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第12回 | フェラーリの最新車デザイン・性能情報をお届け

名匠ピニンファリーナが生み出した美しき自動車たち

ピニンファリーナの名は、自動車好きだけではなく、それ以外の人も耳にしたことがあるはずだ。その作品でもっとも有名なのは歴代のフェラーリだが、ほかにも、船舶、モーターサイクル、時計、オフィスチェア、エスプレッソマシン、2006年トリノ五輪の聖火台とトーチにいたるまで、さまざまなプロダクトのデザインを手がけてきたイタリア最大のカロッツェリアである。しかし、2015年12月、インドのマヒンドラグループがピニンファリーナの株式の約76%を取得。名門カロッツェリアが買収された背景には、自動車メーカーの生産システムの変化があるという。自動車にはもう美しさは必要ないのか? カーデザインの未来を探りつつ、ピニンファリーナが生み出した自動車のうち、とりわけ高く評価されている5モデルを紹介しよう。

MoMAに永久展示されるチシタリア202クーペ

デザイン性とエレガントさに主眼を置いた欧州最古の自動車コンクール「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」。2015年7月、イタリア・トリノにおいて、ピニンファリーナデザインの自動車のみを対象にしたコンコルソ・デレガンツァが行われた。このとき、もっともエレガントな自動車として選ばれたのが、いまからおよそ70年前に発表された「チシタリア202クーペ」である。

チシタリア202クーペは、ボディとフェンダーが一体となった空力ボディを採用した極初期の自動車だ。発表当時、その美しいスタイリングは多くの人たちを魅了し、「小さな宝石」と呼ばれていたという。

1951年には、MoMA(ニューヨーク近代美術館)の特別展示会で「動く彫刻」として取り上げられ、自動車としては史上初めて、このモダンアートの殿堂のパーマネントコレクションとなった。伸びやかで曲線的なライン、過飾を廃したシンプルなデザインは、その後にピニンファリーナが手がけた各モデルに通じるものだ。

(C)dmentd
(C)Steve Sexton

ケン・オクヤマが手がけたクアトロポルテ

ピニンファリーナの歴代チーフデザイナーは、アルド・プロヴァローネ、レオナルド・フィオラバンティ、エマヌエーヌ・ニコジア、エリンコ・フミアなど、後に世界的に有名となるデザイナーたちが務めてきた。そのうちの1人が日本人のケン・オクヤマ(奥山清行)である。

2004年に登場したマセラティのフラッグシップセダン「クアトロポルテ」は、ロングノーズの艶やかなボディラインなど、2000年代以降のピニンファリーナを代表する美しい車だが、このモデルはオクヤマがピニンファリーナを離れる前に最後に手がけたものだった。

1988年に発表された「アルファロメオ164」は、エンリコ・フミアによるもの。直線基調のデザインはいかにも80年代的だが、「ロングノーズ・ハイデッキ」のスタイリングは、いま見てもそれほど古さを感じさせない。アルファロメオ164のスタイルは「セダンの黄金比」といっても過言ではなく、1988年度の「トリノ・ピエモンテデザイン賞」を受賞している。

1998年の「プジョー406クーペ」は、「世界一美しいクーペ」「もっとも美しいフランス車」と評されている。デザインや設計を手がけたのは、故ダビデ・アルカンジェリ。ケン・オクヤマの著書『フェラーリと鉄瓶』によれば、アルカンジェリはピニンファリーナを去った後、BMWで5シリーズを担当し、取締役会でデザインが承認された当日に急性白血病によって亡くなったという。オクヤマは、同じインダストリアルデザイナーとしてプジョー406クーペのデザインに言及し、Aピラーからフェンダー、ボンネットを割るSラインが特に素晴らしいと評している。

ピニンファリーナの最高傑作「ディーノ」

ピニンファリーナと聞いて誰もが思い浮かべるのは、やはりフェラーリだろう。ピニンファリーナは1952年の「212インテル」以降、歴代フェラーリのほとんどのモデルのデザインを担当してきた。なかでも、2代目経営者であり、このカロッツェリアの中興の祖というべきセルジオ・ピニンファリーナが「自分がデザインしたフェラーリのなかでもっとも成功した作品」と語るのが、1967年に発表された「ディーノ」だ。

V6エンジンであることからフェラーリの名はどこにも記されていないが、このディーノによって、フェラーリは現在のスーパーカーブランドとしての地位を築き、ピニンファリーナが提案したミッドシップのエンジンレイアウトはその後のスーパーカーのスタンダードとなった。洗練された優美なフォルムから、ディーノはピニンファリーナの最高傑作ともいわれている。

(C)Vertualissimo
(C)Vertualissimo

この5モデルのように後々まで語り継がれるような美しい自動車は、今後は少なくなっていくかもしれない。

2000年代以降、ドイツ勢をはじめとする世界の自動車メーカーは、社内に大規模なデザインチームを置き、市場のニーズを綿密にリサーチしてデザインを行い、同一生産ラインで複数のモデルを世界規模で展開するプラットフォーム戦略を積極的に導入し始めた。自動車メーカーの生産システムの変化は、少数生産を得意としてきたカロッツェリアの仕事が減少することを意味する。もはや、昔ほど自動車に「美しさ」は求められなくなったとの声も聞かれる。

しかし、生産効率はよくなくても、カロッツェリアの存在意義はまだあるはずだ。チシタリア202クーペとマセラティ・クアトロポルテの間には、じつに半世紀以上もの時間が流れているが、どこか共通する美しさを感じないだろうか。これこそが、時代を超えて受け継がれてきたピニンファリーナの「イズム」というべきものだ。ピニンファリーナが生み出した作品たちを目にすると、やはり自動車には美しさが必要と思えてくるのである。

Text by Muneyoshi Kitani

Photo by (C)Vertualissimo(main)

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第28回 | フェラーリの最新車デザイン・性能情報をお届け

フェラーリF8トリブート──最後のV8ミッドシップなのか

ジュネーブモーターショーで初披露された『F8 Tributo(トリブート)』。フェラーリはそのクルマを、「跳ね馬の歴史上、最高峰の2シーター・ベルリネッタ」と称した。ベルリネッタは、イタリア語で2ドアの高性能クーペを意味する。その名には、「オリジナルモデルの妥協なきエンジン・レイアウトとパワーへのオマージュ」を込めたという。オリジナルモデルとは、ミッドリヤエンジン・スポーツカーの『488GTB』のことだ。『F8トリブート』は、『488GTB』をベースにした事実上の後継モデルとなる。

『488GTB』の後継モデルとしてデビュー。最新のV8フェラーリは空力性能がすごい

『F8トリブート』のデザインは、『488GTB』も手がけたフェラーリ・スタイリング・センターによるものだ。後継モデルであり、ベースも同じなだけに、シルエットには共通項が多い。フェラリスタでなければ、一見して違いを見分けられないだろう。しかし、細部を見ると、先進のエアロダイナミックを実現するために、サーキットで培われた経験が惜しみなく注ぎ込まれていることがわかる。その結果、従来比でエアロダイナミック効率が10%も向上した。

エンジンの熱処理も、『488GTB』から進化。『488GTB』のスペシャルバージョン『488ピスタ』から受け継いだ部分が多い。たとえば、ダイナミックエアインテークは、ボディ側面後部からリアスポイラーの両側に設置場所を移した。また、後傾マウントのフロントラジエーターによって、熱せられた空気がフラットなアンダートレーによって導かれるため、ホイールアーチ内でエアフローの熱相互作用が最小限に抑えられる。これによって冷却風のフロー管理が改善し、エアの温度を15度低下させている。

フロントにも『488ピスタ』で初めて導入された「Sダクト」を採用。デザインは再設計で、ダウンフォース全体における「Sダクト」の貢献度が15%まで向上した。また、フラットタイプの新型LEDヘッドランプを採用したことで、よりシャープさが増した。これは後述するブレーキの進化にもつながっている。

リヤでは、新デザインのレキサン(ポリカーボネイト)製のリヤスクリーンが印象的だ。透明で、エンジンルームを透かして見ることができる。これは、フェラーリのもっとも有名なV8モデルである『F40』の特徴的なデザイン要素を現代的にアレンジしたもの。細長い羽根板を一定の間隔を空けながら連続的に並べたルーバー形状は、リヤで発生するダウンフォースの増加に加えて、エンジンルーム内の熱気排出を促すという。

『F40』、そして『308 GTB』。歴代のV8モデルをオマージュした『F8トリブート』

伝説のV8モデルを取り入れたデザインは、『F40』由来だけではない。リヤスポイラーの意匠は、『F8トリブート』の始祖ともいえる1975年の『308 GTB』をはじめ、初期の8気筒ベルリネッタのシンボルのひとつを復活させた。具体的には、テールライトの一部を包むことで視覚的に車輌の重心位置を下げ、ツイン・ライトクラスター(片側2灯式ライト)とボディカラー同色のテールパネルというクラシックな構成を蘇らせている。

インテリアは、ミッドシップベルリネッタの伝統を基本的に踏襲した。それはつまり、ドライバー重視のコックピットデザインということだ。ただし、ダッシュボード、ドアパネル、トランスミッショントンネルなど、個々の要素はすべて再設計されている。

コックピット周りは、最新のフェラーリそのもの。新世代HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)に加え、新デザインのステアリングホイールやスイッチ類、円形のエアコン吹き出し口、新型7インチのタッチスクリーンディスプレイなどが採用されている。ちなみに、ステアリングホイールは従来よりも小径化。グリップ感覚が強化されたことで車輌の挙動がより明確につかめて、細かなステアリング操作に反応するようになった。

『F8トリブート』は歴代のV8ミッドシップのなかでもっとも強力なエンジンを搭載

心臓部は、排気量3.9LのV型8気筒ガソリンツインターボエンジン。最高出力は720ps/8000rpm、最大トルクは770Nm/3250rpmで、『488 GTB』に対してパワーが50psアップ、トルクは1kgm強化された。フェラーリが通常のオンロードモデルに搭載してきたパワーユニットのなかでは、もっともパワフルなV8であり、ターボエンジンのみならず、あらゆるエンジンに対してのベンチマークを打ち立てている。

さらに、『F8トリブート』は『488GTB』から40kgの軽量化を実現。当然、爆発的な加速力もより増している。ターボラグをまったく感じさせることなく720hpの出力を発揮し、0-100km/hまでは2.9秒、0-200km/hまでは7.8秒で加速。最高速度は340km/hだ。当然、刺激的なエグゾーストサウンドを堪能できることはいうまでもないだろう。

これらの跳ね馬のパワーを受け止め、扱いやすい駿馬にしてくれるのが、先進のビークルダイナミクスソリューションである。最新バージョンのサイドスリップ・アングル・コントロール・システムを搭載し、マネッティーノ(運転モードセレクト)の「RACE」ポジションで最新バージョンのフェラーリ・ダイナミック・エンハンサー(FDE+)を作動させる。これは、これまでにない初の試みだ。これらのテクノロジーにより、多くのドライバーが限界域でのパフォーマンスを簡単に引き出し、コントロールできるようになった。現行レンジ・モデルでもトップレベルのパフォーマンスと抜群のコントロール性能を実現している。

また、コンパクトなフラットタイプの新型LEDヘッドランプを採用したことで、ブレーキ冷却用の新型インテークをバンパー外側のインテークと一体化することに成功。それにより、ホイールアーチ全体の気流が改善され、高速化した車体の減速をブレーキシステムのサイズを拡大せずにスムーズに行うことができるようになった。

『F8トリブート』は、次世代のV8ミッドシップモデルへのワンポイントリリーフ?

フェラーリのV8ミッドシップは、これまで『308』『308QV』『208』『328』『348』『348G』『F355』『360モデナ』『F430』『458イタリア』『488GTB』、そして『F8トリブート』へと進化してきた。ただ、厳密にいえば、『F8トリブート』は『488GTB』の延長線上にある。

ということは、遅からずV8ミッドシップの新世代モデルが発表されるのかもしれない。さらにいえば、V8ミッドシップというパワートレイン自体が、つぎの次元へと進化するといった戦略も考えられなくもない。

ハイブリッドにEVと、パワートレインの進化はどんな自動車メーカーにも押し寄せる。それはスポーツカーブランドも例外ではない。もし、『F8 トリブート』が伝統を受け継ぐ最終盤の一台だとしたら、それはそれで、歴史に残る名車となりそうだ。

Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) Ferrari S.p.A.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Ferrari F8 Tributo オフィシャル動画
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