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第15回 | ポルシェの最新車デザイン・性能情報をお届け

911原理主義者たちへ、ポルシェ『911R』限定モデル

全世界で911台の限定生産。これだけで、『ポルシェ 911R』がどれほど特別な1台かが伝わるのではないだろうか。1967年にデビューした初代の伝統を受け継ぎ、軽量設計と究極の動力性能による純粋なドライビングを追求した『911R』は、『911』の原点を思い出させてくれるモデルだ。

911シリーズのなかで最も軽いボディを実現

車両重量は1370kgと、『911シリーズ』のなかでは最軽量だ。ボンネットとフェンダーにはカーボンを、ルーフにはマグネシウムを採用。リアウインドウとリアサイドウインドウは軽量プラスチック製である。また、インテリアではインシューレーター(遮音材)を削減し、リアのベンチシートを排除。エアコンもオプションとするなど、レーシングカー並の軽量化が図られた。

徹底して絞られた車体に搭載される心臓部は、「公道でも使用できるレーシングカー」との呼び名も高い『911 GT3 RS』から継承された4L水平対向6気筒エンジンだ。そのポテンシャルは、最高出力500ps/8250rpm、最大トルク460Nm/6250rpmを発生させ、静止状態から3.8秒で時速100kmまで到達。最高速度は323km/hに達する。

トランスミッションは、ショートストロークが小気味良い6速マニュアル。『911シリーズ』の上位モデルでは、7速デュアルクラッチ式が主流の昨今、自らが車を操る喜びをよりダイレクトに感じることができる。

『911R』に施された数々の独自チューニング

『911R』の走りの特長は、タイトなコーナーをより速く、安定して走り抜けられることだ。『911ターボ』でも採用されている四輪操舵システム「リアアクスルステア」を『911R』向けにチューニングすることで、高速コーナリングでは後輪を前輪の向きを同じにすることで高いスタビリティを発揮。一方、低速旋回では後輪を前輪の向きと反対にすることで最小回転半径を小さくした。これにより、優れた安定性を確保しながらもダイレクトな旋回特性と精密なハンドリングを実現している。また、機械式のリアデフロックにより、動力性能を路面にしっかりと伝えるトラクション性能も最大限まで引き上げられた。

『911R』独自のチューニングは、車体にオーバーステアやアンダーステアが発生して危険な状況に陥ったときに、挙動を安定させる「PSM(ポルシェ・スタビリティ・マネジメントシステム)」の制御システムにも施されている。ほかにも、スイッチを押すことでシフトダウンの際にダブルクラッチを行う機能を搭載したのも特長。よりスムーズで完璧なシフトチェンジを手助けしてくれる。

高い動力性能だけに、しっかりと止まる性能も欠かせない。『911R』では、カーボンファイバーを加工したディスクを備えた「ポルシェ・セラミックコンポジット・ブレーキ」を標準装備。高い制動性能を誇るのも特長だ。

簡素な内装に初代911を想起させるアイコン

走りに対する強いこだわりとは裏腹に、エクステリアは控えめな印象だ。初代モデルをイメージした、レッド、またはグリーンから選べるレーシングストライプは目を引くが、ボディ形状だけを見るといったってノーマルである。暴論かもしれないが、興味がない人からすると、『911カレラ』と同じクルマに見えてしまうのではないだろうか。

しかし、しっかりと観察すると、そこはやはりレースをDNAに持つ矜持が溢れている。特に、フロントノーズとリアボディは『911 GT3』譲りで、レーシーな雰囲気だ。ただし、『911R』は一般道の走行を目的としているので、「固定式リアスポイラー」は装備していない。『911カレラ』でもお馴染みの「リトラクタブル式リアスポイラー」と専用の「リアアンダーボディディフューザー」が、必要なダウンフォースを確保している。

インテリアは外観以上に簡素。運転席のシートはカーボン製のフルバケットで、シート中央部には「ペピータ」タータンデザインのファブリック素材が採用されている。これは、1960年代に誕生した初代911を想起させるものだ。

直径360mmと操作性が高いスポーツステアリングは『911R』専用。ドアオープナーにプルストラップが採用されているところも、GTモデルらしいこだわりだ。限定モデルということで、助手席脇のカーボン製トリムストリップには、シリアルナンバーを記したアルミニウム製のバッジが埋め込まれている。

軽量化された車体に自然吸気水平対向エンジン、そして、自らがクルマを操る喜びを享受できる6速マニュアル。“911原理主義者”というと言い過ぎかもしれないが、『911』が持つ根源的なドライビングプレジャーを楽しみたい人は、必ず満足できる1台だろう。

Text by Tsukasa Sasabayashi

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第51回 | ポルシェの最新車デザイン・性能情報をお届け

甦る伝説のイエローバード──ルーフCTRアニバーサリー

1990年からシリーズ全体で20年以上にわたり連載されてきた楠みちはるの『湾岸ミッドナイト』。大人のカーガイなら、主人公が駆る「悪魔のZ」の永遠のライバルとして登場する漆黒の930型ポルシェ『911ターボ』、通称「ブラックバード」を覚えていることだろう。じつは、この最高出力700psのモンスターマシンと似たスペックをもつカスタムモデルが実在する。ルーフ・オートモビルによる930型ポルシェ『911』をベースにしたコンプリートカー、「イエローバード」こと初代『CTR』だ。3月のジュネーブモーターショーでは、初代の誕生30周年を記念したアニバーサリーモデルが発表された。

ポルシェのようでポルシェではない。340km/hを記録した伝説の「イエローバード」

ポルシェのようだが、じつはポルシェではない。ポルシェのボディシェルを使いつつも、まったくのオリジナルのハイパフォーマンスカーを製造する世界的な自動車ブランド。それがドイツ南部のプファッフェンホーフェンに本拠を置くRUF Automobile(ルーフ・オートモビル)だ。もともとポルシェ車のチューナーだったが、1980年代から独自のコンプリートカーを生産・販売し、ドイツの自動車工業会にも属している。小規模ではあるが、卓越した技術力によってユーザーの信頼を集めるれっきとした自動車メーカーなのだ。

ルーフの名は、1987年に発表された初代『CTR“イエローバード”』によって世界中のスポーツカーファンに認知された。930型『911カレラ』をベースに、排気量を3.4Lへと拡大。チューンナップされたインタークーラー付きのツインターボエンジンは最高出力469ps、最大トルク553Nmのパワーを発生する。アメリカの老舗自動車雑誌『ロード&トラック』がフォルクスワーゲンのテストコースにスーパーカーを集めて行った走行テストでは、ランボルギーニやフェラーリを抑えて当時の市販車最速となる約340km/hを記録した。これにより、ルーフと『CTR』の名を世界に知らしめたのである。ちなみに、「イエローバード」の異名は『ロード&トラック』が誌面で使ったキャッチに由来する。

販売台数はわずか30台。バブル景気だった日本には10台近くが、あるいはそれ以上の台数が上陸したといわれる。この「イエローバード」をルーフの技術力によって現代に甦らせたモデルが、ジュネーブで発表された『CTR Anniversary(アニバーサリー)』だ。

『CTRアニバーサリー』は最高出力710ps、最高速度360km/hのモンスターマシン

『CTRアニバーサリー』は、2017年のジュネーブモーターショーで発表されたプロトタイプ、『CTR 2017』の市販バージョンとなる。前述のとおり、初代『CTR』は930型『911』をベースとしたが、『CTRアニバーサリー』はポルシェのボディシェルを使用していない。モノコックシャシーやボディはルーフが独自に開発したもの。つまり、一見すると古いポルシェのようだが、このクルマはベースが存在しないまったくのオリジナルなのだ。

モノコックとボディにはカーボンファイバーを採用し、それによって総重量1200kgという軽さを実現。ルックスは初代『CTR』のイメージをそのまま踏襲しているが、『CTRアニバーサリー』専用のエクステリアとして、リアに大型のウィングを装着する。

思わず唸らされたのがエンジンルームだ。『911』といえば、古いポルシェファンなら空冷エンジンの印象が強いと思うが、『CTRアニバーサリー』は往時の空冷エンジンを彷彿とさせるクラシカルなデザインをあえて採用した。しかし、そこに搭載されるのは、ツインターボを装着した排気量3.6Lの水平対向6気筒エンジン。最高出力710ps、最大トルク880Nmのパワーを発揮し、最高速度は360km/hに達するモンスターぶりである。

甦った「イエローバード」は全台ソールドアウト。NAエンジンの現行型は販売継続

残念ながら、『CTRアニバーサリー』はすでに生産予定の30台が全台売約済み。プロトタイプの『CTR 2017』が発表された時点でソールドアウトしたとの一部報道もある。

ただし、ルーフには今回の『CTRアニバーサリー』とカーボンシャシーやボディを含めた多くの仕様が共通する『CTR SCR』という現行モデルがある。搭載するのは710psのツインターボではなく自然吸気エンジンだが、現在も販売を継続中だ。ポルシェのようでポルシェではないコンプリートカーをお望みなら、こちらを選択する方法もあるだろう。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) RUF Automobile GmbH
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
メイキング・オブ RUF CTR 2017
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