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第7回 | シトロエンの最新車デザイン・性能情報をお届け

半世紀前の古き良き『シトロエンDS』を普段使いする

1955年にデビューした古いフランス車ながら、いまだに多くのファンに愛される『シトロエンDS』。先進的な機構と宇宙船を思わせるスタイリングが注目を集め、20世紀を代表するクルマとなった大ヒットモデルである。とはいえ、生産終了から40年が経過した現在、もはやDSは日常で乗るクルマではなく、ガレージに飾っておくだけのコレクターアイテムと思っている人もいるかもしれない。しかし、DSは骨董品などではなく、いまも現役で走る「生きているクルマ」なのだ。

「20世紀の名車ランキング」で3位になったフレンチ高級サルーン『シトロエンDS』

その奇抜でユニークなデザインから特殊なクルマと思われがちだが、じつはシトロエンDSは当時のフランスを代表する高級サルーンだった。日本車に例えるなら、ひと昔前のトヨタ『クラウン』のようなイメージだろう。実際、第18代フランス大統領のシャルル・ド・ゴールが公式行事に利用していたのをはじめ、政府高官や企業幹部などのVIPがこぞってDSを愛用していたという。

初代モデルが登場したのもクラウンと同じ1955年。と考えれば、いかにDSが前衛的なスタイリングを纏っていたかがよくわかるはずだ。エンジンは初期型で1.9Lと2.1L、後期型ではさらに2.3Lがあったという。いずれにせよ強力なものではないが、車重が約1200kgと軽量のため、バランスは十分。ボディは空力に優れ、150km/hでも安定して巡行できるという。

見た目だけではなく、車体の随所に採り入れられたメカニズム面も先進的だ。駆動方式には、FF(前輪駆動)レイアウトを採用。サスペンションは一般的なスプリングではなく、油圧と窒素ガスで支える「ハイドロニューマチック」。車内のレバーで車高を任意に調整可能でき、あらゆる路面に適応する。現在もそうだが、パリを含め、フランスの田舎道は道が悪い。DSはそういった道を走ることを想定して作られたのだ。トランスミッションも独自のもので、通常の4段、5段MTや3段ATのほか、ギヤの選択こそドライバーが行うが、クラッチ操作はいらない「ハイドロリックギヤーチェンジ」という現在の2ペダルMTのような方式が採用されていた。

ちなみに、DSは1955年10月のパリサロンで発表されると、たった1日で1万2000台もの予約注文を獲得したという。その後、1970年代半ばまで20年に渡って生産され、総生産台数は145万台。1999年に世界のメディアが選定した20世紀の「カー・オブ・ザ・センチュリー」では、フォード『モデルT』、『ミニ』に次いで3位に選ばれている。まさにフランスが生んだ名車なのだ。

(C)jacquesMP
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価格は500〜1000万円、熟練のエンジニアが新車のようなクオリティにフルレストア

しかし、いくら所有欲を擽られるといっても、DSは発表されてから60年、生産終了してからも40年が過ぎたクルマだ。DSを所有しても、維持したり、買い物やドライブなどの日常で使ったりすることは難しいと思うかもしれない。

そうした疑問に対して「結論から申しますと、まったく問題なく日常で乗っていただけます」と太鼓判を押すのは、品川区にあるオールドシトロエンの専門店「JAVEL」(ジャヴェル)の竹村洋一代表である。

「たしかに、DSも機械である以上は故障します。ヴィンテージカーには頻繁に故障に悩まされる悪いイメージもあるかもしれません。しかし、現代のクルマも故障はしますよね? DSもそれと同じレベルと考えていただいて大丈夫。そして、仮に故障したとしても、人気のあるDSはパーツで苦労することもありません」

クラウンがそうであるように、もともとDSもフランスではタクシーなどに使われ、耐久性に対する評価が高かった。ただし、本国から整備済みで輸入されたままの状態では信頼度が低い。そこで、オールドシトロエン専門店である竹村氏の会社では、普段使いが可能なレベルにするためにフルレストアを実施している。さらに、旧車特有の排ガスの匂いも消して快適性を高めるため、現在の排ガス規制に対応させたマフラー、三元触媒、ラムダセンサー、コンピュータを専用に開発し、装備する。

「熟練のエンジニアの手にかかれば、年代物のDSも新車のようなクオリティに生まれ変わります。いくらヴィンテージカーでも、やはり普通に走って普通に使えるのが一番。それが『生きているクルマ』だと思いますし、長く付き合っていける秘訣だと思います。もちろん、長時間のアイドリングを避けるといった旧車ならではの注意点もありますが、神経質になる必要はありません」

気になる車両価格は、年代やモデルの状態にもよるが、初期費用は500万円から1000万円ほどの予算を考えておけば大丈夫だという。納期は、本国フランスでの中古車探しからレストアの完了まで含め、およそ2年。希望すれば現代のオーディオやカーナビを装着することも可能だ。

(C)jacquesMP
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スーパーカーとは違って『シトロエンDS』は奥様や子どもも満足させる特別なクルマ

竹村氏によると、数あるヴィンテージカーのなかからDSを選んで所有するのは、経済的にはもちろん、心にも「余裕のある人」だという。

「当社で販売するDSの価格は、けっして安くはありませんし、納車にも時間をいただいています。ですから、逆に『すぐに納車してほしい』とか『安くならないか』といったご要望はお断りしています。納車するからには、きちんと満足いただける仕上がりでお渡ししたいのです」

もうひとつ特徴的なのは、DSのオーナーとJAVELのような販売店には、高級車の顧客とディーラーのような信頼関係があることだ。ヴィンテージカーの所有者には、愛車に対する気持ちが強すぎるのか、自分でメンテナンスや修理を行うマニア気質の人が少なくない。

ところが、DSのオーナーは自分ではあまりクルマをいじらず、販売店に整備をお任せする人が多いという。なかには、社用車としてDSを使っている人もいる。ヴィンテージカーにおいてもDSはオンリーワンであり、それに代わるどころか、似たクルマさえない存在なのである。

「スーパーカーの場合、購入したオーナーは満足かもしれませんが、奥様も満足ということは少ないと思います。しかし、DSは奥様もお子様も好きになってくれる。それもDSならではの良さです。家族の一員として、普段使いから休日のドライブまで、ずっと一緒に歩んでいくことができる。それがDSというクルマなのです」

(C)jacquesMP

Text by Tetsuya Abe

Photo by (C)jacquesMP(main)

取材協力
オールドシトロエン専門店「JAVEL」
オールドシトロエン専門店「JAVEL」
TEL:03-3784-5051
MAIL:takemura@javel.co.jp
住所:〒142-0063 東京都品川区荏原2-18-10
営業時間:9時~18時
定休日:毎週月曜、第2・第4日曜、祝日
DSはもちろん、シトロエンの並行輸入も取り扱う。DSについては国内随一の知識と車両についてのノウハウがあり、納車やレストアには最低1年間の保証サービスをつけている。
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第15回 | シトロエンの最新車デザイン・性能情報をお届け

この新型SUVは空飛ぶ絨毯だ──シトロエンC5エアクロス

『2CV』、そして『DS』、近年では『C3』『C4カクタス』。フランスのシトロエンは、独創的なクルマを作ることで知られるブランドである。それはいま世界的に流行するSUVにおいても変わらない。シリーズの名称は「エアクロス」。ヨーロッパでは『C3エアクロス』『C4エアクロス』が人気を集める(日本へは未導入)。この二台の上位車種となるのが、昨年末にヨーロッパで発売された最新SUVの『C5エアクロス』だ。

激戦区のCセグメントに参入。シトロエンの最新コンパクトSUV『C5エアクロス』

『C5エアクロス』は、2015年に上海モータショーで発表された『エアクロス コンセプト』の市販バージョンだ。コンセプトモデルが上海でお披露目されたことでわかるように、もともと「エアクロス」は中国やロシア、南米に向けて開発されたシリーズ。しかし、ヨーロッパで販売されると予想以上の人気モデルとなり、なかでも現行『C3エアクロス』は2017年10月の発売から4カ月で5万台のセールスを記録したほどである。

その兄貴分となる『C5エアクロス』は、世界的な激戦区のCセグメントに属する5シートのコンパクトSUV。デイライトとヘッドライトを上下で切り分けた独特のフロントフェイスに、『C4カクタス』から続くエアバンプ(残念ながらこちらはダミー)と、シトロエンの最新デザイン言語を採用。ルーフレールや樹脂製のサイドクラッディングなど、よりSUVらしいディティールも取り入れている。世の多くのSUVが力強さを主張するかのような意匠を持つなかで、全体的に丸みを帯びた威圧感のなさがシトロエンらしい。

プラットフォームは、プジョー『3008』『5008』などと共有するPSA(プジョー・シトロエン)の「EMP2(Efficient Modular Platform 2)」。ボディサイズは全長4500mm×全幅1840mm×全高1670mmと、全幅こそやや広いが、日本の道路事情にも適したサイズといえる大きさだ。SUVらしく最低地上高は230mmを確保している。

新開発サスペンションにより、まるで「空飛ぶ絨毯」のような快適な乗り心地を実現

プラットフォームを同じにする『3008』などのプジョー車とは異なり、『C5エアクロス』はコンフォート性能を徹底的に追求している点に大きな特徴がある。

シトロエンといえば油圧式のハイドロサスペンションを思い浮かべるが、『C5エアクロス』はその乗り心地を受け継ぐ新開発の「Progressive Hydraulic Cushions=プログレッシブ・ハイドロリック・クッション」を採用。KYBSE(カヤバ・サウス・ヨーロッパ)と共同開発したサスペンションで、『C4カクタス』もマイナーチェンジで導入している。

このサスペンションは、電子制御を用いずともダンパーの減衰力(強さ)をバリアブルに変化させることが可能。たとえば柔らかさがほしいとき、あるいは手応えを感じたいとき、車両のスピードによってダンパーが逐一コンフォート(快適さ、安心感)に反応してくれるのだ。これにより、まるで「空飛ぶ絨毯」のようなライド感を実現するという。

パワーユニットは、ガソリンが1.2L 3気筒の「ピュアテック130」と「ピュアテック180」の2種類で、ディーゼルの「BLUE HDi」も「130」と「180」がラインナップされる。トランスミッションは8速ATの「EAT8」。コースティング機能を備え、少燃費にも貢献する。本国では6MTも用意されているが、日本への導入は微妙なところだろう。

家族や仲間が快適に移動できる室内空間。先進の安全装備がドライビングをサポート

インテリアもコンフォートに重きが置かれている。極上の乗り心地にひと役買っているのは「Advanced Comfortシート」だ。前席にはマルチポイントマッサージシステムが搭載され、タッチパッドコントローラーによる操作で各部をマッサージ可能。シトロエン伝統のシート面の厚さと絶妙な柔らかさも受け継ぎ、乗員全員が快適に移動できる。

ドライバーズシートに座ると、目の前には12.3インチTFTパネル液晶と8インチタッチスクリーンが広がり、コントラストの効いた見やすい表示で情報を伝えてくれる。『C3』に標準搭載され、日本でも話題となったドライブレコーダー「コネクティッドカム」やスマホ用ワイヤレス充電システムなど、「今ほしい」機能も標準装備した。

インテリア全体は、広報写真をみるとブラウンレザーを多用しており、大人に似合う雰囲気だ。この点も、やはり『C3』や『C3エアクロス』より兄貴的存在となっている。

安全運転支援システムでは、アダプティブクルーズコントロール、アクティブセーフティブレーキ、アクティブレーンキーピングアシスト、道路標識認識機能を搭載。高速道路ではインテリジェントビームヘッドライトによってハイとローの切り替えも自動で行う。

ライバルはBMW『X1』やアウディ『Q3』。『C5エアクロス』の価格は約340万円から

ボディカラーは7色展開で、ルーフがブラックのツートーン仕様も選べる。さらにサイドのエアバンプとフロントバンパーのインテークもカラーインサートとして設定され、カラーパッケージは大きく3種類が用意された。組み合わせは30にも上る豊富さだ。

すでにヨーロッパでは昨年末から販売が開始され、価格はエントリーグレードの1.2L 3気筒「ピュアテック130」がおよそ340万円。日本への導入も予定されている。

特徴的なエクステリアに「空飛ぶ絨毯」と称される乗り心地、そして十二分な安全運転支援システムと、『C5エアクロス』はどこを切り取っても魅力溢れるCセグメントSUVだ。ルノー『カジャー』、BMW『X1』、アウディ『Q3』、フォルクスワーゲン『ティグアン』あたりが直接的なライバルとなりそうだが、価格的にも狙い目といっていいだろう。

Text by Taichi Akasaka
Photo by (C) Peugeot Citroën
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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New Citroën C5 Aircross オフィシャル動画
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