もう一つ、どういう人がスターになるか考えると、もちろん一定以上の能力がないといけませんが、かなり偶然が作用するといわれています。

 例えばピアノのコンテストで6人弾くと、ほとんど5番目の人が優勝しているとの統計があります。これは料理でいうとオードブルでもないしデザートでもない。メーンディッシュということですね。つまり一定以上の能力者の中で誰がスターになるかは偶然も作用する。すると自分も可能性があると思えるわけです。

――ご自身も美術のコレクターなのでしょうか。

 美術は水彩画を少しだけ、コレクターというほどではありませんが、亡くなられた佐原和行さんの作品を数点もっています。私が大臣のときも、佐原さんの絵を何枚か大臣室にかけていました。経済財政担当大臣のときも、金融担当大臣のときも、郵政民営化担当大臣のときも、総務大臣のときも、ずっと掛けていましたよ。

 一瞬ベイカント(空っぽ)にしてくれるんですね。物凄いプレッシャーや考えないといけないこととかで頭がぐるぐるしているときに、ふっとベイカントになれる。実はバケーション(休暇)ってベイカントから来ているんですね。心と体を空っぽにする。それによって原点を見つめ直すみたいなところがあるわけです。

日本の1人当たり所得は今や世界20位台
思っているほど経済的に豊かじゃない

――経済学者でアートに造詣の深い方は珍しい気もします。

 私は実はもともと、ミュージシャンになりたかったんですよ(笑)。大学の時にマンドリンクラブで指揮者をやっていて、自分で編曲したり、プロの打楽器奏者に打楽器を習ったりしていました。音楽で飯が食っていけたらいいなと心から思いましたが、やっぱり自分の才能じゃ音楽では食っていけないと。そう思って、同じカタカナ商売だけどやむを得ずエコノミストになりました。プロでやっている人はすごいと思いますよ。すごく生活が不安定な中でも、美を追求しているわけですから。

 私はよく冗談半分、本気半分で言うんですが、経済学者なんて大したことはないと。なぜなら、経済学者はいなくても経済はありますよね。でもアートは違う。アーティストがいないとアートはないのです。アーティストというのは無から感動を創り出す、偉大な仕事だと思います。だからこそアーティストには敬意を払わないといけないと、学生たちには凄く言ってきました。

──欧米に比べて日本人は生活にアートが根付いていないとの見方もあります。それはなぜなのでしょうか。

 ひょっとしたら、実は日本人が貧しいからかもしれません。GDPの1人当たり所得は為替レートにもよりますが、今や世界で20位台ぐらい。先進国30ヵ国の中で下位グループです。それだけではないですが、思っているほど経済的に豊かじゃない、というのは一つの理由でしょう。