editeur

検索
サービス終了のお知らせ
第33回 | 大人のための最新自動車事情

セレブや富裕層を虜にする“ストリートロッド”の世界

アメリカのクルマ文化は独特で、特にカスタムカーにはヨーロッパ以上にさまざまなスタイルが存在し、ディープな世界を醸成している。たとえば、そんなカスタムカルチャーのひとつが、戦前車をベースに独自のボディワークやパワーアップなどのチューニングを施す「ホットロッド」だろう。しかし、近年、アメリカのセレブや富裕層の間では、このホットロッドをより洗練させたカスタムカルチャーが人気を集めている。それが、オンリーワンを求める大人のクルマ好きが行き着く贅沢な趣味「ストリートロッド」だ。

「ホットロッド」よりも街乗りに適したカスタムカルチャー「ストリートロッド」

ホットロッドの「ロッド」とは、エンジンの部品であるプッシュロッドやコンロッドなどのロッド類のことを指す。レースでエンジンを回せば、ロッド類はかなりの熱を持つ。これがホッドロッドの語源とされている。

ホットロッドは、世界初の量産型乗用車『フォード モデルT』の後を継いで1927年に登場した『モデルA』など、戦前に生まれたクルマのボディを使い、むき出しのV8エンジンとタイヤが特徴のワイルドなカスタマイズである。屋根を切って低くしたり、ボディに「フレームペイント」と呼ばれる火炎などのド派手なペイントを施したりするオーナーも多い。

その名称から、「ストリートロッド」もホットロッドの一部のように思われがちだが、じつは両者はまったくの別物だ。

「ストリートロッドが生まれたのは、ホットロッドが確立された後でした。レース由来のチューニングを行うのがホットロッドで、その流れを汲みつつ、街乗りに主眼を当てたものがストリートロッドだと考えるといいでしょう」。そう話すのは、愛知県でアメリカンカスタムカーの販売、制作等を行う「Hot Stuff(ホットスタッフ)」の山口念修さん。

ホットロッドは、普段使いを度外視しているために、公道走行には向かないチューニングが施されるケースが多い。一方、ストリートロッドでは、エンジンやブレーキなどに比較的扱いやすいものを使用し、実用性も考慮している。外観もド派手なカラーリングやステッカーは好まれない。

「ストリートロッドは、ホットロッドを街乗りに特化させているので、パワーのあるエンジンでも扱いやすく、乗り心地も良く作られています。ボディのペイントも、悪目立ちするファイヤーパターンなどは避け、インテリアもモダンで質の良い素材を使った『ラグジュアリーカスタム』というべきもの。ストリートロッドは、ホットロッドよりも一般社会との調和を考えたカスタム文化といえるでしょう」

(C)Organized Chrome
(C)Paul Rioux
(C)Tomas Henriksson

古いクルマをベースに、オンリーワンの価値を生み出すのが「ストリートロッド」

ホットロッドとストリートロッドでは、ベース車両にも明確な違いがある。ホットロッドの場合、ベースとなるクルマは1927年に登場したフォード『Aモデル』が定番だ。カスタマイズが似合うクラシックでプレーンなスタイリングに加え、大量生産されたことにより現存数が多いからである。

「一方、ストリートロッドを好む人は、定番スタイルよりもオンリーワンを求めます。ここ10年ほどの傾向としては、かつてのリンカーンやグラハムなど、現在はなくなってしまった希少な小規模メーカーのボディラインが美しいモデルを使うことが多いですね。特に、当時の限定車のボディが発掘できれば、ストリートロッドの世界のなかでの存在感がぐんと増します」

とはいえ、戦前車ではなく、1970年代など比較的新しいモデルも十分ベースになり得る。ストリートロッドにはっきりとした「決まり事」はなく、「答え」もない。

「ストリートロッドとは、オーナー自身が作っていくもの。だから、どんな車種でもストリートロッドになり得るのです。強いて言えば、古いクルマを使って新しい価値を生み出していくのがストリートロッドといえるでしょう。しかし、そのスタイルもまた日々変化していきます」

アメリカには古いものを大切にする文化が根づいており、戦前車だからといって「旧車」や「クラシックカー」といったフィルターをかけない。現代のクルマと同等に扱うという。だからこそ、ストリートロッドにも次々と新しいスタイルが生まれていくわけだ。

「ただし、ひとつだけ決まりがあるとすれば、それはすべてがアメリカ製であるということ。アメリカ製のパーツを使い、アメリカでアメリカ人の手で作られるオンリーワン。それがストリートロッドというスタイルなのです」

(C)Steve Sexton
(C)Tomas Henriksson
(C)Steve Sexton

高級車やスーパーカーを所有するセレブや富裕層が「ストリートロッド」にハマる理由

このストリートロッドが西海岸のセレブや富裕層の趣味として人気になっているという。一般的にセレブや富裕層といえば、ロールス・ロイスやベントレー、メルセデス・ベンツ、フェラーリやランボルギーニなどを好むイメージがあるが、ストリートロッドも非常に人気が高いのだ。

「もちろん、セレブたちは超高級車やスーパーカーも所有していますが、ガレージにストリートロッドが並んでいることはめずらしくありません。自分自身が作り上げたストリートロッドは、彼らにとっても自慢の1台。フェラーリやランボルギーニだけではなく、世界に1台しかないオンリーワンのクルマも持っていたいのでしょう」

オンリーワンを求めれば、それ相応のコストもかかる。古いボディに最新の技術を使ったボディワークを施し、街乗りにも耐えられるパワートレインを移植する…。富裕層やセレブでなければ、現実的にストリートロッドを所有するのは難しいのだ。

もし、すでに何台もの高級車をガレージに並べ、次の1台を考えている人がいるなら、ストリートロッドを選択肢に入れてみるのもいいかもしれない。過去を甦らせ、自分の美意識にしたがってクルマを仕立て、オンリーワンの価値を創造する。まさに大人の男にこそふさわしい、贅沢な趣味といえるだろう。

(C)Brad Harding

Text by Tetsuya Abe

Photo by (C)USautos98(main)

取材協力
Hot Stuff
住所:愛知県春日井市大留町9-2-6(ショールーム)
TEL:0568-53-0055
FAX:0568-51-5448
MAIL:ffuts25@yahoo.co.jp
アメリカ製のビンテージのスポーツカーや大衆車、バンやトラックなどを輸入・販売する愛知県の専門店。ショールームの近くには、自社専用のファクトリーやカスタムガレージを備える。ストリートロッド製作の相談と現地ビルダーへのオーダー・連絡も引き受けている。
ピックアップ
第129回 | 大人のための最新自動車事情

マッチョな軍人たちへ──愛国仕様のダッジチャージャー

『ワイルド・スピード』の第一作が公開されたのは2001年のことだ。主人公ドムの愛車は、圧倒的パワーをもつ古き良き時代のダッジ『チャージャー』。言わずとしれたマッスルカーである。あれから10余年。アメリカでは今、シリーズにたびたび登場する1960〜70年代の『チャージャー』の価値が上昇し続けている。なにしろ、このSUV全盛の時代にあって、現行の『チャージャー』『チャレンジャー』までもが10年間で70%も販売台数が伸びているのだ。そして、この人気を逃すまいとブランドもさまざまな限定車やオプションを設定。今年4月には、なんとも印象的なストライプのカスタムルックが登場した。

モダンマッスルカーの代表車種2台。ダッジ『チャージャー』と『チャレンジャー』

マッスルカーとは、広義では大排気量のV8エンジンを搭載するハイパフォーマンスのアメリカ車を指す。狭義では1968年から1971年にかけて作られた高性能でハイグレードなアメ車のこと。フルサイズのセダンやクーペ、後輪駆動車が多い。したがって、より正確にいうと、現行車種はマッスルカーではなく、ニューマッスルカーなどと呼ばれる。

そのモダンなマッスルカーのひとつが、ダッジブランドの現行『チャージャー』『チャレンジャー』だ。『チャージャー』は2ドアクーペで、いわば生まれながらのマッスルカー。『チャレンジャー』は4ドアセダンで、フォード『マスタング』と同様にポニーカー(手頃な価格のスポーティカー)として誕生した。いずれも現行型は第三世代で、発表されてから10年以上の時を刻んでいる。にもかかわらず、本国では依然高い人気を誇るモデルだ。

その証拠に、4月のニューヨークオートショー2019において、2台の上位グレードに設定可能な特別パッケージが発表されると、それだけでニュースになったほど。パッケージの名称は「stars & stripes edition(スター・アンド・ストライプス・エディション)」。ミリタリーをテーマとする渋いストライプをまとったカスタムルックのオプションである。

テーマは星条旗。フロントからリアにかけて走る極太のサテンブラック・ストライプ

「stars & stripes edition」は、その名のとおり、「スター・アンド・ストライプス(星条旗)」をテーマにしたカスタムルックだ。最大の特徴は、フロントからリアにかけてボディを覆うようにペイントされたサテンブラックのストライプ。この極太ストライプの正面に向かって右側、つまりドライバーズシート側には、シルバーの縁取りが入っている。

シートはブラックのファブリック(布製)で、ヘッドレスト側面に刺繍されたブロンズのスターが目を引く。このブロンズカラーはシートとステアリングホイールのステッチにも使用されている。そのほか、ボディ側面にさりげなく描かれている星条旗、20インチホイール、前後のスポイラー、装備されるバッジ類は、すべてサテンブラック仕上げだ。

選択できるボディカラーは、「デストロイヤーグレイ」「F8グリーン」をはじめ、「グラナイトクリスタル」「インディゴブルー」「マキシマムスティール」「オクタンレッド」「ピッチブラック」「トリプルニッケル」「ホワイトナックル」の全9色。写真の『チャージャー』はデストロイヤーグレイ、『チャレンジャー』がまとっているのはF8グリーンだ。

軍人や愛国精神をもつマッチョたちのために設定されたカスタムルックのオプション

「統計によると、軍人が購入するアメリカンブランドのなかで、もっとも人気があるのはダッジ」。これはダッジのプレスリリースにある一文だ。とりわけ、彼らがもっとも多く選択しているのが『チャージャー』と『チャレンジャー』だという。つまり、軍人や愛国精神をもつマッチョな男たちのために設定されたのが今回の星条旗ルックというわけだ。

愛国精神はともかく、マッスルカーがマッチョな男に似合うのは『ワイルド・スピード』シリーズを見れば一目瞭然。日本人はよほど筋トレしないとむずかしいかもしれない。

なお、「stars & stripes edition」が設定されるのは『チャージャーR/T』『チャージャー スキャットパック』『チャージャーGT RWD』『チャレンジャーR/T』『チャレンジャーR/T スキャット・パック』『チャレンジャーGT RWD』の6車種。5月から発売される。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Fiat Chrysler Automobiles
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

ピックアップ

editeur

検索