editeur

検索
サービス終了のお知らせ
第13回 | フェラーリの最新車デザイン・性能情報をお届け

自分だけのフェラーリ、“テーラーメイド”という悦楽

近年、高級車ブランドの間でトレンドとなっているパーソナリゼーション。さまざまな素材やカラーを用意し、顧客の好みに合わせて世界に1台だけの愛車に仕上げるサービスである。2013年には、スーパーカーブランドを代表するフェラーリもパーソナリゼーションの「フェラーリ・テーラーメイド」を開始した。イタリア・マラネッロのフェラーリ本社で専任のデザイナーとともに「自分だけのフェラーリ」を仕立てる、「超」がつくほど特別なプログラムだ。

既成品のフェラーリでは満足できない富裕層

ブルー、ホワイト、レッドのレーシングストライプを配したメイン写真のフェラーリは、たんなる「カリフォルニアT」ではない。世界にこの1台しか存在しない、テーラーメイド・プログラムによるフェラーリである。

もともと、フェラーリはフルオーダー制を採っており、どのモデルもボディカラー、ホイール、ブレーキキャリパーのカラーを選ぶことができる。カーボン製ディフューザーなどのオプションを装着することも可能だ。インテリアでは、シートのみならず、ロア/アッパーのダッシュボード、カーペット、シートベルト、ステッチのカラーまで細かに指定できる。

しかし、いくらフルオーダーといっても、「既成品」であることには変わりがない。とくに、フェラーリのオーナーには一代で財を成した成功者など、富裕層が多い。フルオーダーによる幅広い選択肢を用意しても、それだけでは飽き足らず、「特注」する人が少なくないという。こうしたリッチな上顧客の要望に応えるべく、フェラーリが用意したのが「テーラーメイド・プログラム」である。

下の写真は、1950〜60年代のテイストを取り入れ、あえてクラシカルに仕立てたテーラーメイドのカリフォルニアTだ。

フェラーリ本社の専用アトリエで仕様を決定

テーラーメイド・プログラムでは、ボディカラーやストライプのデザイン、シートの素材まで、オーナーの好みに合わせて無限に近い選択肢を用意している。なかには、「インテリアはこのレザーを使いたい」と素材を持ち込むオーナーや、「使い込まれた革の味わいを出したい」と、経年変化が出やすい素材をオーダーする人もいるという。

こうした要望に対応するのがテーラーメイド専任のデザイナーである。打ち合わせはイタリア・マラネッロにあるフェラーリ本社の専用アトリエで行われ、顧客は自分が考えるクルマのコンセプトをデザイナーに伝え、さまざまなカラーや素材のサンプルを見て仕様を決めていく。

ただし、どんなオーダーにもすべて応えてくれるわけではない。このプログラムの特徴は、顧客の要望を、フェラーリを熟知した専任デザイナーが精査すること。あまりにブランドイメージとかけ離れているオーダーの場合、「フェラーリに似つかわしくない」と代案を示されるケースもある。その分、自由度は制限されるが、逆にいえば、専任デザイナーのアドバイスを受けることで確実に美しいフェラーリに仕上がるわけだ。

仕様が決まれば、数週間後にデザインスケッチが届き、修正作業や生産など、次の段階へと進む。納期はスタンダードモデルの生産工程に加えて2カ月程度。オーナーにとって、この2カ月間は「待つのが楽しい時間」となるはずだ。

クラプトンがオーダーした特別注文製作モデル

しかし、あくまで「もしも」の話だが、もしテーラーメイド・プログラムでは満足できない人がいるなら、もうひとつ、「スペシャルオーダー」というパーソナリゼーションもある。多様な選択肢がある点ではテーラーメイドとの間に大きな違いはないが、スペシャルオーダーは自由度が高く、技術的に可能なら顧客のどんな要望にも応じてくれる。

たとえば、フェラーリは2012年、ある上顧客のスペシャルオーダーで「SP12 EC」というワンオフモデルを製作している。モデル名にある「SP」は、特別注文製作モデルを表す「スペシャル・プロジェクト」のことで、「12」は12気筒フェラーリに敬意を示したもの。そして、「EC」はエリック・クラプトンの頭文字である。そう、この世界に1台しかないフェラーリは、『レイラ』などの大ヒット曲を持つ著名なミュージシャンで、フェラーリ好きで知られるエリック・クラプトンのスペシャルオーダーを受けて製作されたものなのだ。

エンジンを含めてベースとなっているのは「458イタリア」で、デザインはフェラーリの社内チームとピニンファリーナのコラボレーション。フロントフードに入るシルバーのルーバーや、レッド/ブラックの2トーンカラーなど、往年の「512BB」を思い出させてくれるスタイリングが特徴だ。クラプトンが支払った金額は、およそ3億6000円といわれている。

最近では、東京の都心部でカリフォルニアや458イタリアを見かける機会も増え、富裕層には「吊るし」のフェラーリでは満足できなくなった人もいることだろう。

しかし、希少なスペチアーレもそうであるように、「自分だけのフェラーリ」は、お金を積めば手に入れられるものではない。最新モデルをはじめ、歴代フェラーリを新車で購入して大切に乗り、ブランドに上顧客と認めてもらわなければならない。実際、クラプトンは1969年以来、「デイトナ」「512BB」「308」「エンツォ・フェラーリ」」など、計30台以上のフェラーリを所有してきたという。

歴代のスタンダードモデルや限定モデルを乗り継いできたフェラーリオーナーが最後に到達する境地、それがパーソナリゼーションによる「自分だけのフェラーリ」なのである。

Text by Muneyoshi Kitani

ピックアップ
第28回 | フェラーリの最新車デザイン・性能情報をお届け

フェラーリF8トリブート──最後のV8ミッドシップなのか

ジュネーブモーターショーで初披露された『F8 Tributo(トリブート)』。フェラーリはそのクルマを、「跳ね馬の歴史上、最高峰の2シーター・ベルリネッタ」と称した。ベルリネッタは、イタリア語で2ドアの高性能クーペを意味する。その名には、「オリジナルモデルの妥協なきエンジン・レイアウトとパワーへのオマージュ」を込めたという。オリジナルモデルとは、ミッドリヤエンジン・スポーツカーの『488GTB』のことだ。『F8トリブート』は、『488GTB』をベースにした事実上の後継モデルとなる。

『488GTB』の後継モデルとしてデビュー。最新のV8フェラーリは空力性能がすごい

『F8トリブート』のデザインは、『488GTB』も手がけたフェラーリ・スタイリング・センターによるものだ。後継モデルであり、ベースも同じなだけに、シルエットには共通項が多い。フェラリスタでなければ、一見して違いを見分けられないだろう。しかし、細部を見ると、先進のエアロダイナミックを実現するために、サーキットで培われた経験が惜しみなく注ぎ込まれていることがわかる。その結果、従来比でエアロダイナミック効率が10%も向上した。

エンジンの熱処理も、『488GTB』から進化。『488GTB』のスペシャルバージョン『488ピスタ』から受け継いだ部分が多い。たとえば、ダイナミックエアインテークは、ボディ側面後部からリアスポイラーの両側に設置場所を移した。また、後傾マウントのフロントラジエーターによって、熱せられた空気がフラットなアンダートレーによって導かれるため、ホイールアーチ内でエアフローの熱相互作用が最小限に抑えられる。これによって冷却風のフロー管理が改善し、エアの温度を15度低下させている。

フロントにも『488ピスタ』で初めて導入された「Sダクト」を採用。デザインは再設計で、ダウンフォース全体における「Sダクト」の貢献度が15%まで向上した。また、フラットタイプの新型LEDヘッドランプを採用したことで、よりシャープさが増した。これは後述するブレーキの進化にもつながっている。

リヤでは、新デザインのレキサン(ポリカーボネイト)製のリヤスクリーンが印象的だ。透明で、エンジンルームを透かして見ることができる。これは、フェラーリのもっとも有名なV8モデルである『F40』の特徴的なデザイン要素を現代的にアレンジしたもの。細長い羽根板を一定の間隔を空けながら連続的に並べたルーバー形状は、リヤで発生するダウンフォースの増加に加えて、エンジンルーム内の熱気排出を促すという。

『F40』、そして『308 GTB』。歴代のV8モデルをオマージュした『F8トリブート』

伝説のV8モデルを取り入れたデザインは、『F40』由来だけではない。リヤスポイラーの意匠は、『F8トリブート』の始祖ともいえる1975年の『308 GTB』をはじめ、初期の8気筒ベルリネッタのシンボルのひとつを復活させた。具体的には、テールライトの一部を包むことで視覚的に車輌の重心位置を下げ、ツイン・ライトクラスター(片側2灯式ライト)とボディカラー同色のテールパネルというクラシックな構成を蘇らせている。

インテリアは、ミッドシップベルリネッタの伝統を基本的に踏襲した。それはつまり、ドライバー重視のコックピットデザインということだ。ただし、ダッシュボード、ドアパネル、トランスミッショントンネルなど、個々の要素はすべて再設計されている。

コックピット周りは、最新のフェラーリそのもの。新世代HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)に加え、新デザインのステアリングホイールやスイッチ類、円形のエアコン吹き出し口、新型7インチのタッチスクリーンディスプレイなどが採用されている。ちなみに、ステアリングホイールは従来よりも小径化。グリップ感覚が強化されたことで車輌の挙動がより明確につかめて、細かなステアリング操作に反応するようになった。

『F8トリブート』は歴代のV8ミッドシップのなかでもっとも強力なエンジンを搭載

心臓部は、排気量3.9LのV型8気筒ガソリンツインターボエンジン。最高出力は720ps/8000rpm、最大トルクは770Nm/3250rpmで、『488 GTB』に対してパワーが50psアップ、トルクは1kgm強化された。フェラーリが通常のオンロードモデルに搭載してきたパワーユニットのなかでは、もっともパワフルなV8であり、ターボエンジンのみならず、あらゆるエンジンに対してのベンチマークを打ち立てている。

さらに、『F8トリブート』は『488GTB』から40kgの軽量化を実現。当然、爆発的な加速力もより増している。ターボラグをまったく感じさせることなく720hpの出力を発揮し、0-100km/hまでは2.9秒、0-200km/hまでは7.8秒で加速。最高速度は340km/hだ。当然、刺激的なエグゾーストサウンドを堪能できることはいうまでもないだろう。

これらの跳ね馬のパワーを受け止め、扱いやすい駿馬にしてくれるのが、先進のビークルダイナミクスソリューションである。最新バージョンのサイドスリップ・アングル・コントロール・システムを搭載し、マネッティーノ(運転モードセレクト)の「RACE」ポジションで最新バージョンのフェラーリ・ダイナミック・エンハンサー(FDE+)を作動させる。これは、これまでにない初の試みだ。これらのテクノロジーにより、多くのドライバーが限界域でのパフォーマンスを簡単に引き出し、コントロールできるようになった。現行レンジ・モデルでもトップレベルのパフォーマンスと抜群のコントロール性能を実現している。

また、コンパクトなフラットタイプの新型LEDヘッドランプを採用したことで、ブレーキ冷却用の新型インテークをバンパー外側のインテークと一体化することに成功。それにより、ホイールアーチ全体の気流が改善され、高速化した車体の減速をブレーキシステムのサイズを拡大せずにスムーズに行うことができるようになった。

『F8トリブート』は、次世代のV8ミッドシップモデルへのワンポイントリリーフ?

フェラーリのV8ミッドシップは、これまで『308』『308QV』『208』『328』『348』『348G』『F355』『360モデナ』『F430』『458イタリア』『488GTB』、そして『F8トリブート』へと進化してきた。ただ、厳密にいえば、『F8トリブート』は『488GTB』の延長線上にある。

ということは、遅からずV8ミッドシップの新世代モデルが発表されるのかもしれない。さらにいえば、V8ミッドシップというパワートレイン自体が、つぎの次元へと進化するといった戦略も考えられなくもない。

ハイブリッドにEVと、パワートレインの進化はどんな自動車メーカーにも押し寄せる。それはスポーツカーブランドも例外ではない。もし、『F8 トリブート』が伝統を受け継ぐ最終盤の一台だとしたら、それはそれで、歴史に残る名車となりそうだ。

Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) Ferrari S.p.A.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Ferrari F8 Tributo オフィシャル動画
ピックアップ

editeur

検索