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この作品 「東レついろぐつめ(冬児受け)」 は「春冬」「東京レイヴンズ」等のタグがつけられた作品です。

※原作三巻まで読了・アニメ未視聴になります  ■ モブ冬とか冬春冬とかのツイッタ...

てい

東レついろぐつめ(冬児受け)

てい

2013年12月9日 23:46
※原作三巻まで読了・アニメ未視聴になります  ■ モブ冬とか冬春冬とかのツイッター短文詰めです。原作読了したらもうちょっとちゃんとしたやつ書きたいです。

【ウリしてた過去がある冬児の話】

 久しく感じていなかった視線にぞくりと肌が粟立つ。
 不審に思われない程度に気配を探れば、冬児の少し後ろを歩いていた男の視線だった。
 自分の容姿が整っていることは自覚していたし、異性から騒がれることにも慣れていた――同性の、年上の男から舐め回すような視線を向けられることにも。
 思わずため息を吐いて、軽く宙を睨む。
 田舎に引っ込んでいた頃はここまで無遠慮に見られることはなかった。
 田舎は都会以上に他人に変な興味関心を抱く人間が多かったが、性的な目であからさまに見られたことはなかったように思う。
 あるいは見られていてもそれに気づかなかっただけか。
 隣にいたのは春虎で、北斗で、他人を気にする必要なんてなかった。
 人混みにいても自分の異質さを自覚することもなかった。
 ヘアバンドを軽く下げ、さてどうしたものかと悩む。
 以前ならば足を止めて振り返り、男に笑みひとつくらいくれてやった。そのあと相手がどう出るかで、その日の宿が決まった。
 制服のポケットに入れた携帯電話に触れる――日常への帰り道はここにある。
 平和とスリルのどちらに転ぶか、この指先ひとつで決まるのだ。


【春虎と冬児】

「……しくった」
「どうかしたのか?」
「ゴム切らした」
「ゴム……? ヘアゴムか?」
「いや……ここだとコンビニよりそこの角の薬局の方が近いか。たしか自販機もあったな」
「……ヘアゴムは自販機じゃないだ……あ」
「春虎にしちゃ察しがいいな」
「ゴ、ゴムって冬児お前!?」


【春虎と冬児】

 本格的な酒盛りをやるには、常からちょこちょこと酒を買い込んでおくのがコツだ。一気に買うと怪しまれるが、一回につき2、3本くらいならそれほど不審に思われることもない。
 アルコールによる酩酊感を味わいたくて、悪知恵を働かせては春虎と冬児は寮の冷蔵庫に酒を溜め込んでいく。
 二人きりの酒盛りともいえない飲み会が始まって二時間。毎日一緒にいると、改めて話すことも特にこれといってない。二人は静かに酒を煽り続けた。
 酎ハイやビールにも飽きてきた頃、二人はウィスキーに手を出していた。割るのは専ら春虎の仕事で、冬児はそれを飲むだけだ。
 グラスが空になったので新しい酒を春虎に促す。
「ん」
「なんだ、コーラじゃねえか」
 春虎がコップに注いで渡してきたのは一見するとただのコーラだ。
 床に散らばる缶酎ハイやビールの空き缶と比べると、差し出された飲み物は随分とガキ臭く感じる。
 春虎に飲み物を頼んだ手前、冬児は大人しくコップを受け取り一口飲んだ。
 コーラとは違う味。冬児は小さく首を傾げる。
「コークハイ。ハイボールにするより冬児ならこっちの方が好きだろ?」
 そう言って春虎は自分のコップにウイスキーと炭酸水を混ぜた。しかも濃いめ。
 それを平然と飲むのだから、こういう悪い遊びを教えた身としては何とも言えない気持ちになった。


【春虎と冬児】

 毎日食堂で食事を摂っていれば、自然とどのグループがどの席に座るか固定されてくる。冬児たちもいつも通り、四人掛けの席に三人で座っていた。冬児が一人で座り、その向かいに春虎、夏目が座る形である。
 量に差こそあれ、膳の内容は同じだ。冬児が箸を持つと、春虎と夏目は箸を持つ前に「いただきます」と声を揃えた。ああ、そうか、食事の挨拶。茶碗をもちながら「いただきます」と言う。
 黙々と食事を続けていると、ふと視線を感じた。
「冬児ってさ」
「ん?」
「箸の使い方、なんて言うか、えーと、独特だよな?」
 下手だよな、と言いたいところを、この悪友はない頭を振り絞ってオブラートに包んだらしい。
 冬児の箸の持ち方は握り箸でこそないものの、正しい持ち方とは言いがたい。
 向かいの席に座る春虎や夏目などはお手本のような持ち方だ。
 二人の立ち振舞いを見ていると、畏まったマナーはともかくとして、両親の教育がしっかりしていたのだろうなと思わされる瞬間がままある。
「生憎誰も箸の持ち方なんて教えてくれなかったからな。食えりゃ問題ないだろ」


冬児と春虎】

「お兄さんがセックスくらい手取り足取り教えてやろうか。いざ惚れた女相手にするとき困るだろ」
「誰も頼んでねえよ!つか、ファーストキスも奪われて、童貞まで奪われるとか堪ったもんじゃないからな!?」
「ファーストキスはともかくとして、童貞まで大事に取っとく必要ないだろ」
「いや……ほら、初めては好きなやつとっていうか……」
「何夢見る少女みたいなこと言ってんだ、春虎。起きろ」
「ここだけ真顔になるなよ!」
「あと突っ込むとな、誰もお前の童貞喰うなんて言ってないんだが……ほう、春虎君は俺にぶちこみたいと」
「いやそうじゃなくて!?」


【春虎と冬児】

 突風が二人の体を打った。
 わぷ、と間抜けな声を出して目を瞑り髪を押さえた春虎に対して、冬児はこんなときでも涼しい顔をしていた。
 土埃が目に入る。
 風と共に巻き上げられた周囲のにおいが、一気に押し寄せてきた。人のにおい、飲食店のにおい、排気ガス――春虎はぐるりと胃が捻れる気がした。
「すっげえ風」
「ビル風ってやつだな。初体験か?」
 冬児は平然とした顔だが、髪の方は少し乱れていた。春虎が自分の髪を整えているのを見て、彼も指先で軽く髪を摘まんで直していく。
「そりゃ向こうにはこんなビル街なかったよ」
 田舎なりの中心街というものはあったものの、日本の首都の高層ビル街に比べれば背の低さは歴然だった。何より風が吹いてもこんなにおいにはならない。もう少しにおいの濃度は薄かった。
 春虎が顰め面になるなか、冬児は彼にしては珍しく唇を綻ばせていた。目を細め、遠くを見つめているのは、間違っても目に埃が入ったからではないだろう。
 そんな眼差しをする人間は、春虎の周りには冬児しかいなかった。郷愁を抱ける場所を、今いるこの場以外に持っている者だけの眼差し――冬児が春虎と出会ったあの田舎で、時たま浮かべていたものだ。
 冬児の故郷はこの東京だ。彼は一体これ以上どこに帰ろうというのか。
 風が運んできたにおいを嗅いだとき以上のむかつきが春虎の胸を湿らせていく。
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