editeur

検索
サービス終了のお知らせ
第21回 | 大人のための最新自動車事情

ブランドが顧客を選ぶ、スーパーカー「購入者審査」

スーパーカーのなかには、車両価格5000万円から数億円、最高速は350km/hから400km/hという、すべてにおいてケタ違いの特別なモデルが存在する。こうしたクルマは、いくら莫大な資産を持つ富裕層でも誰もが購入できるわけではない。ブランドによる厳しい選定審査を受け、そのスーパーカーのオーナーにふさわしい人物として認めてもらわなければ、どれだけお金を積んでもクルマを手に入れることができないのである。ブランドが顧客を選ぶスーパーカーの「購入者選定審査」とは、いったいどのようなものなのか。

ブガッティ・ヴェイロンが広めた購入者選定

購入希望者の選定審査を設けて最近注目されたのは、2016年4月に予約が開始された新型フォード「GT」だ。年間250台しか生産されないこの希少なスーパーカーは現在、2年分の500台のみが注文を受け付けているが、約5000万円という価格にもかかわらず、7000件もの予約申し込みが殺到。そこで、ブランドが購入希望者の審査を行い、新型GTのオーナーとなるのにふさわしい人物を慎重に選んでいるという。

優先順位が高いのは、先代GTを購入し、現在も手放さずに乗り続けているオーナーだが、そのほかに「長年フォードを乗り継いでいる人かどうか」「置物として飾らずに、どれくらいの頻度でフォードGTをドライブしてくれるか」「購入後、投機目的ですぐに売却しないか」など、さまざまな審査項目を設定。また、SNSなどで新型GTの情報をどれくらい拡散してくれているのかなども審査の対象となる。

スーパーカーの購入者選定審査が一般的に有名になったのは、車両価格約2億円、最高速400km/h以上、量産車として世界最大の16気筒エンジンを積むブガッティ「ヴェイロン」の存在が大きい。この超弩級のスーパーカーは、購入希望者に対して正規ディーラーやブガッティ本社が念入りに選定審査を行うことで知られ、審査に通ると、予約金を支払ったのち、ブガッティ本社からファーストクラスの航空券が同封された招待状が届くといわれている。

さらに、2016年にスパイダーモデルが登場するといわれるフェラーリ初のハイブリッドスーパーカー「ラ・フェラーリ」も、発表時には世界中から購入希望者が殺到したが、ブランド側が選別した限られた上顧客にしか販売されなかった。マクラーレン「P1」、パガーニ「ウアイラ」なども同様だ。こうした特別なスーパーカーの購入希望者は、ブランドによって「長年ブランドを乗り続けているか」「投機目的の売却はしないか」などについて、厳しく審査される。

下の写真は、ビバリーヒルズにある5つ星の超高級ホテル「ビバリーウィルシャー-ビバリーヒルズ、ア・フォーシーズンズホテル」の車寄せに並ぶ、ブガッティ・ヴェイロン、マクラーレンP1、ラ・フェラーリ。めったにお目にかかれない特別なスーパーカーたちだ。

(C)Axion23
(C)Axion23
(C)Axion23

バブルを教訓に審査を厳格化したフェラーリ

そもそも、スーパーカーの購入者審査はいつ、なんのために生まれたのだろうか。『フェラーリの買い方』などの著書を持ち、自身も多数の跳ね馬を駆るモータージャーナリストの清水草一さんは、「1960年に初めてフェラーリを買った日本人には、なんら審査が行われなかったそうです」と語る。

「フェラーリは当時、欧州から遠く離れた極東の日本からクルマを買いにくる時点で、東洋の王子かなにかだと判断したようです。フェラーリが初めてオーナー選定を行ったのは『F40』でしょう。とはいえ、その審査はアバウトなもので、F40は当初400台しか作らない予定だったにもかかわらず、殺到したオーダーに応えて1000台以上も生産してしまったのです」

F40は、1987年にフェラーリが創業40周年を記念して生産した同社初の限定モデルだ。当時の日本はバブル真っ盛りで、新車価格5000万円弱のF40が2億円を超える価格で取引されたこともあった。どうしてもこのクルマに乗りたかったというよりも、人々はF40を「投機対象」「富の象徴」とみなしていたのである。

「そのため、後継モデルの『F50』以降は、『過去に新車で何台のフェラーリを購入しているか』など、F40とは打って変わって厳格なオーナー選定が行われるようになりました。F50は生産台数も349台という当初の予定を守っています。1991年、創業者だったエンツォ亡き後のフェラーリにルカ・ディ・モンテゼーモロ(フェラーリ前会長)が戻り、社長に就任したことで、マネジメントにもきちんと力を入れるようになったのだと思います」

下の写真の左がフェラーリF40、右はF50。後ろのもう1台は、フェラーリの創業55周年を記念して生産され、この2台に続くスペチアーレとなった「エンツォ・フェラーリ」である。

(C)Axion23
(C)Axion23

ブランドから社長名で上顧客に届く「招待状」

ただし、購入希望者の選定審査が設けられているのは、5000万円から億単位の限られたスーパーカーだけで、すべてのスーパーカーにオーナー審査があるわけではない。

支払いさえきちんとできれば、フェラーリ「カリフォルニア」やランボルギーニ「ウラカン」などのオーナーになるにあたって、審査らしきものはなにもない。長い納車待ちの列に並ぶ必要はあるが、中古車を選択すればそれもない。しっかりした購入の意思さえあれば、ディーラーに行っても門前払いされることなどなく、きちんと相談に乗ってもらえるという。

「オーナー審査があるような特別なスーパーカーは、それまでに十分な購入実績を積んだオーナーを優先するため、一見客にはまず買えません。限られたごく一部の人に向けたビジネスなので、新車が出る前に、ブランドから社長の名前で『あなたのために、購入枠を準備しています』と“招待状”が届くようです。しかし、もし購入後にすぐ手放してしまったら、もう二度とその人のところに招待状が届くことはありません。スーパーカーは高値がつくので、なかにはすぐに売ってお金に替えてしまうような人もいるのです」

スーパーカーブランドとオーナーの関係は、お金ではなく、強固な信頼関係で成り立っている。投機目的で特別なスーパーカーを買おうとするような人は、最初からオーナーになる資格がないわけだ。スーパーカーを所有できるのは、そのオーナーが人間として信用されているということでもある。だからこそ、「スーパーカーオーナー」はステータスともなり得るのだ。

(C)Axion23

Text by Tetsuya Abe

Photo by (C)Axion23(main)

取材協力
清水草一さん
1962年生まれのモータージャーナリスト。高速道路研究家。大乗フェラーリ教開祖。「512TR」や「F355」、「458イタリア」など多数のフェラーリを乗り継ぐ。『フェラーリの買い方』(竹書房新書)、『首都高速の謎』(扶桑社新書)など著書多数。
ピックアップ
第129回 | 大人のための最新自動車事情

マッチョな軍人たちへ──愛国仕様のダッジチャージャー

『ワイルド・スピード』の第一作が公開されたのは2001年のことだ。主人公ドムの愛車は、圧倒的パワーをもつ古き良き時代のダッジ『チャージャー』。言わずとしれたマッスルカーである。あれから10余年。アメリカでは今、シリーズにたびたび登場する1960〜70年代の『チャージャー』の価値が上昇し続けている。なにしろ、このSUV全盛の時代にあって、現行の『チャージャー』『チャレンジャー』までもが10年間で70%も販売台数が伸びているのだ。そして、この人気を逃すまいとブランドもさまざまな限定車やオプションを設定。今年4月には、なんとも印象的なストライプのカスタムルックが登場した。

モダンマッスルカーの代表車種2台。ダッジ『チャージャー』と『チャレンジャー』

マッスルカーとは、広義では大排気量のV8エンジンを搭載するハイパフォーマンスのアメリカ車を指す。狭義では1968年から1971年にかけて作られた高性能でハイグレードなアメ車のこと。フルサイズのセダンやクーペ、後輪駆動車が多い。したがって、より正確にいうと、現行車種はマッスルカーではなく、ニューマッスルカーなどと呼ばれる。

そのモダンなマッスルカーのひとつが、ダッジブランドの現行『チャージャー』『チャレンジャー』だ。『チャージャー』は2ドアクーペで、いわば生まれながらのマッスルカー。『チャレンジャー』は4ドアセダンで、フォード『マスタング』と同様にポニーカー(手頃な価格のスポーティカー)として誕生した。いずれも現行型は第三世代で、発表されてから10年以上の時を刻んでいる。にもかかわらず、本国では依然高い人気を誇るモデルだ。

その証拠に、4月のニューヨークオートショー2019において、2台の上位グレードに設定可能な特別パッケージが発表されると、それだけでニュースになったほど。パッケージの名称は「stars & stripes edition(スター・アンド・ストライプス・エディション)」。ミリタリーをテーマとする渋いストライプをまとったカスタムルックのオプションである。

テーマは星条旗。フロントからリアにかけて走る極太のサテンブラック・ストライプ

「stars & stripes edition」は、その名のとおり、「スター・アンド・ストライプス(星条旗)」をテーマにしたカスタムルックだ。最大の特徴は、フロントからリアにかけてボディを覆うようにペイントされたサテンブラックのストライプ。この極太ストライプの正面に向かって右側、つまりドライバーズシート側には、シルバーの縁取りが入っている。

シートはブラックのファブリック(布製)で、ヘッドレスト側面に刺繍されたブロンズのスターが目を引く。このブロンズカラーはシートとステアリングホイールのステッチにも使用されている。そのほか、ボディ側面にさりげなく描かれている星条旗、20インチホイール、前後のスポイラー、装備されるバッジ類は、すべてサテンブラック仕上げだ。

選択できるボディカラーは、「デストロイヤーグレイ」「F8グリーン」をはじめ、「グラナイトクリスタル」「インディゴブルー」「マキシマムスティール」「オクタンレッド」「ピッチブラック」「トリプルニッケル」「ホワイトナックル」の全9色。写真の『チャージャー』はデストロイヤーグレイ、『チャレンジャー』がまとっているのはF8グリーンだ。

軍人や愛国精神をもつマッチョたちのために設定されたカスタムルックのオプション

「統計によると、軍人が購入するアメリカンブランドのなかで、もっとも人気があるのはダッジ」。これはダッジのプレスリリースにある一文だ。とりわけ、彼らがもっとも多く選択しているのが『チャージャー』と『チャレンジャー』だという。つまり、軍人や愛国精神をもつマッチョな男たちのために設定されたのが今回の星条旗ルックというわけだ。

愛国精神はともかく、マッスルカーがマッチョな男に似合うのは『ワイルド・スピード』シリーズを見れば一目瞭然。日本人はよほど筋トレしないとむずかしいかもしれない。

なお、「stars & stripes edition」が設定されるのは『チャージャーR/T』『チャージャー スキャットパック』『チャージャーGT RWD』『チャレンジャーR/T』『チャレンジャーR/T スキャット・パック』『チャレンジャーGT RWD』の6車種。5月から発売される。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Fiat Chrysler Automobiles
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

ピックアップ

editeur

検索