オンロードバイクを悪路用に改造し、浅間山火山レース等で活躍したスクランブラー
BMWに乗るライダーはハーレー乗りと違い、ハンドルやマフラーを換えたり、外装を大きく換えたりすることを敬遠する傾向がある。しかし、『アール・ナイン・ティ』は、カスタムしやすいように、リアフレームが取り外し可能で、オプションのシングルシートに変更できるようになっている。これには保守的なBMW乗りも驚いたに違いない。そこに2015年のイタリア・ミラノショーで発表されたのが、『アール・ナイン・ティ』をベースにしたスクランブラーモデルを発売するというニュースだ。
2016年10月に国内販売される『スクランブラー』は、メーカーが仕上げた未舗装路も走れるモデル。スクランブラーとは、「緊急発進」を意味するが、ジェット戦闘機のスクランブル発進とはまったく違う。それは1960年以前のバイクレースに起因する。
当時は、日本の浅間火山レースなど不整地でのレースも多く、また現在と違ってオフロード専用のバイクがなかった。そこで、オンロードのバイクをオフロードも走れるように、タイヤやマフラー、ハンドルを改造し、レースに臨んだそうだ。スタートは横一線にバイクを並べ、スタートフラッグとともに全車一斉にダッシュ。そこから、このようなレースを「スクランブルレース」、バイクを「スクランブラー」と呼ぶようになった。スクランブラーという語感には、半世紀前の熱い想いがこもっているのだ。
40代ライダーに人気のBMW『R NINE T』をベースにしたアップマフラーなどを装着
『スクランブラー』のパワーユニットは、既存の『アール・ナイン・ティ』と同じく、排気量1169cc、空油冷フラットツインのボクサーエンジン。フロントタイヤを17インチから19インチに拡大し、フロントフォークには泥ハネがつかないようブーツが装着されている。そして、不整地でのハンドル操作が効くようアップハンドルを採用し、またスクランブラーの証しともいえるアップマフラーが装着されている。
記事執筆時点では発売前のため、まだ試乗はできていないが、『アール・ナイン・ティ』の完成された「走る」「曲がる」「止まる」を引き継ぐのだから、そのバランスの良さは想像に難しくない。ただし、『アール・ナイン・ティ』で評判の良かったシート高785mm(空車時)が、35mmほど高い820 mm(同)となっているので、足つき性は少々悪くなっている。
また、『アール・ナイン・ティ』より2kg軽くなっているとはいえ、車重が220kgあるので、モトクロッサーのようなジャンプは怪我の元だ。大人のバイクには大人のバイクらしい楽しみがある。無茶なジャンプより、むしろライディングファッションにこだわりたい。
『スクランブラー』を完成させるためにBMWモトラッドが用意した多彩なオプション
不思議なのは、『アール・ナイン・ティ』がスポークホイールなのに、『スクランブラー』はキャストホイール仕様であること。オフロード仕様ならスポークホイールの方が利点はあるはずだが、公式サイトのオプションを見ると、クロススポークホイールが用意されていた。「ブラックアルマイト処理が施されたクロススポークホイールは、クラシックなスクランブラーの外観を完ぺきに仕上げるアイテム」と説明文があるが、これは標準装備にするべきだろう。
しかし、このアクセサリー・オプションには、いくつかうれしい装備もあった。スクランブルレースを彷彿させるゼッケンプレートのような、アルミニウム製のナビゲーションシステム用ホルダー。これはBMW モトラッド・ナビゲーション機器とスマートフォン用クレードルの取り付けが可能だという。
また、ヘッドライトの前に付ける、ヘッドライト保護グリルも用意されている。公道での使用は不可だが、ライダーをその気にさせる装備だ。シートなど『アール・ナイン・ティ』のオプションも換装できるので、自分なりの『スクランブラー』にカスタムできるのがうれしい。「パリダカ」カラーのスクランブラーもきっと出てくるに違いない。
そして、自分なりに仕上げた『スクランブラー』でツーリングに行くなら、やはり北海道だろう。幹線道路を外れると、未舗装道路も多くある。思うままに気楽に旅を操れるのは、スクランブラーだけの特権だ。
Text by Katsutoshi Miyamoto