バイク最大の弱点「転倒の危険性」を取り去った画期的なBMWのコンセプトモデル
「未来のバイク」と聞くと、40〜50代の男性なら、大友克洋の漫画・アニメ映画『AKIRA』に登場する「金田のバイク」を想像するかもしれない。『ビジョン ネクスト100』の極力突起のないシンプルなスタイルにも、そうした未来的なデザインを見て取れる。
しかし、このコンセプトモデルが斬新なのは、バイクの最大のウィークポイントである「転倒の危険性」を取り去っていることだ。センサー検知に加えて、車体に内蔵される大型フライホイールのジャイロ効果によって、バランスを完璧に保ち、スタンドなしでも自立が可能となるという。さらに、その強力なジャイロは、たとえ衝突してもバランスを崩すことがない。
パワートレインの詳細は明らかにされていないが、エンジンは有害ガスを排出しない「ゼロエミッション」という設定で、パワートレインの一部と思われる車体中央部にはBMWのアイデンティティであり、現在のモデル群に搭載されている水平対向エンジンを彷彿とさせる。このエンジンブロックは伸び縮みし、走行中の空気抵抗を減らす効果があるほか、駐車時には折り畳まれるという。
速度に合わせて『トランスフォーマー』のように変形する「フレックス・フレーム」
黒いトライアングルのフレームは、1923年に作られたBMW初のバイク『R32』へのオマージュだ。しかし、単なる引用ではなく、「FlexFrame(フレックス・フレーム)」と名付けられたこのボディは自ら変形し、速度などに合わせてバリアブルに折れ曲がる。従来のモーターサイクルのように「ハンドルを切って曲がる」のではなく、「ボディの変形で曲がる」のだ。
車体下部にあるボクサーエンジンを模したフィンは、停車時はコンパクトに折り畳まれるが、ライディング時は“蛇腹”のように横にせり出し、ライダーの足を保護する。
モーターサイクルはスピードが上がるにつれて、ライダーにかかる風圧も増していくが、『ビジョン ネクスト100』のボディはフルフェアリング同様の防風効果を持ち、常にライダーの快適性が保たれる。その防風効果と、そして転倒の危険もないことから、この100年後のモーターサイクルではライダーはヘルメットの着用からも解放されるという。
拡張現実バイザーによって、ライダーの目の前に理想的なコーナリングラインを表示
『ビジョン ネクスト100』には、もはやスイッチの類いも見当たらない。たとえば、右折したいときには指で右を示せばいい。すると、車体がそれを感知して自動的にウインカーを点滅してくれる。ナビの操作なども、フィンガージェスチャーですべてを行うことが可能となっている。
車体にはメーター類もないが、これは速度などの情報がすべてゴーグルに内蔵されたHUD(ヘッドアップディスプレイ)に表示されるからだ。
この拡張現実バイザーには、ナビはもちろん、勾配の角度やコーナリング時の理想的なラインも表示されるという。とはいえ、視線追従技術によって、情報は常に視線の先に投影されるので、視界の妨げにはならない。視線ひとつで、さまざまなインターフェイスを操作できるのだ。ネットと接続されているため、事故の可能性も予測し、万が一のときの回避行動なども表示される。
こうしたシステムは、すべて「ヘルメットなしでも安全なバイク」というコンセプトを実現するためのものだ。さらに、BMWではライダーの身体を完璧にサポートするバイオニックライディングスーツも開発中だという。近い将来、SF映画で見たような光景が現実となるかもしれない。
もっとも、いくら転倒の危険がないといっても、これはまるでバイク版の自動運転車のようにも思える。ライディングを愉しみたいライダーたちがどう感じるかは微妙なところだろう。しかし、メーカーにとって自動運転など先進安全技術の進化は責務で、「真の自由」が転倒の危険性がない世界にあるのも事実。BMWが考える「100年後のバイク」とは、テクノロジーの進化によって、ライダーがより自由なライディング体験を得られるようにするものなのだ。
Text by Tetsuya Abe