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第10回 | 大人ライダー向けのバイク

50余年前の熱い思いを込めたBMWの“スクランブラー”

40代以上のライダー、あるいはリターンライダーを志す男たちの間で、ハーレーダビッドソンと人気を二分しているドイツのBMW。ところが、最近になってそのバロメーターにも変化が現れているという。その要因となったのが、2014年4月に日本でリリースされたロードスポーツモデル、BMW『R NINE T(アール・ナイン・ティ)』。BMWモトラッド創業90周年を記念して開発されたこのモデルは、いわゆる「カフェレーサー」のスタイリングで、さまざまなカスタマイズをすることを前提に造りこまれたバイクだ。2016年10月、この『アール・ナイン・ティ』をベースにしたスクランブラーモデル、『R NINE T SCRAMBLER(アール・ナイン・ティ スクランブラー)』が発売される。

オンロードバイクを悪路用に改造し、浅間山火山レース等で活躍したスクランブラー

BMWに乗るライダーはハーレー乗りと違い、ハンドルやマフラーを換えたり、外装を大きく換えたりすることを敬遠する傾向がある。しかし、『アール・ナイン・ティ』は、カスタムしやすいように、リアフレームが取り外し可能で、オプションのシングルシートに変更できるようになっている。これには保守的なBMW乗りも驚いたに違いない。そこに2015年のイタリア・ミラノショーで発表されたのが、『アール・ナイン・ティ』をベースにしたスクランブラーモデルを発売するというニュースだ。

2016年10月に国内販売される『スクランブラー』は、メーカーが仕上げた未舗装路も走れるモデル。スクランブラーとは、「緊急発進」を意味するが、ジェット戦闘機のスクランブル発進とはまったく違う。それは1960年以前のバイクレースに起因する。

当時は、日本の浅間火山レースなど不整地でのレースも多く、また現在と違ってオフロード専用のバイクがなかった。そこで、オンロードのバイクをオフロードも走れるように、タイヤやマフラー、ハンドルを改造し、レースに臨んだそうだ。スタートは横一線にバイクを並べ、スタートフラッグとともに全車一斉にダッシュ。そこから、このようなレースを「スクランブルレース」、バイクを「スクランブラー」と呼ぶようになった。スクランブラーという語感には、半世紀前の熱い想いがこもっているのだ。

40代ライダーに人気のBMW『R NINE T』をベースにしたアップマフラーなどを装着

『スクランブラー』のパワーユニットは、既存の『アール・ナイン・ティ』と同じく、排気量1169cc、空油冷フラットツインのボクサーエンジン。フロントタイヤを17インチから19インチに拡大し、フロントフォークには泥ハネがつかないようブーツが装着されている。そして、不整地でのハンドル操作が効くようアップハンドルを採用し、またスクランブラーの証しともいえるアップマフラーが装着されている。

記事執筆時点では発売前のため、まだ試乗はできていないが、『アール・ナイン・ティ』の完成された「走る」「曲がる」「止まる」を引き継ぐのだから、そのバランスの良さは想像に難しくない。ただし、『アール・ナイン・ティ』で評判の良かったシート高785mm(空車時)が、35mmほど高い820 mm(同)となっているので、足つき性は少々悪くなっている。

また、『アール・ナイン・ティ』より2kg軽くなっているとはいえ、車重が220kgあるので、モトクロッサーのようなジャンプは怪我の元だ。大人のバイクには大人のバイクらしい楽しみがある。無茶なジャンプより、むしろライディングファッションにこだわりたい。

『スクランブラー』を完成させるためにBMWモトラッドが用意した多彩なオプション

不思議なのは、『アール・ナイン・ティ』がスポークホイールなのに、『スクランブラー』はキャストホイール仕様であること。オフロード仕様ならスポークホイールの方が利点はあるはずだが、公式サイトのオプションを見ると、クロススポークホイールが用意されていた。「ブラックアルマイト処理が施されたクロススポークホイールは、クラシックなスクランブラーの外観を完ぺきに仕上げるアイテム」と説明文があるが、これは標準装備にするべきだろう。

しかし、このアクセサリー・オプションには、いくつかうれしい装備もあった。スクランブルレースを彷彿させるゼッケンプレートのような、アルミニウム製のナビゲーションシステム用ホルダー。これはBMW モトラッド・ナビゲーション機器とスマートフォン用クレードルの取り付けが可能だという。

また、ヘッドライトの前に付ける、ヘッドライト保護グリルも用意されている。公道での使用は不可だが、ライダーをその気にさせる装備だ。シートなど『アール・ナイン・ティ』のオプションも換装できるので、自分なりの『スクランブラー』にカスタムできるのがうれしい。「パリダカ」カラーのスクランブラーもきっと出てくるに違いない。

そして、自分なりに仕上げた『スクランブラー』でツーリングに行くなら、やはり北海道だろう。幹線道路を外れると、未舗装道路も多くある。思うままに気楽に旅を操れるのは、スクランブラーだけの特権だ。

Text by Katsutoshi Miyamoto

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第69回 | 大人ライダー向けのバイク

ドゥカティ ディアベル1260──悪役感溢れるクルーザー

クルーザーとは、平坦で長い直線道路を巡航(クルーズ)することに重点をおいたオートバイのスタイルのことだ。ハーレーダビッドソンやインディアンをイメージするとわかりやすいだろう。広大な北米大陸で発達したことから、日本ではアメリカンバイクとも呼ばれている。それをイタリア流のセンスによって味つけしたのが、ドゥカティ『ディアベル』である。従来のクルーザーと一線を画す独創的なデザインをもつ『ディアベル』は、2011年にデビューするや世界中で大ヒット。そして今回、第二世代へと進化した。

クルーザーでも「走りはやっぱりドゥカティ」。ファンの期待に応えるキャラクター

2010年にEICMA(ミラノモーターサイクルショー)で発表された初代『Diavel(ディアベル)』は、斬新なデザインだけではなく、従来のドゥカティのイメージと異なるクルーザージャンルに挑戦したモデルとして話題を集めた。じつは、ドゥカティは2014年にフォルクスワーゲングループに属するアウディに買収され、その傘下となっている。レース由来のスポーツモデルというブランドのアイデンティティを脇に置き、経営戦略を優先した結果の新型車と見る者が多かったことも、注目された理由のひとつだったのだろう。

しかし、初代『ディアベル』は見た目以上にスポーティで、実際にライディングを味わった人々からは「やっぱり走りはドゥカティ」との評価を得ることが多い。そうしたユーザーの声は、期待どおりのキャラクターに仕上げられていることを証明するものだ。

その『ディアベル』が第二世代へと進化した。ドゥカティは3月に開催されたジュネーブモーターショーで2019年モデルの発表を行ったが、そこで専用スペースを与えられ、ショーのアイコンモデルとしてお披露目されたのが『ディアベル1260』だ。しかも、2014年のようなマイナーチェンジではなく、すべてを見直した2代目としての登場である。

低回転域でもパワフルな排気量1262ccの「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載

アイコニックな外観は、シルエット自体に大きな変化はない。しかし、全体にボリュームアップしており、重量感も増していると感じる。トレリス(格子状)フレームもまったく新しくなり、ぱっと見た印象としては、よりヒール(悪役)感が演出されているようだ。短いシートエンドとスラッシュカットで跳ね上がるサイレンサーエンドは、リアまわりをすっきりとさせた。同時にマスが凝縮されているようで、鍛えられた筋肉を連想させる。

その細部への作り込みによる質感の高さが評価されたのか、『ディアベル1260』は第二世代であるにもかかわらず、ドイツの権威あるプロダクトデザイン賞「Red Dot Award 2019:Best of the Best(レッド・ドット・デザイン賞)」にも輝いているくらいだ。

エンジンは、初代から継承されてきた排気量1198ccの水冷L型ツインからスープアップされ、1262ccの強力な「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載。それにより、最高出力は従来の152hp/9000rpmから159hp/9000rpmへ、最大トルクは12.5kgm/8000rpmから13.2kgm/7500rpmへとそれぞれ高められている。車体重量はドライウエイトで218kgもあるが、これだけのトルクがあれば低速域でも軽快に扱えるはずだ。

ドゥカティ自身も新エンジンについて、「息を呑む加速とスムーズな低回転域のパワー特性を備え、日常ユースにも長距離ツアーにも対応する」としている。そのパワーを受け止めるのは、『ディアベル』のトレードマークである極太のリアタイヤだ。クルマ並の240mmという超ワイドタイヤを装着し、ボッシュ製のコーナリングABSも標準装備された。

特別なコンポーネントを与えられたスポーティ仕様車『ディアベル1260 S』も設定

新型には標準仕様に加えてスポーティな「S」バージョンも設定された。こちらには、専用のシートとホイールが与えられるほか、ブレンボ製M50ラジアルマウント・モノブロック・ブレーキ・キャリパー、オーリンズ製サスペンションなどを装備。さらに、クラッチ操作をせずに変速できる「クイックシフトアップ&ダウンエボ」も標準装備される。

『ディアベル1260』は、すでに1月半ばからボローニャにあるドゥカティの本社工場で生産が始まっており、ヨーロッパでは3月から販売が開始された。日本での発売は7月ごろを予定している。4月13日には大阪で「Ducati Diavel Meeting」が開催されたが、なんとこのミーティングの参加者は現行『ディアベル』のオーナー限定だった。新型のオーナーになれば、こうした特別なイベントへの招待状がドゥカティから届くかもしれない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Ducati Motor Holding S.p.A
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Ducati Diavel 1260 オフィシャル動画
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