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第9回 | フェラーリの最新車デザイン・性能情報をお届け

至高の限定モデル“フェラーリ・スペチアーレ”の魅力

パフォーマンスはもちろん、スタイリングの美しさからもスポーツカーファンの“憧れの的”であり続けるフェラーリは、数年に一度、「スペチアーレ」と呼ばれる限定モデルを発売している。歴代スペチアーレはどれも、ロードカーの頂点というべきパフォーマンスを備えた至高のモデルだ。ごく限られた人だけが手にすることができる究極のスーパーカーとはいったいどんなものか? 歴代スペチアーレの魅力を探ってみよう。

「F40」から始まった顧客のための限定高級モデル

スペチアーレの原点は、1984年のジュネーヴ・ショーで一般公開された「288GTO」である。このモデルの目的は、グループBレースに参戦するホモロゲーションを取得するため。ピニンファリーナによる美しいスタイリングは、レースで勝つためのものだったのだ。発表されるやいなや熱狂の嵐を巻き起こした288GTOは、当初予定していた200台を上回る272台が製造された。「288GTO」の名で呼ばれるこのモデルだが、フェラーリの公式なコードネームが「GTO」であることは意外と知られていない。

初めて「限られた顧客のための限定高級モデル」として生産されたのは、1987年に創立40周年を記念して作られた「F40」である(下の写真の前列左)。エンジンは、出力351.5 kw(478 hp)を発生する3リッターのV8ターボ。チューブラーフレームに、フェラーリ初となるコンポジット素材のボディパネルが組み合わされた。世界がスーパーカーブームに沸き立つなか、F40は歴代スペチアーレ最高となる1311台が生産された。バブル絶頂期の日本では価格が高騰し、一時は2億円を超える高値がついたという。F40は、創業者である故・エンツォ・フェラーリが生前に発表を見届けた最後のニューモデルとなった。

F40生産終了から3年後の1992年、フェラーリは創立50周年を記念した「F50」(下の写真の前列右)を発表。同社が「公道を走れるF1にもっとも近いモデル」というこのモデルは、高いパフォーマンスを実現するため、パワーステアリングはおろかブレーキのサーボアシストも備わらないスパルタンな“マシン”。カーボンファイバー製のシャシーに、出力382 kw(520 hp)を発生する4.7リッターのV12自然吸気エンジンが搭載された。生産台数は、349台。「完売が見込める台数より1台だけ少ない数」として発表されていた台数だったが、F40の3分の1にも満たないこの数は、90年代に入っての世界的な不況が影響していた。しかし、それによって希少価値が高まったのだから、皮肉なものである。

購入希望が殺到した1億6000万円のラ・フェラーリ

21世紀に入ると、スペチアーレ・フェラーリは“究極のスポーツカー”という位置付けを確固たるものにする。その最初の1台となったのが、創業者の名を冠した「エンツォ・フェラーリ」だ。このF1マシンのようなスタイリングと空力性能の持つボディデザインも、ピニンファリーナによるものだ。V12エンジンは6リッターまで拡大され、最高出力は485 kW [660 hp]にも達した。それまでの3ペダルMTに代わって、2ペダル式の「F1シフト」が採用されたのも、トピックのひとつ。これによって、0-100 km/h加速3.65秒、最高速度は350km/hに達した。生産台数は、「完売が見込める台数より1台だけ少ない数」である399台。

そして、現在のところ最新のスペチアーレが、2013年に登場した「ラ・フェラーリ」(メイン写真と下の写真)である。F1マシンと同じ手法で作られるカーボンファイバー製シャシーに載るパワートレーンは、同社初となるハイブリッド。6.3リッター、V12エンジンと電気モーターの組み合わせにより、963 CVものトータル出力を発生する。トランスミッションには、新たにデュアルクラッチ式を採用。7秒未満で0-200km/hをこなすというから、その加速は想像を絶する。生産台数は例によって「1台だけ少ない」499台とされたが、世界中で高級車市場が拡大したことにより、邦貨換算1億6000万円という超高額車にもかかわらず、1000を超える購入希望があったという。日本にも数台が納車されたようだ。

ラ・フェラーリの登場により、スーパーカー界のテクノロジーやパフォーマンスが新たなフェイズに突入したことは間違いない。永遠のライバルたるランボルギーニや、パガーニ、ケーニグセグといった新興のスーパーカーメーカーが続々と超高額スーパーカーを発表するなか、ラ・フェラーリに続くフェラーリ・スペチアーレがどのような姿とパフォーマンスを持って生まれてくるのか。ごく限られた人しか手にすることができないとわかっていても、夢を膨らませずにはいられない。

Text by Muneyoshi Kitani

Photo by (C)Axion23 (C)Amaud25(288GTO)

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第28回 | フェラーリの最新車デザイン・性能情報をお届け

フェラーリF8トリブート──最後のV8ミッドシップなのか

ジュネーブモーターショーで初披露された『F8 Tributo(トリブート)』。フェラーリはそのクルマを、「跳ね馬の歴史上、最高峰の2シーター・ベルリネッタ」と称した。ベルリネッタは、イタリア語で2ドアの高性能クーペを意味する。その名には、「オリジナルモデルの妥協なきエンジン・レイアウトとパワーへのオマージュ」を込めたという。オリジナルモデルとは、ミッドリヤエンジン・スポーツカーの『488GTB』のことだ。『F8トリブート』は、『488GTB』をベースにした事実上の後継モデルとなる。

『488GTB』の後継モデルとしてデビュー。最新のV8フェラーリは空力性能がすごい

『F8トリブート』のデザインは、『488GTB』も手がけたフェラーリ・スタイリング・センターによるものだ。後継モデルであり、ベースも同じなだけに、シルエットには共通項が多い。フェラリスタでなければ、一見して違いを見分けられないだろう。しかし、細部を見ると、先進のエアロダイナミックを実現するために、サーキットで培われた経験が惜しみなく注ぎ込まれていることがわかる。その結果、従来比でエアロダイナミック効率が10%も向上した。

エンジンの熱処理も、『488GTB』から進化。『488GTB』のスペシャルバージョン『488ピスタ』から受け継いだ部分が多い。たとえば、ダイナミックエアインテークは、ボディ側面後部からリアスポイラーの両側に設置場所を移した。また、後傾マウントのフロントラジエーターによって、熱せられた空気がフラットなアンダートレーによって導かれるため、ホイールアーチ内でエアフローの熱相互作用が最小限に抑えられる。これによって冷却風のフロー管理が改善し、エアの温度を15度低下させている。

フロントにも『488ピスタ』で初めて導入された「Sダクト」を採用。デザインは再設計で、ダウンフォース全体における「Sダクト」の貢献度が15%まで向上した。また、フラットタイプの新型LEDヘッドランプを採用したことで、よりシャープさが増した。これは後述するブレーキの進化にもつながっている。

リヤでは、新デザインのレキサン(ポリカーボネイト)製のリヤスクリーンが印象的だ。透明で、エンジンルームを透かして見ることができる。これは、フェラーリのもっとも有名なV8モデルである『F40』の特徴的なデザイン要素を現代的にアレンジしたもの。細長い羽根板を一定の間隔を空けながら連続的に並べたルーバー形状は、リヤで発生するダウンフォースの増加に加えて、エンジンルーム内の熱気排出を促すという。

『F40』、そして『308 GTB』。歴代のV8モデルをオマージュした『F8トリブート』

伝説のV8モデルを取り入れたデザインは、『F40』由来だけではない。リヤスポイラーの意匠は、『F8トリブート』の始祖ともいえる1975年の『308 GTB』をはじめ、初期の8気筒ベルリネッタのシンボルのひとつを復活させた。具体的には、テールライトの一部を包むことで視覚的に車輌の重心位置を下げ、ツイン・ライトクラスター(片側2灯式ライト)とボディカラー同色のテールパネルというクラシックな構成を蘇らせている。

インテリアは、ミッドシップベルリネッタの伝統を基本的に踏襲した。それはつまり、ドライバー重視のコックピットデザインということだ。ただし、ダッシュボード、ドアパネル、トランスミッショントンネルなど、個々の要素はすべて再設計されている。

コックピット周りは、最新のフェラーリそのもの。新世代HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)に加え、新デザインのステアリングホイールやスイッチ類、円形のエアコン吹き出し口、新型7インチのタッチスクリーンディスプレイなどが採用されている。ちなみに、ステアリングホイールは従来よりも小径化。グリップ感覚が強化されたことで車輌の挙動がより明確につかめて、細かなステアリング操作に反応するようになった。

『F8トリブート』は歴代のV8ミッドシップのなかでもっとも強力なエンジンを搭載

心臓部は、排気量3.9LのV型8気筒ガソリンツインターボエンジン。最高出力は720ps/8000rpm、最大トルクは770Nm/3250rpmで、『488 GTB』に対してパワーが50psアップ、トルクは1kgm強化された。フェラーリが通常のオンロードモデルに搭載してきたパワーユニットのなかでは、もっともパワフルなV8であり、ターボエンジンのみならず、あらゆるエンジンに対してのベンチマークを打ち立てている。

さらに、『F8トリブート』は『488GTB』から40kgの軽量化を実現。当然、爆発的な加速力もより増している。ターボラグをまったく感じさせることなく720hpの出力を発揮し、0-100km/hまでは2.9秒、0-200km/hまでは7.8秒で加速。最高速度は340km/hだ。当然、刺激的なエグゾーストサウンドを堪能できることはいうまでもないだろう。

これらの跳ね馬のパワーを受け止め、扱いやすい駿馬にしてくれるのが、先進のビークルダイナミクスソリューションである。最新バージョンのサイドスリップ・アングル・コントロール・システムを搭載し、マネッティーノ(運転モードセレクト)の「RACE」ポジションで最新バージョンのフェラーリ・ダイナミック・エンハンサー(FDE+)を作動させる。これは、これまでにない初の試みだ。これらのテクノロジーにより、多くのドライバーが限界域でのパフォーマンスを簡単に引き出し、コントロールできるようになった。現行レンジ・モデルでもトップレベルのパフォーマンスと抜群のコントロール性能を実現している。

また、コンパクトなフラットタイプの新型LEDヘッドランプを採用したことで、ブレーキ冷却用の新型インテークをバンパー外側のインテークと一体化することに成功。それにより、ホイールアーチ全体の気流が改善され、高速化した車体の減速をブレーキシステムのサイズを拡大せずにスムーズに行うことができるようになった。

『F8トリブート』は、次世代のV8ミッドシップモデルへのワンポイントリリーフ?

フェラーリのV8ミッドシップは、これまで『308』『308QV』『208』『328』『348』『348G』『F355』『360モデナ』『F430』『458イタリア』『488GTB』、そして『F8トリブート』へと進化してきた。ただ、厳密にいえば、『F8トリブート』は『488GTB』の延長線上にある。

ということは、遅からずV8ミッドシップの新世代モデルが発表されるのかもしれない。さらにいえば、V8ミッドシップというパワートレイン自体が、つぎの次元へと進化するといった戦略も考えられなくもない。

ハイブリッドにEVと、パワートレインの進化はどんな自動車メーカーにも押し寄せる。それはスポーツカーブランドも例外ではない。もし、『F8 トリブート』が伝統を受け継ぐ最終盤の一台だとしたら、それはそれで、歴史に残る名車となりそうだ。

Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) Ferrari S.p.A.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Ferrari F8 Tributo オフィシャル動画
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