シリコンバレーでの起業で学んだ6つの教訓
シリコンバレーで起業してからもうすぐ2年が経ちます。事業がテイクオフしたこのタイミングを捉え、僕の起業の体験談を交え、学んだ6つのレッスンをみなさんに共有したいと思います。これを参考に、世界で戦う日本人が一人でも増えたら幸いです。
「貴様のTEDトーク風体験談に付き合ってる暇などあるものか!」という漢気溢れる方がおりましたら、本ブログ後段より以下の教訓について述べていますので、スクロールダウンしてご覧ください。
教訓1: 金を払ってでも解決したいペインなのか見極める
教訓2: レッドオーシャンの中にブルーオーシャンがある
教訓3: 人と同じやり方では同じ成長しかできない
教訓4: ほとんどの人は経済合理的に動く
教訓5: 安いだけでは顧客に届かない
教訓6: アンテナを張って街へ出る
なぜシリコンバレーで起業したのか?
6つの学びの前に、そこそこ長くなりますが、僕のシリコンバレーでの起業ストーリーにお付き合いください。
「人生を力強く歩む人」で世界を埋め尽くしたい
まず、自己紹介をさせてください。東京葛飾下町育ち、高校まで地元の公立校へ通いました。受験も人並みに頑張って、明治大学へ。バックパッカーとして世界25カ国を巡ったことをきっかけに、グローバル志向を養うことができ、TOEIC550点という壊滅的な英語力だったにも関わらず、何かの手違いで三菱商事に入社しました。
25歳のとき、仕事で派遣された南米コロンビア共和国で、人生の転機となるような13歳の少年「諒君」との出会いがありました。彼は、派遣先のコロンビアの所長の息子さんで、偶然にも名前が漢字まで一緒ということで、所長ご一家から、僕は「大きい諒君」として本当の家族の一員かのようにご自宅に招いていただくようになりました。諒君は僕にとって弟のような存在で、一緒に犬の散歩をしたり、学校のことを話すような仲になりました。
ある日、彼と将来の夢について話した時のことです。駐在員の家族として海外に出ると、日本人会の懇親の場を通して子供が大人と接する機会が当たり前にあることもあり、諒君の将来の夢は、研ぎ澄まされる程の具体性はもちろんありませんでしたが「〇〇製鉄の方の話や、××自動車の方の話などを聞いていて、僕はこんな人になりたいと思っていて、普段はこんなことを学ぶことを大事にしています。大学では、、、」と、13歳とは疑うほどしっかりした話がスラスラ出てきました。
親と学校くらいしか大人を知らずに育ち、ろくに勉強もせず惰性で中高生時代を過ごした自分が情けなくなる程の衝撃でした。「ロールモデルが存在し、自分は何者で、何に情熱があって、将来何になりたくて、したがって今は何をすべきか分かっている人間は強い」というレッスンをここで得ました。
情熱の在りどころを見つけ、世の中を変えていく人を一人でも増やしたい。その想いに駆り立てられるように、日本に帰国後、本業の傍、中高生の心に火をつけるような職業人講話や社会人インタビューWebsiteを提供する、キャリア教育NPO法人のアスデッサンを創業しました。僕が代表を勤めていた7年間で3万人の中高生にキャリア教育コンテンツを提供するに至りました。
リソースの集積とスピルオーバーに惚れた
三十路に突入した頃、社費派遣生としてMBA留学をさせてもらう機会を得ました。その中で、シリコンバレーのスタートアップエコシステムを学ぶ3日間の企業訪問トリップがありました。
そこで、Love what you do, Do what you loveの精神でめちゃくちゃいい顔して働いている起業家など、素晴らしい人々に出会い、撃ち抜かれました。帰りの飛行機で、取り憑かれたように「そこには希望しかなかった」という旨のメモを書きなぐったのを今でも鮮明に覚えています。
その後、派遣を後押ししてくれた上司たちへの裏切り、会社への授業料返納(マセラティ1台分相当也)など、引き止め材料はいくつもありましたが、ここが人生の勝負時との直感を得て、人々の「Find Your Passion, Change the World」を支えるような事業を自ら創ることを心に誓いました。
その誓いが本物であるかを確かめるため、MBA卒業前に再びシリコンバレーにやってきました。今度は、住人目線を得るため、1週間ほど起業家・エンジニアのタコ部屋的なシェアハウスに滞在し、住人と昼夜問わず語り合いました。イベントにも暇さえあれば足を運びました。
そこから見えてきたのは、シリコンバレーにはあらゆるリソース(人材・資金・ナレッジ)が世界から集まっており、さらには溢れ出しているということ。ピッチイベントではスマートな経験者からの鋭い質問が飛び、カフェでは隣の席を見れば起業家が投資家を口説く姿があるなど日常茶飯事。ここでなら、日本に帰るより面白いことが起こせるのではないか。来る日も来る日も晴れという土地柄が、そんな僕の期待(幻影?)を増強し、この地で起業する覚悟をしました。
ゼロ・トゥ・ワン
ビザの都合で、断腸の思いで家族には日本に疎開してもらい、シリコンバレーには、単身裸一貫で降り立ちました。例の起業家のタコ部屋からの新生活開始でした。このタコ部屋、サンフランシスコで最凶の治安を誇る6th Streetに位置することもあり、毎晩のように建物の外から、ドラッグでハイになったホームレスの唸り声や奇声が響き渡り、やもすると赤と青のパトカーのライトが、ヒビだらけの窓ガラスを突き抜けて部屋中を照らすという日々でした。
物価が東京の2倍くらいするサンフランシスコで、三菱商事へのMBA授業料返納で一気に極貧状態に。極限まで生活費を削るために、自炊前提で朝食1.5ドル(160円)、昼食80セント(80円)、夕食3ドル(330円)と予算を定めました。自炊はすぐに時間がかかり面倒であることがわかったので、大きな鍋で濃度3倍の味噌汁を一度に50食くらい作り、ジップロックに小分けで冷凍し、食べる際は水で薄めて解凍するなど「何でもジップロック冷凍作戦」で、健康管理とコスパの両方を達成する生活の知恵も編み出しました。三菱商事の生活水準から転落した、どん底からのスタートでした。こんな地獄生活もあって、サンフランシスコから離れたあとしばらく、サンフランシスコに行くたびに妻には「今日はHell(地獄)に行ってきたよ笑」とLINEしていました。
Tinderをする様に共同創業者を探す時代
最初の大仕事は共同創業者探しでした。ビジネスサイドの自分には、技術サイドの共同創業者が必要でした。ミートアップイベントに片っ端から出ましたが、ここはスタートアップ激戦区、シリコンバレー。「共同創業者探し」とでもタイトルのついたイベントに出ようものなら、会場の8割は他人のアイデアになんか乗るものかというCEOたち。
共同創業者探しは簡単には行きませんでした。その際に見つけたのがSharprでした。Tinderのようにカードを左右にスワイプしながらマッチしそうなビジネスパートナーを探すという具合です。ここで何人かの候補と知り合い、良い会話ができたが、決まらず。最終的には、BrightCrowdというスタートアップの仲間探しの掲示板的なサイトを経由して、Pradeepというインド出身のエンジニアと出会いました。
彼はインド国内のトップ校を卒業後、NASAのリサーチャーとして渡米、Intelを経て、View Incという、Vision Fundから2018年に1000億円を調達したIoTユニコーンの1号エンジニアとして参画した、腕っ節の男です。
Speed datingとは、よくシリコンバレーで言われます。共同創業者にせよ、投資家にせよ、とにかく決めるペースが早い。彼とは同世代でハッピーアワー好きという、どうでもいい面で意気投合して1ヶ月もしないうちに共同創業者にならないかという話に至りました。
しかし、株の割り方をどうするかで大喧嘩したことをきっかけに、Pradeepから「お前は俺のことをよく知らないし、俺はお前のことをよく知らない。そんなやつと経済合理性だけの議論だけで、俺の人生をお前のビジョンとやらにBetできるものか」と言い渡されてしまいました。
せっかく有力な共同創業者&CTO候補に出会えたというのに、また振り出しか。。。頭を抱えていた頃に、Teach For Japan創業者であり戦友である松田悠介が言いました。「共同創業を行うくらいのビジネスパートナー選びは、結婚相手を選ぶほど大事なこと。そんな人生を共にするようなパートナーの選びの方の一つに、肘がぶつかるくらい窮屈なエコノミークラスの飛行機に12時間乗っても全く苦にならないくらい水のような存在であるか、という考え方がある。」
ここからヒントをもらい、その晩Pradeepに、「おい、俺と二人でヨセミテ国立公園にキャンプに行こう!あ、あの、そう言う意味ではないから笑」と連れ出し、お互いの人生のゴール、仕事で大切にすること、果ては宗教観まで、あらゆる価値観について共有し、お互いを分かり合いました。
翌朝、木漏れ日が美しい森の中で握手し、あらゆる困難も乗り越えていくこと、二人で会社を設立することを合意しました。今でも我々にとってヨセミテは特別な思い入れのある場所です。
AIの時流に乗って掴んだ、最初の小さな成功
無事チームができてからは、万事順調でした。リスクとって起業するのだから、イノベーティブで、誰も生み出したことのないようなプロダクトを作ろうという考えのもと、高校生が大学受験に関してモバイルアプリで相談ができる人工知能(チャットボット)をローンチしました。AIを使ったキャッチーなサービスの反響は良く、東京で開かれたEdtechの国際会議Edvation Summit 2017のピッチ大会で最優秀賞を取ったほか、Edtechに特化したニュースメディアのEdsurgeにもAIを教育分野に持ち込んだ事例として紹介されました。
エンジェルラウンドで15万ドル(約1500万円)の資金調達にも成功しました。 僕が起業した年齢は32歳。遅くはないかもしれないが、学生時代や20代の起業家に比べて、ビハインドを取っているなぁと思ったこともありました。しかし、この時ばかりは、学生時代からの伝手や社会人になってからの関係性も効いて「君が起業するのなら投資する」と言ってくれる投資家が現れました。この中には、事業の中身を全く聞かずにチェックを切ってくれた、10年来の親友であり、起業家であり、エンジェル投資家である前田一成も含まれていました。
苦難の10ヶ月
ここまでは、創業マジックも味方してか、順風満帆の走り出しのように見えました。しかし、その後の10ヶ月が長く険しい道になろうことは、この時の僕には全く想像もつかないシナリオでした。
ピボット:兵士が戦場で受ける実弾の痛み
初の資金調達を無事に終えてからは、AIプロダクトの学校へのセールス(BtoBtoCモデル)に専念しましたが、SiriやAlexaですらまともな会話ができないこの時代、大学受験やキャリア相談といった人生相談をチャットボットがするというのは俄かに信じられ難く(実用性も乏しかった)、学校の何層にも重なる購入意思決定レイヤーを突破できずに、試用期間後に有料サービスとして利用を継続してくれる学校はどこもありませんでした。
この状況を打破すべく、直接エンドユーザーに直接アプリを届けて課金しようということで、BtoCに事業モデル変更。また、AIだと複雑な人生の意思決定の相談に耐えられないので、人間でもって対応しよう、そして労働対価は高校生が払える安価なものであるべきなので、大学生にしようということで、高校生がチャットで大学生に受験相談ができる、オンデマンドのマッチングモバイルアプリにピボットすることを決めました。
同時に、アプリ開発費とマーケティング費用が必要であったため、プレシードラウンド2として資金調達を行うことを決めました。この頃は、誰に何を相談したらいのか(相談できるのか)いいのか分からず、孤独な戦いでとにかく辛かったのですが、数千万円が集まりました。後々、このピボットと資金調達の組み合わせがいかに辛かったか、連続起業家と話したら「そんなの銃弾が腕を貫通したくらいっすね。あとでもっとデカくてやばい砲弾打ち込まれますから」と言われ、笑ったのを覚えています。でも、実弾受けるのは痛いんすよ、ほんとw
束の間の祝杯
2回にわたるプレシードラウンドを終え、アプリ開発は世界各地のエンジニア10名体制で進め、2018年夏、モバイルアプリを無事ローンチできました。幸先よく全米に放送網を持つニュース番組からの取材も入りました。
ビジネスサイドも負けじと日米国籍のインターン・プロボノ5名を迎え、連日男祭りな雰囲気でInstagramやSnapchatに広告出稿に始まり、インフルエンサーとタイアップしたYouTube動画の作成や、ステルスマーケティングに精力的に取り組むなど、絶好調そのものでした。
「ないもの」より「あるもの」を見つけよう
しかし、そう簡単にさせてはくれないのがスタートアップ。登録してから1ヶ月で20%の会員を維持できれば良い方と言われるほど厳しい継続率の戦いが強いられるモバイルアプリ事業。弊社も例外なく、その厳しい試練に晒されました。会員獲得は毎月2〜3千(話は前後しますが、最終的には1万DLを超えました)といい数字を出せたのですが、初月の月次の継続率が5%足らずと、愕然とする結果が出ました。これはリーンスタートアップ手法で、最低限の機能に絞ったから発生した不運であり、翌月には改善するはずだ、あるいはオンデマンドでマッチングするためには、高校生と大学生の絶対数が必要なので、マーケティングの活動量を増やせば解決するはずだと、開発・マーケティング双方からハードワークを重ねました。
しかし、2ヶ月、3ヶ月と経っても、一向に改善しない。課金方法を変えたり、リファラル制度を導入したり、チュートリアル画面を丁寧にしたり、あらゆる手を尽くしました。しかし、打ち手を講じれば講じるほど、なぜうまくいかないのか一層分からなくなるという迷宮入り状態に突入し、結果的には、低い継続率、低い有料課金率に、ただもがくしかできない日々が続きました。
アプリ事業の悲鳴に合わせる様に、ビザについても、災難に合いました。トランプ政権による移民政策のも厳格化の影響もあり、当時持っていたOPTビザが切れるタイミングで申請した投資家ビザ(ビザ関連の詳細は割愛させてください)が却下され、次に渡米できる目処が立たなくなるという状況に追い込まれました。(小話ですが、一度でもビザ申請が「却下」されると、ESTAが一生涯利用不可になるみたいです)
果ては、事業の遅れを取り返すため、仕事に直接関係ない交友関係を絶ち(この結果、東京で会う人はほぼゼロになりました)、娯楽の時間を削り、自分を徹底的に追い込み、米国時間に合わせて午前3時半から働きました(その分21時には寝ていましたが)。過労とストレスと興奮があいまって、夜眠れないこともあり、心臓の脈が飛んでいることを自覚するようになりました。恐ろしくなって心臓の専門医を尋ねたところ、不整脈の診断が出ました。不整脈とは、重症度には松竹梅ありますが、最悪の場合は、いつ心不全で即死してもおかしくない。そんなところに至るまで体を酷使し自分を追い詰め、心身ともに悲鳴をあげていたことに気づきました。
起業家は皆「死の谷」を超えて成功していく、とよく聞きます。僕にとって最初の死の谷(この先きっとまたもっと大きなものがあると思います)がこの瞬間だったと思います。全てを投げ捨てて逃げ出すことも選択肢としてありました。なぜこんな辛い思いをして、即死リスクまで抱えて(診断の結果、幸い心不全のリスクが低い軽症の不整脈との診断。現在も経過観察中ですが溌剌と働いています)起業生活を続けなければならないのか。僕には愛する妻と3歳・1歳の子供達がいます。彼らを置いて死ぬことなど、天地がひっくり返っても許されない。一方で、命を賭してでも成功すると誓って、全てを投げ打って始めたシリコンバレーでの起業をこんな簡単に諦めてたまるものか。なぜここまでしてでも起業しなければならないのか、本気で考えました。
金儲けのため?誰かに認めてもらいたいため?シリコンバレーのCEOというそれらしい響きに陶酔したいため?日本の現実から逃げるため?全てNoでした。一つだけYesと胸を張って言えるものがありました。それは、「人々が情熱の矛先を見つけ、最高のアウトプットを出し、その力で世の中がもっと良くなっていく世界観を遠く、遠くまで広めたい」という、僕に与えられた使命感を全うするために他なりませんでした。
背水の陣に追い込まれた武将の生存本能というものでしょうか。生を求める力が漲ってきました。これまでの自分は、持っていないものにばかり焦点をあて、それを羨み、反骨精神をドライブに事を成すタイプの人間でした。しかし、妻からタイミングを計ったかのように推薦された本を読んだり、カッコ悪い姿を見せても構わないから初対面の方から先輩から後輩まで、様々な角度からアドバイスを求めるなかで、自分しか持っていないものを選びぬいて、掛け合わせて、他の誰も出せないパフォーマンスを出すというアプローチの素晴らしさを学びました。
そんな目線で、アプリに5%「しか」いないと思っていた1ヶ月超の継続ユーザーに着目してみると、彼らの多くは数ヶ月、中には半年以上アプリ利用を継続利用しており、さらにアプリ内のあらゆる場所でアクティブに動いていることがわかったのです。また、エンゲージメントの高い大学生の会話ログをよく見てみると、非常に高いレベルで高校生に大学受験のアドバイスをしていることが見えてきました。
この「大学生は質の高い大学受験支援が可能」という発見が、このプロダクトを最終形態に進化させるきっかけとなったのでした。
テイクオフ
更に高校生と大学生の会話ログを追っていくと、次に分かったのが、高校生は「自分が何を知らないのかを知らない」ということでした。オンデマンドで分単位でQ&Aができるような体験を提供するアプリでしたが、意欲のある高校生が大学生に「質問は?」と聞かれ、「いや、質問はあまりないんですが、トップ校に入りたいからチャットしてみました」と回答する場面に多く遭遇しました。また、一度特定のメンター的な大学生を見つけると、高校生は特定の大学生と繰り返しチャットする傾向も浮かび上がりました。
顧客の「真の成功」に向き合う
結局は、巡り巡って、高校生にフィットしたサービスというのは、既存のマーケットで売られているような、ワンストップでプロの受験コンサルタントが、一から十まで何をすればいいのかを教えてくれる、数ヶ月単位の関係構築を伴うサービスであることが見えてきました。また、この手のサービスは100万円以上のものが多く、当然ながら、購入者は親です。
親を購入者として形成する大学受験コンサル市場は、現在1,300億円、年率4%の成長市場です。米国の大学受験競争は最近過熱感を帯びており、今年3月、親世代の各界の著名人50人が28億円の賄賂を大学関係者に渡し、子供を名門大学に裏口入学させるという逮捕沙汰のスキャンダルが発生するにまで至っています。
僕たちがモバイルアプリ事業で見たような、優秀な大学生を、長期間で親に雇ってもらい、いい大学に入れるというサービスが最終形態なのではないのか、という仮説に基づき、全米各地の親50人ほどにインタビューをしてみました。
すると、親の支払い意欲は高く、大学受験コンサルが必要であることは、インタビューの中でも確認できました。ランキングの高い所謂いい大学に行かせたいかと聞くと、大半がもちろんYesと答えました。一方で、親たちが本当に大事にしていたに耳を傾けて見ると、「テクニック偏重で名門大学に単に入れるより、大学受験というライフイベントを通して、自立してもらう方が大事」という声であったり、「自分の意思で選んだ大学に合格し、興味を深め、誇れる大人に育っていってほしい」という、子を持つ親としてごく当たり前で、本質的な点に真のニーズがあることを突き止めました。
飛ぶように売れ始めたWeAdmit
購入者である親、消費者である生徒の声に耳を傾け、彼らの成功を真に考え抜いた結果、WeAdmitという出世払いモデルのオンライン大学受験コンサルサービスを創り上げるに至りました。
特徴は大きく3つあります。
特徴1: 元入学審査官とアイビーリーグ大学生によるマンツーマン指導
親との対話を進める中で、アイビーリーグなどのトップ校に通うような実績があり、子供と年齢が近い大学生を受験コンサルのフィールドに持ち込むことは一様にポジティブな反応が得られました(そうした取り組みでスケールしている競合もいます)。一方で、大学生はいわゆるアマチュアであり、何十何百という高校生の大学受験のプロセスを見た経験はありません。プロも入れることで親が欲しい安心感が得られることが分かりました。結果、プロコンサルタントと大学生の混成チームを作り、マンツーマン指導を提供することとしました。
特徴2: 独自カリキュラムをオンラインで完結
一方で、単にチームをアサインするだけでは最高のパフォーマンスは出せません。親のニーズを聞きつつ、生徒の大学入学後のキャリアデザイン含めた真の成功を達成する方程式を自ら練り上げ、カリキュラム化しました。また、シリコンバレーのテクノロジースタートアップと看板を掲げる弊社のプライドにかけて、使えるコラボレーションツールを丁寧にレイアウトし、完全遠隔ながらも対面さながらのコンサルティングが受けられる環境を整えました。
特徴3: 出世払いという競合と一線を画す支払いモデル
シリコンバレーでは今、ラムダスクール(Lambda School)という、出世払い型の9ヶ月のブートキャンプ式プログラミングスクールが、ピーターティールなどから創業3年で50億円を調達し、急成長しています。受講生が相手のお手並みもわからずして高額の授業料を一括前払いで払わないといけないのがスクール事業の常です。ラムダはここに着目し「就職するまでゼロ円」モデルを導入し(就職後年収の17%を2年間支払う)、3年で受講生を15倍の1,000人に増やし、今では応募倍率25倍の超人気スクールになりました。この考えをWeAdmitに持ち込み「合格するまでゼロ円」とし、受かった大学の志望順位に応じて決まる成功報酬プライシングを導入しました。
創業以来の全てを結集したこのWeAdmitを3月にローンチ、販売開始直後から契約が次々と舞い込んできています。興味深かった瞬間は、WeAdmitの1号受講生の親が僕らのサービスを選んでくれた時、ラムダになぞらえたプラインシングを取り入れていることを伝えたところ、彼はシリコンバレーのIT企業の役員であったこともあり「ああ、ラムダか!知ってるよ。あれいいと思ってたんだよね、君たちを気に入ったよ」と即断してくれたことです。時代の流れに乗ることも大切なのだなと思い知らされました。
起業家は孤独ではない 〜常に高め合える仲間の大切さ〜
ビジネスモデルがワークすることが検証できたことを追い風に、シリコンバレーのエンジェル投資家へのピッチイベントなどに足繁く通いました。契約も売上もある。米国の投資家はトラクションを大事にするので、その点では一定の評価も得られましたが、プログラムで受講生にとってベストな大学が見つかるのか、親は出世払い契約を無視して逃げ出さないのか、契約獲得のチャネルはもっと他にいいものがあるのではないかなど、次々と手厳しい質問を浴びせられました。
CEOとして当然その手の質問には応戦するわけですが、孤軍奮闘状態でイベントに飛び込み続ける中で、実はWeAdmitはいけてないビジネスではないのかと、懐疑的な投資家達と同じ側に自分も立って批判していた自分がいました。
そんな自分に気づいたのは、サンフランシスコ在住の連続起業家である小林キヨさんと出会った時でした。レストランであれこれキヨさんと僕の事業について話していると、キヨさんから「どうしてそんなに自分のビジネスに批判的なんですか?開始からそんなに契約数取れてるなんて、すごい事ですよ。親にWeAdmitが刺さっている証拠だし、出世払いモデルもワークしている。ピッチイベントに行くのも悪くないですが、事業にもっと集中すれば全く違うペースで必ず伸びます。」といった旨の言葉をもらいました。
うしろめたさの残るクオリティかと聞かれたら、答えはNo。ならば、過度に振り返る時間などいらず、一緒にセールスをやっている仲間にも発破をかけ、もっと売ればいい。成長が売上になり、その金で人を雇い、手厚いサービスが提供できるようになり、もっと顧客が集まる。早くそのサイクルに入ってしまえばいい。
自分の中で、事業がテイクオフした瞬間でした。いや、すでにテイクオフしていた事にキヨさんに気づかせてもらえたというのが正しい表現でしょうか。
家に帰るとすぐ、「起業家は、常に前向きであることが大事です。そして、一人でそれをやってのけるのは難しい。同じ境遇にいて、高め合える仲間が必要。今度日本人創業者達が集まる引っ越しがあるので、交流がてら来ませんか?」と誘いを受けました。引っ越しで交流!?聞いたこともない交流会でしたが、学生の時に2年間ヤマト運輸で引っ越しのバイトをした経験が生きると思い、二つ返事で参加しました。
最高に楽しい引っ越しでした(笑)荷物を運びがてら聞く他の起業家の苦労話やグロースハックのコツ、これからの戦略など聞いて刺激を受けましたし、皆頑張ってるんだなーという素朴な姿から、自分ももういっちょやったるかという気合いが充填されました。
引っ越しで打ち解けた後は、キヨさんとのやりとりが早いペースで続きました。今年の年間契約目標を話せば「そんなに少ないの?その倍は余裕で行くんじゃない?」となるし、翌月以降の資金調達ことを話せば「そうなんだ、では来月ではなくいますぐ荷物をまとめて週明けに日本に出発しよう」となるし(あの、今日木曜なんですけど笑)、常軌を逸したスピードで次々と着火され、意識朦朧としながら毎日早朝から深夜までぶっ続けで働き、ベッドに倒れこむ日々が続きました。
キヨさんの元に集まる日本人起業家の中には、すでに知り合いが何人もいましたが、キヨさんのコミュニティにいざしっかり混ぜてもらうようになってからは、以前とは比べ物にならない密度で交流させてもらうようになり、彼らも起業家として忙しい中、多方面で助けてくれています。自分も役に立てることが見つかり次第、動いていて、こういう仲間は本当に素晴らしいなと実感しています。
僕がシリコンバレーで学んだ6つの教訓
さて、もうここまで読んでいたくまでに随分お付き合いいただいてしまいましたが、ここからがもう一つの本題です。これまでお伝えした2年間の起業生活の中で学んだレッスンを最後にお伝えしたいと思います。
教訓1: 金を払ってでも解決したいペインなのか見極める
チャットボットからモバイルアプリにピボットした際、大学生2000人へのアンケート、100人ほどにインタビューを行い、大学受験を経て、もっとも苦労したことや、あったら良かったサービスなどを聞いた。これらの質問の中には、自社のサービスを描写し「こんなサービスがあったらいくら払うか?」という質問も含まれていて、一応、金を払う確からしさがあるかを検証したつもりであった。
しかし、一つだけやらなかったことがある。それは、そのペインに対応する実在市場があるかの確認。つまり、苦労したことや、あったら良かったサービスが多くの大学生によって共通しているのであれば、それに対応するサービスはジャストミートでなかったとしても存在しているはずだし、売上が立っているはず(その売上の総和がいわゆる「市場規模」)。
この確認を行わずに「大学生がこういうサービスを高校生の時に欲しかったと言っている。では、そんなプロダクトを高校生に課金ベースでローンチしたらいい」と直行してしまったところが大きな落とし穴であったと思う。
ちなみにその際に、参照市場として何を選んでいたかというと、先に述べた大学受験コンサル市場1300億円でした。少し冷静に考えてみれば、領域としては近いものの、ネイチャーがまるで違うことは明白です。大学コンサル市場は、プロ講師が、長期間かけて、順序立てて大学受験までのプロセスを支援する、40万円超えのサービスのため、購入者は親。僕がモバイルアプリで売ろうとしていたのは、アマ講師(大学生)が、1分単位で、細切れの大学受験関連の質問を答える、少額サービスで、購入者は高校生。
スタート地点こそ一緒だったかもしれませんが、ことごとく裏をついたプロダクトでした。当たればそれで良かったのかもしれませんが、実需から著しく遠ざかったプロダクトになっていました。高校生自身が購入者であるからには、高校生が既に買っていて顕在している市場がまずあるかを確かめ、そこと比較して自分のモバイルアプリにユーザーが流入するかを考える発想が必要だったと今では思っています。
教訓2: レッドオーシャンの中にブルーオーシャンがある
創業当初、僕の頭の中は、あっと驚く破壊的なプロダクトを作ることで、市場創造的なブルーオーシャンを取りに行こうぜモードになっていたと思います。そりゃ、誰だってレッドオーシャンは避けてブルーオーシャンを狙いにいきたい。当たり前です。
問題は「どこにブルーオーシャンがあるのか」です。得てして、ブルーオーシャンに見えるものは、飛び込んでみるとオーシャンすらない干上がったオアシスというオチが多いのだと思います。なぜなら、誰もやってないことは、誰にも必要とされていないことが往々にあるからです。もしあからさまなブルーオーシャンのようなアービトラージがあれば、誰かが既に見つけてレッドオーシャン化しているのではないでしょうか。(市場創造を狙うのが愚策と言っているわけではありません。大抵のファーストタイムアントレプレナーには事業を打ち立てるまでに力尽きてしまうリスクが高いという意味でこれを述べています)
WeAdmitが生まれた経緯は、ブルーオーシャンは実はレッドオーシャンの中にあるのではないかという仮説に基づくものです。実需が存在しているということは、顕在化しきったニーズに沿ったプロダクトを投じることで、絶対顧客がつくことを意味します。顧客がつけば、ニーズがもっとわかり、プロダクトに磨きがかかり、結果が出て、信頼性が高まります。レッドオーシャンの中でしっかり差別化さえすれば、実はまだ埋められていないブルーオーシャンに出会えるのだと思っています。
教訓3: 人と同じやり方では同じ成長しかできない
とは言っても、傍から見たら「あなたがいう差別化ってのは、誤差みたいなもんですよ」となっていることはよくあります。大学受験コンサル業界は、全米で3万人の個人事業主や零細企業が、地元でよろしくやっているような状況です。そうした土俵で同じように戦ってしまっては、僕も地元のバーで飲み友おじさんと野球見て酔っ払って奥さんに怒られるような小さな男で終わってしまいます。
7500億円のファンドサイズを誇るシリコンバレーの有力VCのNorwest Venture Partnersより以前デューデリジェンスを受けた時のことです。「どんなビジネスをやってもらっても結構だが、5年で100億円の売上を超えるビジネスをやる気がないなら、ここで話をやめよう。お互い時間の無駄だ。」と言われました。Netflixの1号投資家のFoundation Capitalにもミーティングのチャンスをもらいました。「うちは次のNetflixを探している。そこを狙うような野心的な成長を狙わない投資家には、興味がない。」と言われました。
了解しました。皆さん、スタートアップにはそういう成長を求めるのだと。レッドオーシャンに飛び込み、差別化によってブルーオーシャンを狙うのはいいのですが、ミクロサイズのブルーオーシャンを狙ってもいけないということを学びました。
ある日、インターン君が僕に的確な表現でこの状況を描写してくれました。「Leoさん、起業って難易度設定をミスったクソゲーみたいっすね。」堅実に売上を立てながら、クソゲーを全クリするようなクリエイティブな戦い方も同時に達成しなければならないのがスタートアップの宿命なのでしょう。
教訓4: ほとんどの人は経済合理的に動く
では、顕在市場のニーズに沿ったプロダクトを提供しつつ、どうやって競合と一線を画す成長ができるのか。必要なのは「お財布まわりのサプライズ」だと思います。具体的には、既存の選択肢と同等かそれ以上のユーザー体験を提供しながら、消費者目線ではコストが半分になるとか、販売者目線では売上が2倍になるといった類の話です。
例えばUber。 民間人ドライバーの余った時間と彼らの保有する車両資産を活用することで、地点Aから地点Bまで移動するという体験を、タクシーの半額程度のコストで実現し、世界中のタクシー業界を揺るがす成長を遂げました。
僕がベンチマークしたプログラミング学校のラムダスクールは、100〜200万円という高額商品を競合が一括前払いで販売する中、あえて全額後払いにしたという点でユーザーを驚かせました。
本当にそんなサプライジングなことをやって大丈夫なのか?という批判は当然出てきます。しかし、それを恐れているだけでは顧客を一気に流入させるような圧倒的な違いは出せません。どうやったらそれをやってもビジネスモデルが破綻しないか、創意工夫し、その上で思い切ってリスクを取れるかが腕の見せ所なのではないかと思います。
教訓5: 安いだけでは顧客に届かない
サプライズはお財布面に限った話ではありません。これまでは、オンデマンド配車の場合は電話でタクシー会社に連絡し、自分の居場所を口頭で伝え、場所次第で15〜20分待ち、乗り込み行き先を運転者にインプットし(時には「そんなところ知らないねぇ」とか言われる)、到着時に決済をする(承認に時間はかかるし、カード機械が壊れていることも)という体験でしたが、これらをアプリでほとんど瞬時に完結できます。乗車体験としても、タクシーをむしろ凌いでいると言えます。
僕がモバイルアプリローンチ前のインタビューをした際は、どういうアプリなら使われそうかというテクニカルな部分にとらわれ、形式を飛び越えてどんな価値を提供したら、マグニチュードの大きい変化がユーザーに提供できるのかという本質的な議論を骨抜きにしていたところがあります。
その点、WeAdmitが生まれる過程では、想定顧客(親)の声に耳を傾けつつ、彼らさえも気づいていない問題意識をとことん深掘りし、絶対的に彼らに提供できる価値を自分たちで定義し、提案していきました。もちろん彼らが言葉にして欲しいと言ったものは全て叶えた上での話です。これがローンチ直後の契約獲得につながったと思っています。
教訓6: アンテナを張って街へ出る
ビザ却下の憂き目の中で想定以上の期間を日本で過ごすことになった時「こんなところに閉じ込められてしまい、なんてことだ」と思っていました。しかし、チャンスはどこにだって転がっているものです。WeAdmitはオンラインという事業特性上、講師が受講生とハイタッチな関係を構築し、受講生の合格へのモチベーションを育てていくことが鍵になります。これらの設計思想に影響を与えたのが、ライザップ(受講生との関係構築方法)や書籍「絶対内定」(エントリーシートの構成が大学受験のエッセイと似ている)ですが、これらに気づけたきっかけは、駅などでライザップの広告や、奇妙なくらい没個性的な格好をした就活中の女子大生をよく見かけたところにありました。
友人に誘われて何気に足を運んだ都内のスタートアップ交流会で会った方から、シリコンバレーで起業中の楽天元CTOの安武さんを紹介していただきました。安武さんから学ぶことが山ほどあった点でも既にお腹いっぱいのところに、安武さんからの紹介で、Edtech領域で世界的に有力なスタートアップEdmodoの中核メンバーであったKothari兄弟(NASDAQ上場経験のある連続起業家)が弊社アドバイザーに就任する運びになるなど、アンテナを常に張っていることでチャンスを掴むことができました。
東京で会いましょう
6月頭から2〜3週間ほど、資金調達のため日本に帰国します。既に予定がかなり埋まっていますが、もし幸いにも本投稿を読んで弊社事業に興味を持っていただけたエンジェル・VC・事業会社の方がおりましたら、まだ調整間に合いますので、FacebookメッセンジャーかEメールで気軽にご連絡ください。
東京の起業家とのネットワーキングもできたらと思います。「畜生!もう起業なんかしてたまるか!」と弱音を吐いたこともありましたが、今では「もう起業なんてしないなんて言わないよ絶対」的な勢いで爆進中です。このブログを読んでみて、僕が話を聞きに行って学ぶべき方や、僕が何かお役に立てそうな方がおりましたら、ぜひこっそり教えてください。
Special Thanks
アプリ事業苦戦時に励ましてくださった東京の皆さん、サンフランシスコの起業家仲間であり、本投稿の監修をしてくれた内藤聡君(マスミサイルの教科書大事)、いつも起業を思い切りさせてくれ、死の谷の自分を救ってくれた裏方の「協働」創業者である妻への感謝の言葉をもって、このブログの結びとさせて頂きます。