中核セダン「Eクラス」の前身となったW124
「W124」とは、メルセデス・ベンツで製造されていた当時のコードネームで、ミディアムクラスの4ドアセダンにあたる。同系列には、5ドアステーションワゴンの「S124」(下の写真)、2ドアクーペの「C124」、6ドアリムジンの「A124」もあり、W124はのちに「Eクラス」へと名称を変え、現在までメルセデス・ベンツの中核セダンとしてラインナップされている。
デビューから販売終了までの間には、4度のマイナーチェンジが繰り返された。1989年までの前期型で目につくのは、過剰な装飾を加えず、「質実剛健」という言葉がピッタリなシンプルな内外装。その後、1990年に登場した中期型ではドアミラーがボディと同色に変更され、インテリアの端々に木目がより多く取り入れられるようになった。
1993年には中期型のデザインを踏襲しながら、エンジンをSOHCからDOHCに変更。エアバッグが搭載され、その後、最終形となる後期型ではバンパーのカラーリングやフロントライトのデザイン、ウインカーの色などエクステリア面での変更が目立った。それまでの「ミディアムクラス」から「Eクラス」へと名称を変更したのもこのときだ。
「最善か無か」を体現するボディの剛性感
「最善か無か」とは、創業者であるカール・フリードリヒ・ベンツの言葉である。妥協を許さないモノ造りにこだわるブランドにおいても、W124をその「最終形」と称する声も少なくない。
デビューから30年が経過した今でも、人気は健在である。思いを馳せるユーザーはいまだに多く、W124からW124へ乗り継ぐ人たちも存在する。実際、中古車相場を見ると、年式がより古いモデルであっても、比較的高値で取り引きされる場合があるのだ。
魅力のひとつに挙げられるのが、ボディの剛性感。車に包まれ、守られるような感覚というのは、W124ファンの間でよく語られる表現だ。屈強さや頑丈さという言葉もよく見られるが、現存する個体を自らの手で力を注いでメンテナンスし、大切に取り扱う人たちも多い。インターネット上では、W124を取り扱った書籍や雑誌にプレミアが付いている事例が多数あり、長きに渡り愛されているという事実を体現している。
直列からV型への変わり目に生まれたW124
ドイツ車らしさや、メルセデス本来の乗り味というのも、W124ファンの間でよく使われる言葉だ。先述したボディの剛性感が寄与しているといえるが、背景には、本国ドイツでW124がタクシーに使われていたということがある。包み込む感覚をもたらすほどの強固さは、特に高速走行時の安定性から味わえる。
また、同じドイツ発のブランドで、ライバルのBMWが直列エンジンにこだわるのとは対照的に、2000年代に向かうなかでV型エンジンへの転換を図ったメルセデス・ベンツ。その変わり目にあったW124の魅力を、エンジンに求める声もある。2.4L以下は直列4気筒、2.6L以上には直列6気筒、4L以上がV型8気筒となるが、そのなかでも直列6気筒エンジンを搭載したモデルの人気が高い。
車とは人それぞれの個性を表すものでもある。自分がなぜ目の前の1台を選んだのか、W124は不思議と内に潜むこだわりを誰かに伝えたくなるモデルだ。デビューから30年。長きにわたり愛されてきたのはもちろん、この先もきっとその存在感は語り継がれていくのだろう。
Text by Syuhei Kaneko