬ人気の秘密とは? ポルシェが売れる理由

ポルシェが2016年1〜9月期の中間決算で、売上高164億7000万ユーロ(約1兆8945円)、営業利益は29億ユーロで前年同月比12%増と、2桁の増益を達成した。ポルシェは2015年にも世界新車販売台数が22万5121台と過去最高を記録している。なぜポルシェはこれほど人気があるのか? 業績好調の理由はSUVの『カイエン』や『マカン』にあるといわれるが、けっしてそれだけではない。人気の秘密は、ポルシェの「変わらない本質」にこそあるのだ。

増収増益の立役者はラグジュアリーSUV『カイエン』とコンパクトSUV『マカン』

スーパーカー世代の50代には、少年時代に漫画『サーキットの狼』を読み、主人公・風吹裕矢のライバル、早瀬佐近が乗っていた『911カレラRS』や930型の『911ターボ』でポルシェを知った人が多いことだろう。もう少し下の世代の40代なら、山口百恵のヒット曲『プレイバックPart2』の冒頭に出てくる、「緑の中を走り抜けてく真紅なポルシェ」という有名なフレーズがポルシェとの出会いかもしれない。

世界最高のスポーツカーといわれるポルシェ『911』シリーズの初代モデルが発表されたのは、少年ジャンプで『サーキットの狼』の連載が始まる10年以上前、1963年のことだった。1970年代以降になると、ポルシェはル・マン24時間レースなどで華々しい成績を残し、スティーブ・マックイーンが『917』を駆ってフェラーリと死闘を繰り広げる映画『栄光のル・マン』もヒットした。

しかし、スポーツカーを代表するブランドとなったポルシェも、ずっと順風満帆な経営状態だったわけではない。1990年代前半には、ポルシェにとって最大のマーケットだった北米での販売不振から業績が悪化し、経営難に陥った。

傾いた経営を立て直すことができた理由のひとつは、1996年に投入したエントリーモデルの『ボクスター』が売れたこと。だが、その後のポルシェの業績を飛躍的に向上させた本当の立役者は、ボクスターではなかった。

「それは2002年に発表されたポルシェ初のSUV『カイエン』です。ポルシェの業績が好調なのは、やはりSUVモデルのヒットが一番の要因でしょう」。そう話すのはポルシェ専門誌『911DAYS』の日比野学編集長である。

「2014年には、カイエンよりもコンパクトなSUV『マカン』が登場しました。カイエンはどちらかといえばラグジュアリーなモデルで、マカンはスポーティ指向。多様なニーズに応えられるモデル展開をしたことで、ポルシェのSUVモデルのなかでユーザーの棲み分けが可能となり、さらに販売台数を伸ばしたと考えられます」

フラグシップモデルの911シリーズが象徴するように、ポルシェというのはある意味マニアックで、趣味的なクルマだ。そのため、カイエンが登場した当初は、ファンの間から「ポルシェがSUVなんて…」という声も上がった。しかし、ファミリーユースが可能で、女性にとっても敷居が低いモデルを市場に投入したことにより、ポルシェはさらに大きな成功を収めることができたのである。

下の写真は3.6L V6ツインターボを搭載する『カイエンS』(北米仕様)。

休日は『911』、普段使いは『カイエン』…複数モデルを所有するポルシェオーナー

ただし、SUVモデルが売れているといっても、911シリーズのユーザーが減っているわけではない。

「911は、毎年一定の台数が売れています。ポルシェのオーナーには、一度乗ったらその後もずっと乗り続け、新しいモデルが出るたびに買い換えるという人が多い。そのため堅調な販売台数が維持できるのです」

日比野編集長によれば、取材で接する911のオーナーにはポルシェを何台も所有する人が多いという。普段使いにはカイエンやマカン、そして4ドアサルーンの『パナメーラ』に乗り、911は休日のドライブなどで趣味的に愉しむのである。

SUVにセダン、入門モデルのロードスター…と、単純にポルシェのラインナップが増えたことで、その分販売台数が増えたとも考えられるが、ポルシェ乗りには、ほかのスーパーカーのオーナーとはまた違うメンタリティの持ち主が多い傾向もある。

「ポルシェのオーナーには真面目な人が多いという印象があります。私が取材でお会いしたオーナーには、『ビジネスで一発当ててスーパーカーを買った』という人はひとりもいません。医師であったり中小企業の社長であったりと、堅実に生きてきた人たちが911を大切に所有し続けている。911オーナーは浮気をしないのです」

メイン写真の赤い911は『911カレラ』、下は2016年1月の北米モーターショーで発表された改良型の『911ターボS』である(いずれも北米仕様)。

『911』のオーナーの大半が40代以上、大人の男たちがポルシェに憧れる理由とは?

ポルシェを象徴する911も初代モデルの登場から半世紀以上が経過し、エンジンは空冷から水冷となり、トランスミッションも2ペダルMTのPDK(ポルシェ・ドッペルクップルング)が主流となった。当然、デザインも変化している。

それでも、世のクルマ好きが「一度は乗ってみたい」と911に、そしてポルシェそのものに憧れを抱き続けるのはなぜか。日比野編集長は、その理由を「変わらないストイックな魅力」だと語る。

「たしかに、現代のポルシェは黎明期に比べるとはるかに限界性能が向上し、電子制御技術などにより格段に乗りやすくなっています。しかし、911は1963年のデビュー当時から一貫してRR(リアエンジン・リアドライブ)のレイアウトを採用し、本当の限界域での運動特性は昔も今も変わっていません。そのオンリーワンの乗り味こそ、911の魅力の本質でしょう」

フェラーリやランボルギーニはアート作品のようにも捉えられるが、ポルシェの根底にあるのは高いエンジニアリング。そこにはイタリアのスーパーカーのような派手さはないが、ファンを惹きつけてやまない揺るぎない魅力がある。

「ポルシェが持つ特別な価値やアイデンティティは、911が生み出してきたものです。現在ではラインナップも増え、かつてマニアックな存在でもあったポルシェもメジャーなスーパーカーメーカーになりました。しかし、911のストイックな魅力は変わっていません。その変わらない本質があるからこそ、ポルシェは『ポルシェの価値』を維持し続けることができるのです」

ちなみに、911のオーナーは、その大半が40代以上の大人の男性だという。スーパーカーブームを経験し、ポルシェがル・マンやサファリラリーで活躍する姿を見て胸を昂ぶらせた少年たちが、大人となってようやく憧れのクルマを手にしたのである。

Text by Tetsuya Abe

取材協力
ポルシェ専門誌『911DAYS』
発行:株式会社デイズ
911をメインにさまざまな特集でポルシェの魅力を掘り下げる専門誌。年4回のペースで発行(3月、6月、9月、12月7日)。空冷から最新のポルシェまで専門的な情報が満載だ。最新号の特集は「ポルシェを着よう」。
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第51回 | ポルシェの最新車デザイン・性能情報をお届け

甦る伝説のイエローバード──ルーフCTRアニバーサリー

1990年からシリーズ全体で20年以上にわたり連載されてきた楠みちはるの『湾岸ミッドナイト』。大人のカーガイなら、主人公が駆る「悪魔のZ」の永遠のライバルとして登場する漆黒の930型ポルシェ『911ターボ』、通称「ブラックバード」を覚えていることだろう。じつは、この最高出力700psのモンスターマシンと似たスペックをもつカスタムモデルが実在する。ルーフ・オートモビルによる930型ポルシェ『911』をベースにしたコンプリートカー、「イエローバード」こと初代『CTR』だ。3月のジュネーブモーターショーでは、初代の誕生30周年を記念したアニバーサリーモデルが発表された。

ポルシェのようでポルシェではない。340km/hを記録した伝説の「イエローバード」

ポルシェのようだが、じつはポルシェではない。ポルシェのボディシェルを使いつつも、まったくのオリジナルのハイパフォーマンスカーを製造する世界的な自動車ブランド。それがドイツ南部のプファッフェンホーフェンに本拠を置くRUF Automobile(ルーフ・オートモビル)だ。もともとポルシェ車のチューナーだったが、1980年代から独自のコンプリートカーを生産・販売し、ドイツの自動車工業会にも属している。小規模ではあるが、卓越した技術力によってユーザーの信頼を集めるれっきとした自動車メーカーなのだ。

ルーフの名は、1987年に発表された初代『CTR“イエローバード”』によって世界中のスポーツカーファンに認知された。930型『911カレラ』をベースに、排気量を3.4Lへと拡大。チューンナップされたインタークーラー付きのツインターボエンジンは最高出力469ps、最大トルク553Nmのパワーを発生する。アメリカの老舗自動車雑誌『ロード&トラック』がフォルクスワーゲンのテストコースにスーパーカーを集めて行った走行テストでは、ランボルギーニやフェラーリを抑えて当時の市販車最速となる約340km/hを記録した。これにより、ルーフと『CTR』の名を世界に知らしめたのである。ちなみに、「イエローバード」の異名は『ロード&トラック』が誌面で使ったキャッチに由来する。

販売台数はわずか30台。バブル景気だった日本には10台近くが、あるいはそれ以上の台数が上陸したといわれる。この「イエローバード」をルーフの技術力によって現代に甦らせたモデルが、ジュネーブで発表された『CTR Anniversary(アニバーサリー)』だ。

『CTRアニバーサリー』は最高出力710ps、最高速度360km/hのモンスターマシン

『CTRアニバーサリー』は、2017年のジュネーブモーターショーで発表されたプロトタイプ、『CTR 2017』の市販バージョンとなる。前述のとおり、初代『CTR』は930型『911』をベースとしたが、『CTRアニバーサリー』はポルシェのボディシェルを使用していない。モノコックシャシーやボディはルーフが独自に開発したもの。つまり、一見すると古いポルシェのようだが、このクルマはベースが存在しないまったくのオリジナルなのだ。

モノコックとボディにはカーボンファイバーを採用し、それによって総重量1200kgという軽さを実現。ルックスは初代『CTR』のイメージをそのまま踏襲しているが、『CTRアニバーサリー』専用のエクステリアとして、リアに大型のウィングを装着する。

思わず唸らされたのがエンジンルームだ。『911』といえば、古いポルシェファンなら空冷エンジンの印象が強いと思うが、『CTRアニバーサリー』は往時の空冷エンジンを彷彿とさせるクラシカルなデザインをあえて採用した。しかし、そこに搭載されるのは、ツインターボを装着した排気量3.6Lの水平対向6気筒エンジン。最高出力710ps、最大トルク880Nmのパワーを発揮し、最高速度は360km/hに達するモンスターぶりである。

甦った「イエローバード」は全台ソールドアウト。NAエンジンの現行型は販売継続

残念ながら、『CTRアニバーサリー』はすでに生産予定の30台が全台売約済み。プロトタイプの『CTR 2017』が発表された時点でソールドアウトしたとの一部報道もある。

ただし、ルーフには今回の『CTRアニバーサリー』とカーボンシャシーやボディを含めた多くの仕様が共通する『CTR SCR』という現行モデルがある。搭載するのは710psのツインターボではなく自然吸気エンジンだが、現在も販売を継続中だ。ポルシェのようでポルシェではないコンプリートカーをお望みなら、こちらを選択する方法もあるだろう。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) RUF Automobile GmbH
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
メイキング・オブ RUF CTR 2017
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