BMW「7シリーズ」が導入した自動駐車システム
2016年5月、BMWのフラッグシップセダン「7シリーズ」に、「リモート・コントロール・パーキング」というオプションが設定された。名称でもわかるように、つまり「自動駐車システム」である。
これまでも、運転席に座ったドライバーのステアリング操作を自動制御してくれるタイプの駐車支援システムはあったが、BMWの「リモート・コントロール・パーキング」はそれとはまったく違う。ドライバーが外からディスプレイ内蔵のリモコンキーを操作して、無人のクルマを所定の位置まで動かすことができるのだ。操作時は常にPDC(パークディスタンスコントロール)センサーが作動し、歩行者などを検知すると、自動的に動作を停止する。ドライバーなしの自動駐車システムは、量産車として世界で初めてのことだ。
自動駐車システムを導入しているのはBMW 7シリーズだけではない。やはり2016年5月、内蔵ソフトウェアを更新することでさまざまな機能を追加できる高級EV「テスラS」も、日本市場に向けて自動駐車システム「サモン」の無料配信を開始。いまのところ、BMWもテスラも、駐車場所の正面にクルマを停めたときにしかシステムは対応しないが、テスラの場合、来るべき「完全自動運転」時代に備え、すでにセンサーや制御システムも搭載済みで、ソフトウェアのアップデートで機能を追加することが可能だ。
世界最先端をいくメルセデス・ベンツ「Eクラス」の自動運転機能「ドライブパイロット」
しかし、これはまだ序の口にすぎない。BMWと同じドイツのプレミアムブランド、メルセデス・ベンツは2016年1月、「ドライブパイロット」と呼ばれる最先端の新技術を搭載した新型「Eクラス」を発表した(メイン写真と下の写真)。
メルセデス・ベンツはすでに2013年、レーダーセンサーやステレオマルチパーパスカメラでクルマの周辺のほぼ360度を監視し、事故の危険性があればドライバーに警告、自動ブレーキなどによって事故を未然に予防する「レーダーセーフティ」を標準装備して部分自動運転を実現している。
ドライブパイロットは、これをさらに進化させたものだ。とくに、先行車との車間距離、周囲の交通状況を常に監視することで、これまでよりもステアリングアシストが作動する状況が大幅に拡大。道路の混雑時や高速道路が渋滞した際は、このシステムによってドライバーにかかる負担を大きく軽減する。
たとえば、「ディストロニックプラス」は、ステアリングに手を添えているだけでクルマが自動的にコーナーを駆け抜けてくれるアシスト機能で、新型Eクラスでは130km/hまでの速度なら車線のない道路でも動作する。渋滞時の発進停止もクルマ任せでOKなのだ。
さらに、「アウトバーンパイロット」は、ウィンカーレバーを操作すると隣のレーンの交通状況を認識し、可能なタイミングで自動的に車線を移るなど、車線変更も自動で行う機能。また、ドライバーが車線変更をしようとステアリングを切ったとき、隣の車線にクルマがいることを検知すると、自動的に元の車線に戻ってくれる機能もある。
自動車線変更機能はテスラも実用化しているが、その制御はメルセデス・ベンツのほうがより自然だという。新型Eクラスは、スマートフォンで操作する「リモート・コントロール・パーキング」も装備している。
オートパイロットの完全実現は2020年以降!?
自動運転には、緊急自動ブレーキや追従型クルーズコントロールなど、ひとつの機能を自動化する「レベル1」から、完全自動運転の「レベル4」まで4段階あるが、メルセデス・ベンツの「ドライブパイロット」は、ステアリングを握らずハンズフリーで走行できる「レベル3」に限りなく近いもの。まだ手放し運転は認められていないが、技術的にはその段階まできているのだ。
問題は、法律やルールが自動運転技術の進化に追いついていないことだろう。「ハンズフリー(手放し運転)はどこまで認められるのか?」「その場合の運行責任は誰が持つのか?」など、自動運転の国際的なルールが確立されれば、オートパイロット化の波はさらに加速していくはずである。日本政府の高度情報通ネットワーク社会推進本部も、東京オリンピックのある2020年後半以降の完全自動運転の実現を目標に掲げている。
世界の自動車産業にとって、「オートパイロット」の完全実現は待ったなしなのだ。今後の数年で「自動運転」をめぐる事情が大きく変わるのは間違いない。
Text by Muneyoshi Kitani