20年に渡って生産が続けられた“宇宙船”
DSは1955年に行われたサロン・ド・ロト(現在のパリモーターショー)で初披露された。2CVをデザインしたことでも知られるフラミニオ・ベルトーニの手によって作り上げられた流線型のデザインは、埋め込まれたヘッドライト、ラジエータグリルを廃したフロントマスク、窓枠のないサッシュレスドアの採用など、同世代のクルマのどれとも似ていない。そのあまりに個性的なデザインは“宇宙船”と評されるほどであった。
また、ボディは最低限の強度骨格を構築し外板を装着する手法がとられていたので、フロアパンのみで十分な強度を持ち合わせていた。そのため、ルーフをカットオフしたコンバーチブルや、ルーフのリアを伸ばしたワゴン、さらにはリムジンまで作られ、大統領専用車としても愛用された。特に第18代フランス大統領のシャルル・ド・ゴールはDSを気に入り、あらゆる公式行事に利用したといわれる。
デザインのみならず、メカニズムにも革新性は表れていた。DSは従来の金属バネを使用したサスペンションではなく、ガスとオイルによって衝撃を吸収する「ハイドロニューマティック・サスペンション」を採用。これにより、荷重の変化や路面の変化に左右されず車高を一定に保つ方向に作用するため、乗り心地も“宇宙船”の名に恥じないものとなっていた。さらにサスペンションに使われたオイルは、ブレーキシステムやパワーステアリングのオイルも兼ねており、乗り味も操作感も従来の物とは違った仕上がりとなっていたのである。この独創的なDSはデビューから20年にも渡って生産が続けられたことからも、どれだけ先進的なクルマであったかがわかるだろう。
優雅なスタイリングと乗り味からは想像がつかないかもしれないが、実はDSはラリーフィールドでも活躍を見せている。エンジンパワーこそ目を見張るものはなかったが、前輪駆動の安定性と悪路をしなやかにクリアするハイドロニューマティック・サスペンションによって安定した走りを見せ、1966年のモンテカルロラリーでは総合優勝を果たしているのだ。
永遠の価値を求めて「DS」ブランドが独立
そんなDSを取り巻く環境にこのところ変化が訪れている。まず、1975年のDS生産終了から34年後の2009年、この年に行われたジュネーブモーターショーで1台のコンセプトカーが発表された。その名は「DSインサイド」。もちろん、このDSは往年の名車の名前が由来であることは明白で、同年末にシトロエン・DS3の名前で販売が開始された。その後、DSの名前はシトロエンの高級車シリーズの名前となり、DS4、DS5が相次いで投入されたのだった。
そして2014年6月1日、フランスの乗用車産業に高級車セグメントを本格的に復活させることを目標に、新たに「DS」ブランドがシトロエンから独立して設立された。その命題は、初代DSの“イノベーション”と“粋”を永遠の価値として形にすることである。初代DS生誕から60周年の今、どんな新たなDSが生まれてくるのか目が離せない。
Text by Koichi Kobuna