現在も1億円以上で売買される初期型LP400
ミッドシップカーの元祖といえるランボルギーニ「ミウラ」の後継モデルとしてカウンタックが発表されたのは、1971年のジュネーブモーターショーでのことだった。モノコックボディにエンジンを横置きしていたミウラに対し、カウンタックはスペースフレーム構造を採用、V12エンジンは縦置きに見直された。このシャシーに組み合わされるボディは、ベルトーネに所属していたマルチェロ・ガンディーニが手がけたもの。いまもランボルギーニの特徴となっている跳ね上げ式のドアが、異様とも映るボディに華を添えた。
この「LP500」はまだプロトタイプで、オーバーヒートや剛性不足をはじめとした数々の問題、ランボルギーニの経営危機もあり、その後の開発は難航した。量産モデルの「LP400」が正式発表されたのは、3年後の1974年。「サーキットの狼」の連載が始まる前年だった。
LP400は、全長4140mm×全幅1890mm×全高1070という低く幅広いプロポーションを持ち、カタログ上の車重はたったの1065kg。ここに375HPを発生する3929ccのV12エンジンが搭載されていたのだから想像を絶する。実際の車重は発表値よりはるかに重かったといわれるが、それでも暴力的なパフォーマンスを持っていたことには変わりはない。LP400の生産台数はわずか150台で、その希少性から、現在は愛好家の間で億単位の価格で取引されている。下の写真は、2014年に英オークション会社のボナムズによって約1億2000万円で売却されたLP400だ。
テスタロッサに勝つために改良された5000QV
カウンタックは1990年の生産終了までの間に、何度かの改良を受けている。1978年には「LP400S」にアップデート。カナダの石油王、ウォルター・ウルフ氏のオーダーで作られた「ウルフ・カウンタック」と呼ばれる特注仕様に準じたモディファイが施され、ワイドフェンダーやエアロパーツが装着された。
1982年には排気量を4754ccに拡大した「LP500S」となり、1984年にライバルのフェラーリから「テスタロッサ」がデビューすると、455HPを発生する5167ccエンジン、ホイールベースを2500mmに拡大した「5000QV(クアトロバルボーレ)」へとアップデートされた(メイン写真と下の写真)。
度重なる排気量拡大やワイドボディ化などによって車重は1490kgに達したが、一般的にもっとも「カウンタックらしい」として認知されているのは、迫力あるエアロパーツに身を包んだこの世代のモデルだろう。
単なるクルマではない“特別なスーパーカー”
カウンタック最後のモデルとなったのは、ランボルギーニ創立25周年を記念して作られた1987年の「25thアニバーサリー」である。
フロントバンパーが一新され、ルーバーつきのサイドスポイラーを装着、さらにエンジンフード周りの形状も変更されるなど、25thアニバーサリーのエクステリアは従来のカウンタックと雰囲気が大きく変わった。パワーシートやパワーウインドウが装備され、車重は1680kgへとさらに増加したが、快適性は大幅に向上。1989年公開の『キャノンボール3 新しき挑戦者たち』のオープニングに登場した赤のカウンタックは、このモデルだった。
25thアニバーサリーのデザインを手がけたのは、当時ランボルギーニに在籍し、のちにパガーニ・アウトモビリを設立したオラチオ・パガーニである。25thアニバーサリーは、657台とカウンタック史上もっとも多くの台数が生産されたのち、1990年に後継モデルのランボルギーニ「ディアブロ」に“キング・オブ・スーパーカー”の座を譲り渡した。
なぜカウンタックはこれほど長きにわたって生産され、伝説のスーパーカーとなったのか。その裏側には、幾度となく訪れたランボルギーニの経営難がある。
とくに、1973年の第4次中東戦争で引き起こされた石油ショックは、スーパーカーメーカーにとって大きな一撃となり、販売台数が減少、生産モデルの合理化を迫られた。1978年には倒産に追い込まれ、イタリア政府の管理下に置かれるなど、ランボルギーニの命運も尽きたと考えられていた。しかし、そのたびに救い主が現れ、復活を遂げてきたのである。
その不死鳥のようなしぶとさは、何度もレース中に大破しながら、そのたびに愛車カウンタックとともに甦り、「サーキットの狼」の主人公・風吹裕矢を驚かせたハマの黒ヒョウにも通じる。
カウンタックが長く作られてきたのは、こうした環境によるところが大きい。1990年の生産終了は、1987年にランボルギーニの経営権がクライスラーへと移ったためと考えられるが、ランボルギーニ社内では当時、さらなる改良版の「L150」のプロトタイプが製作されていたという。カウンタックが現在も愛好家の間で高い人気を誇っているのは、時代に翻弄されながらも、常に最高峰であり続けたからでもあるだろう。カウンタックは単なるクルマではなく、それ以上の何かを持った特別な存在なのである。
Text by Muneyoshi Kitani