独自の進化を遂げてきた欧州コンパクトカー
欧州はサイズによるクルマのクラス分けがはっきりとしていて、「セグメント」という基準が用いられている。コンパクトカーとは、一般的に「Aセグメント」「Bセグメント」に属する車種のことだ。大人4人が乗れて荷物も運ぶことができる、実用性が高く、普段使いに優れた小型車である。
日本でよく知られているモデルでいえば、フォルクスワーゲン「ポロ」、フォード「フィエスタ」、アウディ「A1」、「MINI」などがこれに該当する。日本の自動車メーカーも低価格で燃費性能に優れたコンパクトカーを得意とするが、欧州のそれは、国産コンパクトカーとはまったく異なる事情により成熟してきた。
欧州各国の街には歴史的な建造物が立ち並び、クルマには景観を壊さず、街並みに違和感なく溶けこむデザインが求められる。また、欧州の人々には家族と過ごす時間を大切にする気質があり、休日やバカンスの際の長距離移動に耐えうる走行性能も必要となる。こうしたことから、欧州ではコンパクトカーが独自の進化を遂げ、洗練された軽やかさとともに、「走り」も愉しめるクルマとして人気となっているのである。
価格は200〜300万円と国産コンパクトカーの倍以上だが、高級車を所有する層にはむしろお手頃だ。近年は「Cセグメント」が大型化していることもあり、欧州車勢はこのクラスにクルマ本来の魅力を追求したモデルを次々に投入。さまざまなシーンに合わせてクルマを選ぶことが可能となっている。
普段使いはパンダ、デザインならルーテシア
フィアット「パンダ」は、手頃な価格のイタリアンコンパクトとしてフィアット「500」とともに人気を集めているモデルだ。全長3655mmのボディのなかに、ジウジアーロの傑作のひとつである初代モデルから受け継がれた高い実用性と遊び心を凝縮している。
500と同じ2気筒875ccターボの「ツインエア」は、どこか懐かしさを感じさせるサウンドで、2ペダルMTの「デュアロジック」を駆使した走りは軽快そのもの。出力は57kW(77ps)にすぎないので決して速くはないが、クルマを操っている感覚が強く、交差点を曲がるだけでも「ファン・トゥ・ドライブ」を感じさせてくれる。
随所に四角のモチーフが使われたポップなインテリアも、パンダの魅力のひとつ。装備はじつにシンプルで、オーディオはCDプレーヤーのみ、パワーウインドウは前席にしかつかない。それでも「これで十分でしょ?」と教えてくれるのが、パンダというクルマだ。
ルノー「ルーテシア」は、フランス車らしい優しいスタイリング、クラスを超える乗り心地のよさで支持されてきたルノーのベストセラーだ。4代目となる現行モデルでは、サイズが拡大され、質感も大幅にアップしている。前後フェンダーを膨らませたり、リヤのドアノブをサッシュに組み込んで作れられた流麗なフォルムは、どこか女性的でもある。
パワートレインは1.2Lターボ+6速DCT、あるいは0.9Lターボ+5速MT。走りを求める人には1.6Lターボ+6速DCTを搭載する「R.S.(ルノースポール)」シリーズもあるが、ノーマルモデルでも十分に速く、スポーティだ。
日本ではルノーはマイナーブランドだが、古くから「玄人受け」するクルマだった。高い実用性と良好な乗り心地、フランスらしいデザインの三拍子が揃っているためである。ルーテシアもその点は変わらない。実用車でも自分の個性を主張することができる稀有な存在だ。
つかの間の非日常感を愉しめるプジョー208
少し時間が空いたとき、助手席に妻やガールフレンドを乗せてふらりと近場の海にクルマを走らせ、つかの間の非日常感を愉しむ。気軽に出かける気分にしてくれるのもコンパクトカーの魅力だが、そんなシーンに最適なのがプジョー「208」である。
「207」に比べて少しアダルトなスタイリングとなった208は、2012年の発売以来、世界累計100万台以上を生産してきたベストセラー。プジョーの足回りは「猫足」とも評されるが、スタイリングもどこかネコ科の動物を髣髴とさせる愛嬌のあるもので、女性にも人気が高い。
2014年から採用される1.2Lの「ピュアテック」3気筒ターボエンジンは、「エンジン・オブ・ザ・イヤー2015」の1.0~1.4L部門で最優秀賞にも選ばれた。ライバル「ルーテシア」に「R.S.」があるように、208には「GTi」がラインナップされ、「小気味良い」という表現がピッタリの走りは休日のドライブに最適。ルーテシアとはまた違ったフレンチコンパクトだ(写真は2012年モデル)。
大人の男性にとって、コンパクトカーはそのサイズや価格からセカンドカーという位置づけになるが、近年はメルセデス・ベンツやBMWなどの高級車ブランドも続々と優れた小型車を送り出しており、セカンドカーとするにはもったいないくらいの個性的なモデルがラインナップされている。どれを選ぶかはあなた次第だが、どのモデルでもきっと、休日の愉しいひとときを彩ってくれるだろう。
Text by Syuhei Kaneko