editeur

検索
サービス終了のお知らせ
第11回 | 大人ライダー向けのバイク

ヘルメットも不要、BMWが考える「100年後のバイク」

BMWは、スポーティかつラグジュアリーな高級車を生産する自動車メーカーであると同時に、それよりも長い90年の歴史を持つ世界屈指のオートバイメーカーでもある。独自の哲学が込められたモデル群は、ヨーロッパはもちろん、日本国内でも高く評価され、多くのバイクファンの心を掴んでいる。BMWモトラッド『Vision Next 100(ビジョン ネクスト100)』は、そのBMWがバイクの今後100年の進化を予想した大胆なコンセプトモデルだ。バイクにおいて、もっともネガティブなポイントである「転倒」の心配がなく、ヘルメットも必要ない画期的なコンセプトを持つ。

バイク最大の弱点「転倒の危険性」を取り去った画期的なBMWのコンセプトモデル

「未来のバイク」と聞くと、40〜50代の男性なら、大友克洋の漫画・アニメ映画『AKIRA』に登場する「金田のバイク」を想像するかもしれない。『ビジョン ネクスト100』の極力突起のないシンプルなスタイルにも、そうした未来的なデザインを見て取れる。

しかし、このコンセプトモデルが斬新なのは、バイクの最大のウィークポイントである「転倒の危険性」を取り去っていることだ。センサー検知に加えて、車体に内蔵される大型フライホイールのジャイロ効果によって、バランスを完璧に保ち、スタンドなしでも自立が可能となるという。さらに、その強力なジャイロは、たとえ衝突してもバランスを崩すことがない。

パワートレインの詳細は明らかにされていないが、エンジンは有害ガスを排出しない「ゼロエミッション」という設定で、パワートレインの一部と思われる車体中央部にはBMWのアイデンティティであり、現在のモデル群に搭載されている水平対向エンジンを彷彿とさせる。このエンジンブロックは伸び縮みし、走行中の空気抵抗を減らす効果があるほか、駐車時には折り畳まれるという。

速度に合わせて『トランスフォーマー』のように変形する「フレックス・フレーム」

黒いトライアングルのフレームは、1923年に作られたBMW初のバイク『R32』へのオマージュだ。しかし、単なる引用ではなく、「FlexFrame(フレックス・フレーム)」と名付けられたこのボディは自ら変形し、速度などに合わせてバリアブルに折れ曲がる。従来のモーターサイクルのように「ハンドルを切って曲がる」のではなく、「ボディの変形で曲がる」のだ。

車体下部にあるボクサーエンジンを模したフィンは、停車時はコンパクトに折り畳まれるが、ライディング時は“蛇腹”のように横にせり出し、ライダーの足を保護する。

モーターサイクルはスピードが上がるにつれて、ライダーにかかる風圧も増していくが、『ビジョン ネクスト100』のボディはフルフェアリング同様の防風効果を持ち、常にライダーの快適性が保たれる。その防風効果と、そして転倒の危険もないことから、この100年後のモーターサイクルではライダーはヘルメットの着用からも解放されるという。

拡張現実バイザーによって、ライダーの目の前に理想的なコーナリングラインを表示

『ビジョン ネクスト100』には、もはやスイッチの類いも見当たらない。たとえば、右折したいときには指で右を示せばいい。すると、車体がそれを感知して自動的にウインカーを点滅してくれる。ナビの操作なども、フィンガージェスチャーですべてを行うことが可能となっている。

車体にはメーター類もないが、これは速度などの情報がすべてゴーグルに内蔵されたHUD(ヘッドアップディスプレイ)に表示されるからだ。

この拡張現実バイザーには、ナビはもちろん、勾配の角度やコーナリング時の理想的なラインも表示されるという。とはいえ、視線追従技術によって、情報は常に視線の先に投影されるので、視界の妨げにはならない。視線ひとつで、さまざまなインターフェイスを操作できるのだ。ネットと接続されているため、事故の可能性も予測し、万が一のときの回避行動なども表示される。

こうしたシステムは、すべて「ヘルメットなしでも安全なバイク」というコンセプトを実現するためのものだ。さらに、BMWではライダーの身体を完璧にサポートするバイオニックライディングスーツも開発中だという。近い将来、SF映画で見たような光景が現実となるかもしれない。

もっとも、いくら転倒の危険がないといっても、これはまるでバイク版の自動運転車のようにも思える。ライディングを愉しみたいライダーたちがどう感じるかは微妙なところだろう。しかし、メーカーにとって自動運転など先進安全技術の進化は責務で、「真の自由」が転倒の危険性がない世界にあるのも事実。BMWが考える「100年後のバイク」とは、テクノロジーの進化によって、ライダーがより自由なライディング体験を得られるようにするものなのだ。

Text by Tetsuya Abe

ピックアップ
第69回 | 大人ライダー向けのバイク

ドゥカティ ディアベル1260──悪役感溢れるクルーザー

クルーザーとは、平坦で長い直線道路を巡航(クルーズ)することに重点をおいたオートバイのスタイルのことだ。ハーレーダビッドソンやインディアンをイメージするとわかりやすいだろう。広大な北米大陸で発達したことから、日本ではアメリカンバイクとも呼ばれている。それをイタリア流のセンスによって味つけしたのが、ドゥカティ『ディアベル』である。従来のクルーザーと一線を画す独創的なデザインをもつ『ディアベル』は、2011年にデビューするや世界中で大ヒット。そして今回、第二世代へと進化した。

クルーザーでも「走りはやっぱりドゥカティ」。ファンの期待に応えるキャラクター

2010年にEICMA(ミラノモーターサイクルショー)で発表された初代『Diavel(ディアベル)』は、斬新なデザインだけではなく、従来のドゥカティのイメージと異なるクルーザージャンルに挑戦したモデルとして話題を集めた。じつは、ドゥカティは2014年にフォルクスワーゲングループに属するアウディに買収され、その傘下となっている。レース由来のスポーツモデルというブランドのアイデンティティを脇に置き、経営戦略を優先した結果の新型車と見る者が多かったことも、注目された理由のひとつだったのだろう。

しかし、初代『ディアベル』は見た目以上にスポーティで、実際にライディングを味わった人々からは「やっぱり走りはドゥカティ」との評価を得ることが多い。そうしたユーザーの声は、期待どおりのキャラクターに仕上げられていることを証明するものだ。

その『ディアベル』が第二世代へと進化した。ドゥカティは3月に開催されたジュネーブモーターショーで2019年モデルの発表を行ったが、そこで専用スペースを与えられ、ショーのアイコンモデルとしてお披露目されたのが『ディアベル1260』だ。しかも、2014年のようなマイナーチェンジではなく、すべてを見直した2代目としての登場である。

低回転域でもパワフルな排気量1262ccの「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載

アイコニックな外観は、シルエット自体に大きな変化はない。しかし、全体にボリュームアップしており、重量感も増していると感じる。トレリス(格子状)フレームもまったく新しくなり、ぱっと見た印象としては、よりヒール(悪役)感が演出されているようだ。短いシートエンドとスラッシュカットで跳ね上がるサイレンサーエンドは、リアまわりをすっきりとさせた。同時にマスが凝縮されているようで、鍛えられた筋肉を連想させる。

その細部への作り込みによる質感の高さが評価されたのか、『ディアベル1260』は第二世代であるにもかかわらず、ドイツの権威あるプロダクトデザイン賞「Red Dot Award 2019:Best of the Best(レッド・ドット・デザイン賞)」にも輝いているくらいだ。

エンジンは、初代から継承されてきた排気量1198ccの水冷L型ツインからスープアップされ、1262ccの強力な「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載。それにより、最高出力は従来の152hp/9000rpmから159hp/9000rpmへ、最大トルクは12.5kgm/8000rpmから13.2kgm/7500rpmへとそれぞれ高められている。車体重量はドライウエイトで218kgもあるが、これだけのトルクがあれば低速域でも軽快に扱えるはずだ。

ドゥカティ自身も新エンジンについて、「息を呑む加速とスムーズな低回転域のパワー特性を備え、日常ユースにも長距離ツアーにも対応する」としている。そのパワーを受け止めるのは、『ディアベル』のトレードマークである極太のリアタイヤだ。クルマ並の240mmという超ワイドタイヤを装着し、ボッシュ製のコーナリングABSも標準装備された。

特別なコンポーネントを与えられたスポーティ仕様車『ディアベル1260 S』も設定

新型には標準仕様に加えてスポーティな「S」バージョンも設定された。こちらには、専用のシートとホイールが与えられるほか、ブレンボ製M50ラジアルマウント・モノブロック・ブレーキ・キャリパー、オーリンズ製サスペンションなどを装備。さらに、クラッチ操作をせずに変速できる「クイックシフトアップ&ダウンエボ」も標準装備される。

『ディアベル1260』は、すでに1月半ばからボローニャにあるドゥカティの本社工場で生産が始まっており、ヨーロッパでは3月から販売が開始された。日本での発売は7月ごろを予定している。4月13日には大阪で「Ducati Diavel Meeting」が開催されたが、なんとこのミーティングの参加者は現行『ディアベル』のオーナー限定だった。新型のオーナーになれば、こうした特別なイベントへの招待状がドゥカティから届くかもしれない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Ducati Motor Holding S.p.A
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Ducati Diavel 1260 オフィシャル動画
ピックアップ

editeur

検索