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第4回 | トヨタの最新車デザイン・性能情報をお届け

神話を体験できる最後の世代のために、トヨタ2000GT

それ以前に存在していたフェアレディやスカイラインなどの「スポーツカー」とは一線を画したジャパニーズスーパーカーのルーツ、トヨタ2000GT。オートバイメーカーであるヤマハ発動機への委託生産という形でトヨタとヤマハが共同開発し、スーパーカーブームの1967年から1970年まで、トヨタブランドで販売されたフラグシップ的モデルだ。世界中でいまだ根強い人気を持つ2000GTの、「今なお触れられる伝説」に迫ってみることにしよう。

ヤマハ主導で開発されたJスポーツカーの始祖

移動手段としてだけではなく、クルマにようやく趣味性やスポーツ性が求められ始めた1960年代後半。日産がフェアレディZ、ホンダがSシリーズを展開するなか、当時のトヨタには大衆車のパブリカをベースにしたS800があったくらいで、ハイパフォーマンスなスポーツカーのラインナップは持っておらず、ノウハウもなかった。そこで力強いパートナーとなったのがヤマハ。以後、トヨタ車の高性能エンジンにはヤマハ製が多く採用されることになる。

2000GTは、生産はもとより、開発もほぼヤマハ主導で行われ(トヨタから開発メンバーがヤマハに出向するという形となった)、このクルマのアイデンティティーのひとつでもある美しい内装品などもほとんどヤマハの技術陣が開発、デザインを担当した。ハンドルやインパネのウッドパネルは楽器の木材加工技術によるものだ。

(C)RM Sotheby's.
(C)RM Sotheby's.
(C)RM Sotheby's.

販売価格は238万円。当時の大卒初任給は2万3000円程度だったので、現在なら1600万円もの価格がつく計算となる。2000GTを購入するお金で、クラウンが2台、カローラなら6台も買うことができた。

これらのことから、ライバルメーカーや辛口自動車評論家からは「トヨタではなくヤマハ2000GT(ガッポリトヨタ)」などと揶揄されたりもしたが、トヨタ的には赤字販売が続いていたという。

約1億2000万円! 有名絵画や宝石レベルの価値

2000GTの資産価値を押し上げている要因は、その希少さにもある。生産期間は3年3カ月、生産台数は全世界でわずか337台。そのうち日本国内向けは前期型が110台、後期型が108台の合計218台となっている。

記憶に新しいのは、2013年に行われたアメリカのオークションで、前期型の2000GTが日本車として最高値となる1億1800万円で落札されたのがニュースとなったことだろう。もはやその価値は有名絵画などの芸術品、宝石レベルともいえ、海外ではクルマとしてよりも資産として取引されてしまうのは仕方のないところか。

しかし、国内にはいまだに現役で走り続けている2000GTが少数ながら存在し、オーナーズクラブや中古車ショップ、レプリカモデルもある。その中古価格は、痛みが目立つ放置車両でも最低1000万以上、純正部品でレストアされた完璧な車両なら5000万円以上となるが、インターネットで検索すればまだ中古車を見つけることのできる今こそ、「2000GT神話」に直接触れられる残り少ないチャンスといっていいだろう。

2000GTの型式「MF10」には、初期型と後期型が存在するが(ごく少数で、市販はされなかったが、OHCエンジンの2300ccモデル「MF12L」もある)、ヘッドライトカバーが大きい初期型のほうが圧倒的に人気となっている。1967年の『007は二度死ぬ』に登場して日本車唯一のボンドカーとなったのも初期型のオープンタイプで、当時子供たちに人気だったプラモデルやミニカーなどもほとんどベースは初期型だ。

(C)StrayShadows
(C)StrayShadows

2000GTを体験できる切符は残りあとわずか

それでは、希少さや価格といった色眼鏡を外し、「クルマそのもの」として見た場合の2000GTの魅力とはどのようなものだろうか。

実際に目にすると、まず驚くのが、ロングノーズのグラマラスなボディながら想像以上に小さく、コンパクトにまとまったクルマだということ。数値で表すなら、トヨタの小型ハイブリッド車のアクアよりも全長が150mm長く、幅が95mm狭い程度だ。車高は低く、大人なら普通に立っている状態で屋根とボンネットがすべて見渡せてしまう。しかし、当然ながら、その存在感はアクアとは比較にならないほどのオーラを放ち、見る者を挑発し圧倒する。

(C)RM Sotheby's.
(C)RM Sotheby's.

メカニズムもDOHCエンジン、4輪独立サス、5段シンクロミッション、4輪ディスクブレーキ、ラック・アンド・ピニオン式ステアリング、リトラクタブルヘッドライトなど、当時の最高の技術が惜しみなく投入され、専用デザインの鋳造マグネシウム製ホイールの標準装備は、現在のスポーツカーのスペックをも超えるほどだ。

筆者は10年以上前、幸運なことに、マスコミ向けのトヨタの記念イベントで、交流のあるオーナーズクラブの方が所有する後期型の2000GTに触れることができた。よく手入れされたエンジンの音はやや大きめで、昔のDOHCエンジンらしいカムチェーンのヒューヒュー音を車内でも感じることができ、意外なことに低速トルクも十分に感じられた。また、ジョイスティックのような短さで、かつ気持ちいいカッチリ感のあるシフトレバー、プルスティックタイプのサイドブレーキ、やや重く低速ではオーバーステア気味なラック・アンド・ピニオン式ステアリングともども、思わず昂ぶった記憶がある。

(C)RM Sotheby's.

しかし一番感心したのは、スーパーカーにあるまじき居住性能だ。目に飛び込んでくる豪華なウッドステアリングとインストルメントパネルなど、ヤマハ製内装の高級感はまるでヴィンテージ家具のようで、当時の外国車にありがちなコックピットの威圧感もなく、快適そのもの。機会があればぜひ前期型にも試乗してみたいところだ。

トヨタとヤマハが作り上げたジャパニーズプライドは、海外では資産対象となってしまったが、日本では少数ながらまだまだ現役。カーマニアならずとも、この「ファーストサムライ」を体験できる「ラストサムライ」としての残り少ない切符に、ついつい憧れてしまう。

(C)Vertualissimo

Text by Rippa Creo

Photo by (C)Vertualissimo(main)

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第17回 | トヨタの最新車デザイン・性能情報をお届け

超屈強なフルサイズSUV──トヨタ セコイアTRDプロ

日本の自動車メーカーが作るクルマには「日本では買えない海外専用モデル」というものが存在する。とくにSUVやピックアップトラックには、北米専用モデルが多い。ホンダなら『パイロット』『リッジライン』、日産なら『タイタン』にインフィニティ『QX70』。トヨタのフルサイズSUV『セコイア』も、そのうちの一台だ。この巨大な北米専用SUVに、モータスポーツ直系のチューニングを施した「TRDプロ」が加わった。日本では見ることもその性能を堪能することもできない、アメリカならではフルサイズSUVである。

全長5mの巨大なボディに豪華な装備。トヨタ『セコイア』は北米市場で人気のSUV

アメリカでは、フルサイズSUVを持つことがひとつのステータスになっている。多用途的とは言いがたいスポーツカーと違い、日常からレジャーまで幅広く利用でき、グレードによっては高級セダンに匹敵する乗り心地を実現し、さらに頑丈な車体は回避安全の意味でも頼りがいがあるためだ。VIPやセレブレティも移動にフルサイズSUVを使うことが多い。

フルサイズに明確な基準があるわけではないが、SUVをボディサイズでセグメントしたとき、もっとも大きなクラスを指し、コンパクトやミドルに対して「ラージサイズ」とも呼ばれる。全長は5m以上、全幅は2m以上かそれに近い車両がフルサイズにあたる。

トヨタの北米市場専用モデル『セコイア(Sequoia)』も、『ランドクルーザー200』以上の巨体をもつフルサイズSUVだ。トヨタ・インディアナ工場で製造され、初代は2000年にデビュー。その後、2008年と2018年にフルモデルチェンジを受けた。SUVを名乗っているが、どちらかというと『セコイア』は4WDとしてのヘビーさよりもオンロードでの快適性や利便性を重視したクルマで、充実したインテリアによってプレミアム感を演出している。それがユーザーの嗜好を捉えているのは、好調なセールスを見れば明らかだ。

フルサイズSUVで唯一セカンドシートにスライド機構をもち、じつのところ、それも人気を支えている要素になっている。さらにサードシートのリクライニングやフルフラットも電動(オプション)なので、家族の評判が高くなるのは道理なのだ。このほか、初代から運転席の8ウェイのパワーチルトやスライド式ムーンルーフを標準装備。トライゾーン・オートエアコンも備え、Apple CarPlay、Android Auto、Amazon Alexaにも対応する。もちろんBluetoothハンズフリー電話機能とミュージックストリーミングも可能だ。

しかし、2月にシカゴでお披露目された『セコイアTRDプロ』は、標準仕様とはかなり趣が異なる。その名のとおり、これは「TRD」のバッジを冠するモデルだからだ。

FOX製のショックアブソーバーを搭載。『セコイアTRDプロ』はTRDの最新モデル

TRDは「トヨタ・レーシング・ディベロップメント(Toyota Racing Development)の頭文字だ。トヨタのワークスファクトリースチームとしてレーシングカーを開発し、そこで培った経験や技術を生かしてトヨタ車用にチューニングパーツの製作と販売を行っている。国内外の多くのレースに参戦しているが、近年では『ヴィッツ』(輸出名『ヤリス』)をベースにしたマシンでWRC(世界ラリー選手権)に参戦して注目を集めた。前身は1970年代にさかのぼり、モータースポーツマニアならずともTRDの知名度は非常に高い。

「TRDプロ」は、2014年から北米でトヨタのオフロードモデルにラインナップされているシリーズで、ピックアップトラックの『TUNDRA(タンドラ)』と『TACOMA(タコマ)』、そして日本では『ハイラックスサーフ』としておなじみのSUV『4 Runner(フォー・ランナー)』に設定されている。このTRDプロの最新作が『セコイアTRDプロ』だ。

5.7L V型8気筒ガソリンエンジンを搭載し、トランスミッションは6速AT。55.4kg-mという図太いトルクを発揮し、しかもそのトルクの90%をわずか2200rpmという回転数で得ることができる。加えて、マルチモードの4WDシステム(ほかのグレードではオプション)やロッカブル・トルセン・リミテッド・センターデフ(トルク分配式デフ)を搭載したことで、従来の『セコイア』になかった高い走破性をもつのが特徴のひとつだ。

しかし、もっとも重要なチューニングポイントはサスペンションだろう。オフロード用のショックユニットメーカーとして知られるFOX社のアブソーバーは、アルミ製の本体にインターナル・バイパスを装備し、外力の大きさによって異なる減衰機構が働く。日常の走りでは柔軟に動き、ストローク量に応じて減衰力が高まるのでボトムしにくいのだ。数多くのオフロードコンペで優れた実績を残したメカニズムで、むろん専用にチューニングされている。しかもTRDの厳しい要求に応えるため、前後で異なるユニットが採用された。

「オンとオフ」「シティとカントリー」「マニアとファミリー」をまとめて愉しむSUV

外観で目立つのは、P275/55R20タイヤを装着した20インチx8インチのBBSブラック鍛造アルミホイールと、フィニッシュがブラッククローム仕上げの単管エキゾーストだ。誇らしげに「TRD」のロゴが入れられたフロント下部のスキッドプレートは、もちろんトレイル走行中にフロントサスペンションとオイルパンを保護するのに役立つもの。また、フロントグリルも「TOYOTA」のロゴを配した専用デザインとなっている。

面白いのは、TRDのエンジニアが乗員に配慮し、キャビンの音質を改善するために周波数調整したサウンドキャンセルデバイスを採用したこと。これによって低く心地よいエキゾーストノートを提供するという。走りとは関係ないものの、ぜひ体験したい機能だ。

かつての四輪駆動車愛好者は、それ以外の自動車ユーザーと求めるデザインや装備、機能が明らかに違っていたが、技術の進歩とセンスの変遷はさまざまな境界を取り払おうとしていると感じる。「オンとオフ」「シティとカントリー」「マニアとファミリー」をまとめて愉しもう、というのが『セコイアTRDプロ』の隠れたコンセプトなのかもしれない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) TOYOTA MOTOR CORPORATION.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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